第23回 海外の生活と教育を考える会 概要
(2001年4月20日(木) 14:00〜16:30 於:国際文化フォーラム)

テーマ:『親の異文化理解・現地の人々とのつきあい』
 * 出席 29名。話題提供=小木曽道子
異文化間教育センター/INFOE日本支部
 * 開会挨拶=曽我部泰三郎
(元 東京銀行)、司会=山田峰子(異文化間教育センター)

T.講話の概要

(1) 自己紹介を兼ねて
初めての海外経験は大学時代。シアトルのサマースクール(日米協会主催)に参加したが、その時の課題に、「美容院に電話して、各種料金を聞きなさい」というのがあり、電話で用をたすことの難しさを痛感した。今日は、そうした予想外のことに遭って 失敗した例をできるだけ話したい。海外生活経験の豊富な方や 研究されている方も多いので、その方が参考にしてもらえると思う。
最初の駐在はドイツのデュッセルドルフで、7か月の娘を抱えて赴任した。引越荷物も届かない内に 主人が3日間出張し、言葉が分からないまま 母娘二人で留守番をしなければならなかった。夕方、娘をおんぶして、すぐ近くの店に(オムツも持たず)買物に行ったが、鍵を持って出るのを忘れた(自分でロックアウト)。途方に暮れていたら、たまたま上の階の奥さんが出てきたので、「これを逃すと大変」と心に決め、必死に話しかけた。自分の部屋に入れてくれて、鍵屋さんの手配もしてもらえたが、そこから親しく交際が始まった。「自分から半歩でも前に出る」ことの大切さを知った。じっと待っていては、出会いはないかもしれないのだ。

(2) 家探しから契約内容まで
家を探す時には、まず「環境(とくに教育的環境)」が大事である。地域によって学校でも銃や薬物などの問題がある所もあるし、3年・5年・7年生の州の統一テストの結果を見れば、公立学校のランクも分かる。
次は「利便性」で、フリーウェイに近いか(通勤時間が短くなる)、公共機関が整備されているか(とくに図書館は子どものレポート学習に不可欠)などがポイントになる。
一見広くて綺麗に見えても、綺麗にペンキが塗られているだけで、古い家であることも多い。トイレの配管や雨漏りなどで、入居後に修理すべき箇所が判明することもある。ご主人が先に赴任して家を契約する場合には、「家族が到着してから、必要な修理箇所を要求できる」と契約書に入れてもらうとよい。
借りる期間は任期によるが、会社の都合で いつ転勤辞令が出るか分からない。契約書に「3ヶ月のノーティスで解除できる」の一行を入れてもらうとよい。本当に納得できるまでサインはしないこと。また、デポジットを入れれば「契約成立」である。
「困った時には主人はいない」というのがジンクス。大家や修理業者に電話する際、頭で英文を考えてから電話しても、相手が「ハロー」と出たら 頭の中が真っ白ということもあった。必ずメモを作ってから電話すること。
配管や屋根の修理など緊急に修理して欲しいものでも、必ず大家に連絡すること。「イマージャンシーを呼んで欲しい。もし 呼んでくれないなら、こちらで修理して 代金を次の月の家賃から引かせてもらう」と言えば、普通の大家はアクションを起こす。

(3) 医療関係の注意事項
医療費は とても高いので、健康第一である。保険は必ずかけ、歯の治療費や入院費などまでカバーされているかどうかを確認すること(月一万ドル以上の掛金も当り前の時代に)。
医療のソフト面では、「医師がよく話を聞いてくれる」「患者が解るまで説明してくれる」ということがあり、「もう聞かなくてもいいんじゃないか」とは考えないこと。子供を学校に入れる場合 予防接種の記録を提出すること、医薬分業(医師は薬を出さない)であること、家庭医(ホームドクター)が病院まで手配すること(オープン・ホスピタル)、なども注意。家庭医は知人・友人に紹介してもらうが、相性が合うかどうかは別。替えても構わない。
双子の出産で324万円という例があったが、その人は「出産後2日以内に病院に名前を届け出る」という規則を知らなかったため、公文書上「Baby-A, Baby-B」とされて、訂正してもらうまで大変な苦労をした。名前は早めに決めておくこと。
上の子が原因不明の腹痛を訴えて、バリウム検査をしたこともある。医師団は「母親が少しおかしい」と判断して、「お母さん、頑張り過ぎていませんか?」と言われた。現地校+補習校+ピアノ……と無理をさせていたかなぁとも思う。先輩のお母さんから「20歳になって普通になればいいのよ」とアドバイスされ、考え方を変えた。

(4) 現地校の現場で感じたこと
現地校の小学5年のボランティアを3年間やった時の話。教師に何か注意されると「直ぐ止める」、2回目の注意があれば「もう絶対しない」というのが 公立学校の原則である。ある日本の男の子が 先生の注意を無視して 私語を止めなかったことから「その子はもう要らない」という話になった。両親と校長・教師で懇談会がもたれたが、その時校長は両親に向かって「What can I do for you?」と言ったので、両親は驚いた。結局、教師との交換ノートをすることで放校は免れた。学校の姿勢、粋な処分に感心した。
現地校に編入当初には、過度の緊張から“おもらし”をする子もいる。すると学校から親に連絡が入るのだが、外出などしていると、親が来るまで放っておかれるのが普通。
「アメリカに行ったら 英語上手になりますよねぇ」と軽く考えている人が多いが、せいぜい年齢相当のレベルまでであることに注意。8歳で帰国すれば、8歳程度の幼児語なのだから、仕事になんか役には立たない。やはり、第一言語を何語にするのかを決めて、キチンと教えていくこと、さらに言葉以外に学校で学ぶこと(算数・理科・社会など学年相当の内容)をキチンと学習していくことが大事である。
渡航したばかりの時期は、精神的にもショックがあって 学校でボーッとしていることが多いが、その学年レベルが知的発達の空白となる(その間、言葉も分からない)ことに注意。電子辞書を持たせたり、読書などにより 日本語で知識を補充しておくことも必要だ。

(5) 現地での生活をどう受け入れるか
まず好きなこと(趣味など)から始める(子供が学校に行っている間は 自分の時間)といいが、 「Open mind」で自分から出て行くこと。ゴミ出しの時でも、ご近所に挨拶を心がける。
携帯電話は重宝(緊急時に公衆電話を探すのは大変)。手帳も携帯する(夫の会社、学校、知人等、そして保険会社、AAA=日本のJAF=の電話番号を書いておく)。
重要書類の一覧表、そして失った時に必要となる連絡先(カード会社の電話番号、パスポート番号、運転免許証番号など)等の一覧表を作成し、泥棒に分からない所に隠しておく。
夫婦で負担を“分かち合う”姿勢、助け合いは必要。相手の調子の悪い時は“少し引く”。 夫以外にも親しい友達は 必要。勉強の面でも精神的にも。
異文化理解は 互いの違いを認め合うことだが、共通点も必ずある。クッキーとお茶だけのパーティー、ポットラック(持ちよりパーティー)など、気軽にやろう。
中津燎子さんが「日本で生活している家族は 同心円で暮す。海外に行くと 家族、学校・会社、社会の三つの輪の交差になる。これが異文化体験だ」と話される。子供は学校で星条旗や自己主張などを学ぶが、母親はそれを経験しないので ギャップが生れて行く。
娘はインドネシア人と結婚した。同じ家に住んでいても、別々の世界を持って 育てて行く(同心円ではない)ことを実感せざるを得ない。

U.自由協議の概要             は話題提供者、 Q, F は参加者の発言


近所の人に声をかけるのは勇気が要る。とくにアジア系の人などに「うちにいらっしゃい」などと言って、多人数で押しかけられても困ると思ったりしてしまう。
でも、まずは「クッキーとお茶」から始まる。アジアの人と上手く付き合いたいと思う人は かなり多いのは確かである。ポットラック(持ちより)でもいいから やってみるといい。英語ができないと“笑えない”(ユーモアが分からない)が、ギャップを埋めるかどうかは本人の意思次第である。


「第一言語をしっかり」といっても、親は「バイリンガルになって欲しい」と思っている。バイリンガルになる条件は何だと思うか?
「玄関を入ったら全て日本語、出たら全て英語」というのも一案。しかし、INFOEの松本によると、「どれを母語(第一言語)とするか」が やはり大事だそうだ。娘の場合は、大学受験のための国語学習が、母語を再度確立し直す機会になったのだと思う
完全なバイリンガルというのは少ない。自分の専門分野ではバイリンガルでも、それ意外では分からない人もいる。要は、高校時代以降の本人の過ごし方ではないか。
脳神経科の医者の研究では、15歳位の臨界期までは並行して育てることが可能という。
バイリンガルどころか、「相手の人の言語で考えて話す」という人もいる。


「母親は現地でも忙しい」と言われるが、自分の時間はとれるのか。
大学のコースに入った時「貴方の優先順位は? 上から3つ目までにこのクラスが入らないなら、このクラスを辞めて欲しい」と言われたが、プライオリティを考えるということで すっきりした。時間は作っていくものだと思う。ただし、子供が同じ年齢、同じ滞在年数の者同士で「私もそうなのよ」と言い合っていて、何も解決していない例は多い。より上の年齢の人、より滞在の長い人、現地の人にも話を聞くべきだ。


引越業者や配管工を家に入れるときは、立つ位置に気を付けるな、襲われないように警戒すべきだといわれる。財布や貴重品を見せないように言われることもあるようだが。
「殺されないこと」が一番。引ったくりでも「引っ張られたら離す」で、まず命を守ること。格闘しないこと。危機管理の鉄則は「この国ではどう対処・処理するか」で、日本と比較して「どうして、こう違うのか」と嘆いてもキリがないし、意味がない。
「異文化と接触する」という問題を、砕けた感じで聞けて良かった。日本も大分 物騒になってきて、外国に出易くなる社会になるのかも(笑)。日本の家屋は まるで高級ホテル(個室を持って贅沢に暮せる)でして、それが異文化適応力の低下に繋がっているようにも感じる。
                                   (以下 省略)



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