わが夢の街・ウイーン



(注)政府機関で使用する国旗には中央に国章である鷲が描かれている
憧れの音楽都市ウイーンへ到着した。
早朝プラハから前に紹介したチロリアン航空に搭乗し、約一時間の道のりだ。
云わずと知れたオーストリア共和国の中心というより、ここは世界の中でも屈指の音楽の都だ。  ま、いろいろな表現が出来るが、ヨーロッパのクラシック音楽のメッカといってもよかろう。
今回の中欧を巡るツアーのハイライトと言ってもよい。
元旦に、ここの樂友協会大ホールで行われる恒例のウインナワルツの演奏会は有名で、わが国でも毎年実況生放送が行われているが音楽好きにとっては一度は訪問してみたいところだ。
ここを訪問したからには是非とも生演奏を聴きたいと思っていたが、何とかその願いをかなえることが出来たのは本当に幸運だった。


◆感じたこと
ここはヨーロッパでも有数の観光地であり見所は無数にある。
狭い範囲に集中しているので団体さんの貸し切りバスで効率よく回ることが出来、ところどころでフリータイムもあったので、比較的ゆっくり出来たが見所が多すぎて滞在3日間では如何ともしがたい。
街全体が歴史と美術品みたいなところであった。これ等の有名スポットは観光ガイドなどでも詳しく述べられており、今更解説するまでもないので、テーマを絞って雑感を述べるに留めたい。
ただ特徴的な事を一つだけ上げると、西暦1200年頃から約700年近くも続いたハプスブルク家縁の史跡や蒐集美術品が数多く現存し、改めてその栄光と権力の強大さに驚かされたことだ。
ここは戦後一時期、国連統治下に置かれ、国際都市に脱皮したのだが、ながい歴史の中で刷り込まれた「ハプスブルク家の都」という要素は依然として色濃く残り、一種の色香を与え続けていると感じた。
この地の文化と歴史を形作っていると言ってもよかろう。

◆ホテルの周辺で

朝からバスに乗りリングの中を中心に観光し、夕方シェーンブルンホテルにチェックインした。ここは日本人団体観光客がよく利用するホテルらしい。
場所はヒーツィングというところにあった。いわゆるウイーンリンク外の郊外に位置しているが、近くにはシェーンブルン宮殿、ヴェルデヴェーレ宮殿などの史跡も豊富で環境は申し分なかった。
かつては貴族の別荘地であったとのことだが周囲には素晴らしい高級邸宅が並び、ホテルのすぐそばにある郵便局はかつてマリアテレージアの時代に皇帝居館と云われた由緒ある建物だった。
夕食までには間があったので宮殿の庭園に出かけた。フランス風の庭園で大きな立ち木が沢山並んでおり、12月の夕方で風はとても冷たかったが、勤め帰りと思われる多くの男女が散策していた。園内には大きなオランジェリーや動物園まであり、素晴らしい庭園だった。


パークホテル・シェンブルン

ホテルの中庭

郵便局(かつては大臣公邸)

ヒーティングの街並

シェンブルン宮殿

宮殿内部

ヴェルヴェレーデ宮殿

◆カフェ モォツアルトでウインナコーヒーを飲む
この日は午前中で団体行動は終りシュテファン教会で解散し午後は自由行動となった。昼食後、家内とケルントナー通りをぶらぶら歩き、オペラ座の近くまで来たので何処かで一休みしようと辺りを見回すと「モーツアルト」というカフェがあった。
ビルの一角にあり立派な店構えであった。そして「モーツアルト大好き男」としては先ず名前が気に入った。
中に入ると店は広く調度品も重厚で高級レストランのような雰囲気だった。店の客はまばらだった。
黒のスーツに蝶ネクタイをつけた立派なウェーターがメニューを持って現れた。コーヒーの種類が余りにも多く、迷ってしまい、しばらくメニューを眺めていると、向こうから「ウインナコーヒーか?」と訊いてきた。

「ウインナコーヒー」というのは日本人が勝手につけた名前で本来こんな飲み物はないことは知っていたが、仕方なくJaと答えた。ついでにケーキだがこれはザッハートルテを直ちに注文した。
チョコレートのケーキはヴォリュームたっぷりで少し甘すぎると思ったがコーヒーは大変美味しかった。

少し落ち着いて周りを見ると日本人観光客と思しき女性が一人でコーヒーを楽しんでいた。後で知ったことだがこの店は映画の「第三の男」で有名になった店だとか‥
ウイーンの人々とカフェの関わりは深く、日本で云う喫茶店とは質をことにしているようだ。単なる珈琲店ではなく、リラックスし何時間でも座っていることが出来る憩いの場なのだ。アルコールや軽食も用意している。
しばらくこの店の雰囲気を楽しみ、帰りがけに箱に入ったチョコレートを買ったが、ここで売っていたのはよく日本で見かけるモーツアルトの名前の入ったチョコレートではなかった。


シュテファン教会の内部

馬車ステーション

ケルントナー通り

オペラ座

カフェモーツアルト

新宮殿

王宮

美術館
シュテファン大聖堂の写真へのリンク

◆ウイーンコンツェルトハウス
ウイーンはコンパクトな中に豪華さを兼ね備えた不思議な都市である。数多くある宮殿、記念碑、歴史的建造物、世界のありとあらゆる美術工芸品を集めた博物館や美術館。しかも、限られた地域に集中しているので効率よく見ることが出来る。
翌日の帰国を前に、3日目の昼食後解散になり自由行動となった。そこからUバーン(地下鉄)でハイリゲンシュタットまで行き、ベートーベーンその他作曲家の墓に行ってみたかったが、夜の予定もあるので諦め、一旦ホテルに引き返してプランを考えることにした。私はどうしてもコンサートかオペラを観たいと思い、同行のツアーコンに尋ねてみた。
彼女はベテランの女性ガイドで大変経験豊富で有能な人だった。直ちに調べてくれ、フォルクスオーパーのオペレッタ、コンツェルトハウスでコンサートがあることを教えてくれた。チケットは少数だが当日売りがあるとのことだった。
みやげ物の物色や当日売りのチケットを窓口で買うため、3時過ぎにはホテルを後にした。私は背広にネクタイ、家内はツーピースの正装であった。
Uバーン(地下鉄)でヒーツィングから市の中心であるカールスプラッツに向かった。Uバーンは快適な地下鉄で、危険を感ずるようなことは全くなかった。路線は地下深くを走るのではなく浅いところを走り時々地上の景色が現れたりした。半地下のような感じであった。
直ちにその足ですぐ傍の歌劇場に行ってみた。この日の出し物はレハールのオペレッタだった。当日売りがあったが、少し歩いてもう一つのコンツェルトハウスにも回ってみた。
勝手が分からず少しウロウロしたが館内に入りチケット売り場を見つけ出すことが出来た。窓口には中年の女性が座っていた。
「チケット2枚下さい」とたどたどしいドイツ語で云うと「今夜コンサートは二つあるがどちらが希望か?」と訊くではないか。
エエッ!と思い表示板に目をやるとなるほど2つの案内があった。一つはモーツアルト、ベートーベンのオーケストラ演奏、もう一つはシェーンベルクか何かの近代作曲家の室内楽演奏会だった。ここには2つのホールがあるらしいのだ。
即座に口をついて出てきた言葉はモーツアルト!だった。窓口の女性は笑顔で大きくうなづき、シートを問わなければ用意できるとのこと‥ シメタと思ったがカネを払う段になって困った。チケット2枚で1000シリングまでは理解できたが、端数が分からず財布の中味をそのまま差し出すと、彼女は困ったような顔して私の財布から200シリング抜き出し、同意を求めた。一枚600シリング(日本円で6000円)だった。日本人でもこんなチケットの買い方をする客は先ずいないだろうから彼女もビックリしただろう。ここでもまた「田舎モノの赤ゲット」ぶりを発揮してしまった。まことに恥ずかしいことだが仕方がない。
開始までたっぷり時間があったので、ぶらぶらしたり食事を取ったりしてヒマをつぶした。

ホールの中はさすがだった。内部は壮麗というより大変落ち着きがあり、ながい歴史を感じさせるつくりであった。聴衆は年配の男女が目立ち東洋人と思しい人は殆ど見かけなかった。皆キチンとした背広かドレススタイルであった。
この季節ウイーンの夜は寒く、女性はオーバーコートにブーツというスタイルの人が多かった。
席は最前列に設けられた臨時のシートであり、会場に入った際、分からずガイドに案内してもらいやっと座ることが出来た。

当日の演奏はイギリスの世界的指揮者のサー・ネビルマリナーが指揮するウイーン室内管弦楽団の演奏であった。曲目はモーツアルトのフィガロの結婚序曲、同じくフルートとハープのための協奏曲、ベートーヴェンの交響曲2番などだった。いずれも熱演だったが特にベートーヴェンは素晴らしい演奏だった。
アンコールにモーツアルトの協奏曲の第三楽章が演奏された。満ち足りた気分で帰路に着いた。
樂友協会はムリとしても世界的な音楽ホールで本場モノの演奏を聴けたことは大変よい思い出となった。

◆ウィーンよ さようなら

クリスマスシーズンにツアーなど行う欧米人は居ないそうだ。キリスト教徒はこの時期はむやみやたらに出歩かないとのこと。家に居てクリスマスの準備をしてキリストの降誕を皆で祝うのだ。
この時期観光などしているのは日本人やその他東洋人だけらしい。しかし、観光客が少ないというのはよい面もある。サービス面では落ちるかもしれないがツアー代金は正月やゴールデンウイークの半額ぐらいに設定されているのが通例で、時間が取れる人にとってはお勧めだ。
このツアーで親しくなったお二人の中年のご夫人が居た。友人同士で参加していたようだ。そしてお二人ともご主人の転勤に伴い海外生活の体験者でドイツ語も堪能でヨーロッパの事情には詳しかった。私達がかつて住んでいた茨城県日立市に近い「ひたちなか市」に在住していると伺った。そんなことでお互いに親近感を持ったのだ。
帰国の朝、ロビーで一休みしていると、彼女等はかつて生活していたデュッセルドルフ経由で帰るので別行動をとると別れのご挨拶があった。 「いいなぁ‥」と少しうらやましかった。


帰国の朝ホテルのロビーで

右上の写真はCDのジャケットである。このCDは面白い。ジャケットの表題は「シェーンブルン宮における皇帝の音楽会」と書かれている。
収録されている音楽は古典派のハイドンやモーツアルト以前にウイーンで活躍していた作曲家の作品だ。
ロイター、モン、ヴァーゲンザイル、フックス、ホルツバウアー等のオーケストラ曲だが普段耳にする機会はないと思う。
云うまでもなくウイーンを象徴しているのはヨハン・シュトラウスを始めとする一族のウインナワルツだ。しかし、優雅で美しい音楽の数々を聴いていると、レオポルド一世の時代から造営が始まり、マリア・テレージァの時代に今の姿になったと云われる壮麗なロココ調の内部の模様を思い出す。そして、こんな音楽が宮殿で行われた様々な宴や儀式の折々に演奏されたのだろう‥と想像し本当に楽しくなる。
歴代の皇帝たちは音楽文化に対するよき理解者であり、それを育んできたのだ。(04/02/04)