第22回 海外の生活と教育を考える会 概要
(2001年 2月15日(木) 14:00〜16:30 於:国際文化フォーラム)

テーマ:『文部科学省と国際教育課の業務のあらまし』
 * 出席 26名。話題提供=生田目 裕美
(文部科学省初等中等教育局 国際教育課)
* 開会挨拶=曽我部泰三郎
(元 東京銀行)、司会=鶴 文乃 (Group SEA代表)

T.講話の概要

(1) 省庁再編に伴う変更点(2001年1月6日施行)
従来、学校教育のハードウェア整備を担当していた教育助成局(財務課、教職員課、施設助成課など) が、ソフトウェア整備(学習指導要領、生徒指導、幼稚園教育など)を担当してきた初等中等教育局に全て吸収される形になった。担当者としては、一体化されたことで情報の流れが円滑になり、仕事はやり易くなったと感じている。
海外子女教育課が今まで教育助成局に置かれていた理由は、教員派遣が一番主の仕事だったこと、各国の教育主権との絡みで“海外”を前面に押し立てることが難しく“側面からの支援”に徹する必要があったからである。課の名前から「海外子女教育」が消えたことに衝撃を感じる人は多いが、現場では逆に“大きくなった”ような気がしている。
国際教育課には、旧海外子女教育課の仕事に、@旧高等学校課の国際理解・外国語教育及びJETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)、A旧国際企画課の国際交流事業、B留学生課の高校生留学に関する補助なども吸収した形となった。この体制で学校(幼稚園~高校)教育における国際化に関連する諸課題に一元的に対応する。つまり上記の諸事業は相互密接に関連しており、ノウハウや成果を相互に活用することにより、より大きな成果が期待できる。

(2) 海外子女教育の現状
平成12年5月現在の海外子女数(義務教育年齢)は 49,463名で、総数はここ数年は変化ない。しかし、バブル経済崩壊後、国内の景気後退と海外支店縮小などにより、家族引き揚げや派遣者の若年化・単身赴任化が進んでいて、海外子女の低年齢化が進行している。
日本人学校の在籍者数は16,699名で、前年から 530名(*3年間で2,500名)減っているが、「海外→海外」の“横滑り赴任”が多いことを背景に発展途上国でも国際学校を選択する例が増えているといえる。また、英語圏では幼児を現地校に入れる傾向も強い。しかし、こうした傾向は単に授業料収入の減に止まらず企業・政府からの補助金の減少にもつながり、日本人学校の経営基盤を揺るがせる問題となってきた。
今や日本人学校は“選択肢の一つ”でしかない。設立当初は「全ての在留邦人が結束して維持している」という意識もあったが、最近の在留邦人は「元からある」という捉え方に変わってきている。日本人学校の“魅力作り”も重点の置き方が難しい。日本に帰国することが前提の家庭では、英語教育やIT教育に重点を置くよう希望するのに対し、国際結婚・長期滞在(or半永住)の家庭では、日本語や日本文化に重点を希望する。また、派遣者の若年化によって就学前の子女帯同が増え、不適応児童・生徒の増加に対応するカウンセリングの充実や幼稚園の設置を希望する家庭も多くなっている。

(3) 2001年度の重点施策
外務省と連携して、派遣教員の任期を従来の「原則3年」から「基本2年+評価により2年延長」にしていく。つまり“教師の意欲・努力を評価”の観点から、任期も弾力的に考える形にする(管理職・一般教員とも平成13年度から実施)。また、学習指導要領改訂に伴い基礎学力の低下が心配されていることを受け、全国的に生徒の学力調査を実施するが、日本人学校でも全て実施する(小学5年〜中学3年。国・社・数(算)・理・英)。形式・内容は検討中。但し、補習校では行わない。
帰国子女総数もここ数年 12,000名前後で横ばい状態だが、低年齢化が進んでいる。従来、「帰国子女教育研究協力校」「帰国子女受け入れ推進地域」「外国人子女教育研究協力校」「外国人子女受け入れ推進地域」の4本柱でやってきていたが、“受け入れ”“適応”の発想から“一般生との相互啓発”を推進する発想に転換する。研究協力校はなくなり「帰国・外国人児童生徒と共に進める教育の国際化推進地域」の事業に切り替わる。具体的には、@特色ある教育課程作り、A帰国・外国人子女を生かした外国語学習の模索、B地域に開かれた異文化交流、を進めていくが、応募の自治体が多くて選定には困っている。
昨年6月〜12月に今後の海外・帰国子女教育の課題を洗い出す“懇談会”が持たれ、2月中には結果が発表される予定である。メンバーは池上久雄(日本貿易会)、松田煕(日本在外企業協会)、佐藤郡衛(東京学芸大学)、松本道夫(海外子女教育振興財団)、嶋幹夫(全国海外子女教育・国際理解教育研究協議会)、坂田直三(同志社国際高校)、渡辺紀子(フレンズ)、吉野百合(同)の各氏。
教育改革国民会議(2000年12月22日)の「17の提案」を受けて、「21世紀教育新生プラン」が作られ、今国会での法案整備を準備している。首相の進退問題等で国会がどうなるか気がかりだが、基礎学力向上、奉仕活動促進、地域に開かれた学校作り、不適格な教員の配置替え、世界水準の大学作りなどの具体的な行動目標が設定されている。

U.自由協議の概要             は話題提供者、 Q, F は参加者の発言

(1) 補習授業校への教員の派遣について


補習校には、在籍者数100名以上でないと教員が派遣されないし、日本人学校がある地域の補習校ではほとんど派遣されない。メルボルンなどは派遣してもよいのではないか?
限られた予算でやっているので……。    * 派遣教員一人につき 約2,000万円かかる?
今まで派遣教員と補習校の問題は大きな柱であった。アメリカでは、100名以上の補習校でも派遣教員のいない方が多い。日本人学校では「担任は派遣教員」が当り前で、補習校ではカリキュラムをどう組むかも分からない教師がほとんど(校長も素人で教員の指導すら出来ない状態)と、ギャップが大き過ぎる。せめて教員指導の要となる校長くらいは配置して欲しい。


海外にいる子供の“学習権”は守られていないと思う。どう考えているのか?
国内であれば政府の責任があるが、海外では日本の憲法が及ばず、各国の教育主権を侵しかねない問題もある。そこを憲法26条の精神を拡張して「なるべく海外でも手助けしよう」という姿勢。但し、日本と同じような教育を余り期待されても、応じきれない。
日本は諸外国に比べても、在外子女への助成をしている方だと思う。アメリカンスクールでは国の補助がないので、授業料は日本人学校の約3倍になるのが普通だ。児童福祉的な観点で“学習権”をいうなら、日本にきている外国人の子供たちにどれだけのことをしているかの方が問題だと思う。先進国では“政府の責任として”日本を含む外国人の子供たちの教育をしてくれている。
海外子女教育についての法的根拠は実はどこにもなくて、国会の外務委員会で「政府は、海外子女教育の重要性に鑑み、国の施策として有効適切な助成措置をとる」と決まった(注:昭和48年8月29日衆議院)のが唯一の根拠だ。それを踏まえないで、某政党のように「学習権だ。金よこせ!」みたいなことを言っても事態は改善されない。


日本人学校の教員が補習校でも教えられるようにはできないのか?
派遣教員の中からボランティアを募って巡回指導を依頼するのが限界である。
日本人学校の校長に相談すると、「文部省に聞いてみます」とよく言う。文部省に正面から聞けば、職務命令としては出せないことは明白だから、それは“逃げ”の方便だ。

(2) 日本人学校の課題について


アジアでも家族を帯同させない傾向が顕著になっていて、日本人学校が経営危機に陥っている。また、派遣者の若年化傾向・幼児教育の対策も考えなければならないが?
政府が企業に向かって「もっと家族帯同で赴任させろ」と指導はできない。また、日本人学校で生徒数減で教室が空いているのだから、幼稚園をやったらいいと思うのだが、義務教育ではないので助成が難しいようだ。
元々「海外子女」の概念は「保護者の帯同で3ヶ月以上、帰国を前提に渡航している義務教育年齢」という厳し い規定があって、それ以外の「引揚げ子女」「残留孤児」などは厚生省の助成対象だった。それを今日のように高校生まで拡げ、 帰国子女教育に外国人子女も包括できるところまでもってこれた。今度、下の年齢に向かって拡大していく発想を持ってもいい。 また、日本人学校校長の赴任前研修で、幼児教育に関する研修を義務づけると同時に、任地で幼稚園長になる心構えをもたせるように して欲しい。


心身障害児やLD児なども増えているが、それへの対応はどうなっていくのか?
心障学級対応の教員を、希望校には派遣している。また、「研究校」の形にして補助を何校か出している。アドバイザーを日本から呼ぶ経費も援助する。
ロンドン日本人学校のように、一般教員も関わっている例は素晴らしい。要は校長の姿勢、教員の研究の姿勢である。
システムの問題ではなく、教員の資質と精神性の問題。審議会をいくら開いても駄目だ。
最近の教職員免許の取得には、養護施設での体験実習が義務づけられているのだから、派遣教員の赴任前研修に幼稚園教育と障害児教育の実習を義務づけてはどうか。特殊教育の専門教員の派遣申請は前年度の7月なので、専門家が着任するまで何とか持ちこたえなくてはならない。


派遣教員の任期が2年では、現地語を習得して子供を指導することなど無理だが?
2年いても全く習得しようとない教員こそ、早めに帰せということではないだろうか。
2年以上の任期になるかどうかの評価は、学校運営委員会に任せるつもりである。
文部省は、本気では“2年”にしないと思う(笑)。航空券代も引っ越し経緯費も無駄が多くなるから。むしろ「4年を基本にしたい」というのが本音だと思う。


シドニー日本人学校のような国際学級を奨励すべきではないか?
国際学級の助成は、外務省予算である(笑)

(3) 国際教育課となったら……


研究協力校や受入推進地域が“スクラップ&ビルド”されて「国際化推進地域」になる訳だが、今までの受入推進地域が指定されることもあるのか?
応募してきているが、あくまで候補の一つである。従来の研究協力校や受入推進地域は基礎もできているし、ノウハウの蓄積もあるので、新たな地域に重点を置きたい。
私立高校は対象から完全に外されている。助成金がなくなると、少人数教育や英・数・国のレベル別教育などが潰れていって、教育の質が下がっていく。是非、現場の教育活動がどう変化していくかを見ていて欲しい。


国際教育課になってなくなった仕事は何か?
何もない。外国語教育が入ってきたので、国会でも質問が出てくるようになった。
国際教育課になった意義は大きい。時代の要請でもある。国内で、校長に民間企業人が採用され始めたのだから、海外でも国際交流ディレクターみたいに、補習校に派遣してみてはどうか。それに、国際理解教育は国粋的な傾向に働く危険が大きいので、地球レベルでの発想が大切だ。


日本人学校から帰国した教師が、その経験を生かせるように、人事配置など柔軟に対応できないか?
これは文部省というよりも、教育委員会で帰国教師をどう生かすかの指針をしっかり持つべきだ。派遣教員の候補者を文部省に推薦する時に、「帰国後、どういう風に生かすか」を一緒に提出させるべきである。

                                (以下省略)



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