第21回 海外の生活と教育を考える会 概要
(2000年12月7日(木) 14:00〜16:30 於:国際文化フォーラム)

テーマ:『千里国際学園の実践から---国際学校の併設---』
 * 出席 21名。話題提供=藤澤 皖
外務省 大臣官房 子女教育相談室
* 開会挨拶・司会=曽我部泰三郎
(元 東京銀行)

T.講話の概要

(1)教育理念と学園構想
千里国際学園は、ライシャワー氏が提唱し、文部省の臨時教育審議会でも取り上げられた「新国際学校」(国内育ちの一般生徒・帰国生徒・外国籍生徒が共に学ぶ学校)の構想が、大阪国際文化公園都市構想「21世紀ビジョン」(箕面市と茨木市の地域開発)と合致した所に生れた。    *Osaka Inter-Cultural Academy
従来の帰国子女教育から「地球市民教育」へ、つまり日本人としてのアイデンティティではなく、人間としてのアイデンティティを育むことを目指すのが出発点だった。異文化・異民族などといっても、むしろ人間としての共通な部分を見ていく、混血者も「ハーフ」ではなく「ダブル」と捉えていく姿勢を大事にすること。また、多文化の中で自己の生き方を確立し(信念)、同時に絶対者への畏敬の念(信仰心)も失わないようにしたいということだった。
具体的には 学園の中に“一条校”である大阪国際文化中学校・高等学校(OIA。7〜12年生。昨年、千里国際学園中等部・高等部=SISと改称)と、“各種学校”である大阪インターナショナルスクール(OIS。幼稚園〜12年生)とが共存する形となった。補助金獲得と指定寄付金の関係(国際学校は対象とならない)で、設立申請段階では一条校のエリアをできるだけ大きく見せる必要があったが、開校後は施設を共有して使っている。

(2) 施設・設備を共同使用する苦労など
「40人学級」が目標とされていた時代に、国際学校の基準(学級20人以下)では、 文部省の補助金がもらえないため、「24人を限度」でOIS側と妥協した。 また、混乱を避けるため、学年は「7年生〜12年生」と呼ぶことにした。
共有部分の中心となる図書室とメディアセンターは、校舎の中央に配置したが、「勉強は自分でするものだから、一番便利な所へ配置」の発想がある。結果的には双方の校長室まで隣合せで中央に置かれた。理科実験室(生物・化学・物理・天文など)も共有で、小規模クラスに分ければ分けるほど奪い合いが生ずるのが悩みだった。
感性を磨くことにも留意したが(とくにICU高校で出来なかった反省もあって)、音楽活動を豊かにするため器楽用音楽室、合唱用音楽室のほかに、複数のパート練習室や小ホールも整備した。美術関係では女子美時代の経験が活かせて、デザイン室、アトリエ、陶芸室(ロクロと窯まで)と贅沢なものになった。
運動施設では、運動場、体育館、小体育館のほか、トレーニングジム(器具は日本で揃えると高いのでアメリカから輸入)、温水プール、幼稚園遊び場(遊具類も)なども整備され、一条校では他の例がないほどである。さらに交流スペース(語らいの場)を設ける意図で、生徒用ラウンジ、中庭、多くのベンチも整備された。
カウンセリングルーム、ガイダンスルームは日本の学校設置基準にはないので、経営者側はかなり抵抗したが、実現できた。一条校で プロのカウンセラーを常駐させている学校は 他にないと思う。
双方の教員が話し合う会議室(同時通訳可能)のほか、教員用ラウンジも設けられ、互いの情報交換の場として役立った。OIA(SIS) に倣って OISにクラス担任が置かれるなど、OIS側も日本の良い所は柔軟に取り入れている。

(3) 教員・スタッフの確保の苦労など
文書処理や通訳などで 日英バイリンガル職員の確保は必須だが、最初は阪急電鉄と三和銀行から出向してもらえた。合同職員会議は 英語でやると不利なので 通訳をつけて行うが、スタッフによる同時通訳は 上手くいかなかった。
教員の雇用は、日本人教師(第1類)と外国人教師(第2類)とで異なる。第1類は私学共済対象の長期雇用であり、専門・人格・英語力(不得意でも前向きであること)を勘案して選ばれる。 第2類は 国際学校の慣習が踏襲される短期契約で、募集に当たっては ボストンやアイオアなどでのリクルートフェアに参加している。OIA(SIS)にも外国人教師がおり、OISにも日本人教師がいるので、雇用形態の違いで揉めることもある。
契約社会との付き合いは大変である。第2類の契約では 労働条件も細かく規定しなくてはならないし、保険も異なる。また、外国人教師は出勤日数で文句を言わないが、「本来の仕事」と違うことには抵抗する (例: 「掃除はアカデミックな仕事ではない」と、生徒への清掃指導を嫌がる)。

(4)指導方針や課外活動など
合同宿泊研修会を重ねて、「Informed, Caring, Creative Individuals for Contributing to a Global Community (地球社会に貢献するための、適切な情報を持ち、気配りができ、創造的な個性を育むこと)」が指導理念として採択された。
細かな校則はないが、「Respect for Self(自分を大切に)」「Respect for Others(他人を大切に)」「Respect for Learning(学習を大切に)」「Respect for Environment(環境を大切に)」「Respect for Leadership and Authority(リーダーシップと権威を大切に)」 の「5つのリスペクト」が定められている。 注:“権威”は日本語では伏せられている。
OISは国際バカロレア(IB)を目標としているが、OIA(SIS)は日本の学習指導要領の問題もあり、「国際バカロレアの理念の採用」(全てをIB仕様にできないが、できることはなるべくやろう=国際的に通用する学力の探求)に留まった。 ・ 週5日制だが、初期には6日間で一つのサイクルを作って回していくことで、祝祭日の影響を最小限にしていた。ただし、OISの幼稚園と小学校には無理があり、修正の課題があった。また、「スタンフォード方式」とも言われるモジュラー・システム(15分刻みの授業で、休憩時間を敢えて日課に組まない=トイレは行きたい時に行けばよい)の時間割が初期には組まれたが、時間割編成は数年でパンク状態に陥った。(→ 60日学期完結制)
「Shared Classes(共通科目)」として7年生以上に Immersion Programも組まれた。音楽、美術、体育、コンピューター(最近やっと、情報科の免許が文部省に認められたが、当時はアメリカの教員免許で滞欧)、英語、日本語、Joint History、Theory of Knowledge、Community Serviceなどは、双方の生徒が一緒に主に英語で学ぶこととなった。  例:日本史の教師は、ICU卒のインド人(バイリンガル)
OIA(現SIS)は、OISが夏休みに入った後(6月〜7月の4週間)、特別授業とアウトドア活動(キャンプ)を行う。
スポーツでは国内の公式試合に参加資格が与えられず(一条校と“各種学校”との混成チームのため)、辛い思いをしたが、マニラ、上海、北京、ソウル、カナディアン(神戸)、OISの国際学校6校でリーグ戦を組んだ。APACという米軍基地内のアメリカンスクールを含めたリーグ戦もあるが、これには教員(とくに欧州系、そしてOIA)の強い抵抗があって、なかなか参加できなかった。

U.自由協議の概要
             は話題提供者、 Q, F は参加者の発言

(1) 60日学期完結制について


4月〜7月、9月〜11月、12月〜3月の各12週間を学期とする発想は、どういうところにあったのか?
学校年度のずれをどう調整するか、発足当初から悩みで、幼稚園〜高校までの時間割を組むのは大変だったが、当時既に、国際基督教大学(ICU)で、「12週間x3学期」を導入済みであった。全ての科目を週に数時間ずつ年間を通して勉強するのではなく、一つの学期に6−7科目程度を集中して勉強することになる。


モジュラー・システムはどうなったのか?
OISの幼稚園と小学校もあるので、変則的な時間設定には無理があった。一校時を50分程度に固定した上で、中学・高校の全授業時間を7ブロックに分け、講座を配置した。生徒は自分の取りたい講座を選んでいける。


端から見ていて「コロンブスの卵」のような感じもするが、学期毎の講座設定と単位認定で、具体的にどんな効果が生れたか?
ICUの経験で、非常勤講師を少なくできることは分かっていたが、Shared Classes(共通科目)は、年度の途中で生徒が入れ替わる問題が一気に解決できた。また、実質的に「単位制=無学年制」となることで、「留年」をなくすことができた。細部の詰めは、双方の教員が知恵を絞り、時間割編成と生徒の履修選択のコンピューター処理ができるようになったことも財産になった。


学習指導要領で 「年間を通じて学習」することが定められている教科・領域があるが、その点はどう克服したのか?
その点は履修選択の際の指導で、結果的に一年を通じて履修した形になるようにしていけばよい。講座によっては、予め何かを履修していなければ選択できないものもあるので、履修選択の指導はキチンとしなければならない。


一般的な感覚で、年間授業日数は 200日なので、「65日x3学期」とすべきだと思うが?
OIS(SIS)では学期の他、特別授業やアウトドア活動もあるので、実質的に 200日となっている。保護者からも クレイムはない。

(2) 進路指導について


一条校からアメリカの大学を目指す生徒はどれくらいいるのか?
海外の大学を目指す者は、高校から OISに移るのが普通だ。とくに IB取得の問題がある場合はそうで、一条校である程度 OIA (SIS)で IBは取れるといっても、限られる。逆に、日本の大学に進む者は OISに移る。


進路指導はどうしているか?
入学説明会では「進路について学校は責任を持たない」と明言している。進路導部はあるが、自分で考えさせることを基本にしている。


履修選択で生徒の自主性をかなり認めているが、卒業単位は大丈夫か?
卒業認定の最低単位数は、他の高校と同じ。将来の仕事や勉強に必要なものは勉強しておくべきだと指導するので、単位不足はまずない。英検2級以上は3単位を認めているが、これは卒業必要単位以外の評価である。

                                     (以下 省略)



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