第25回 海外の生活と教育を考える会 概要
(2001年10月18日(木) 14:00〜16:30 於:国際文化フォーラム)

テーマ:『TOEFLのパソコン受験と大学等の採用状況』
 * 出席 28名。話題提供=高田 幸詩朗
(CIEE国際教育交換協議会 TOEFL事業部長
 * 司会=小山 和智
(国際教育相談員。事務局)

T.講話の概要

(1) は じ め に
* (司会より紹介) 20年前、海外子女教育振興財団は赤阪の山王グランドビルの2階にあったが、隣の部屋がCIEE国際教育交換協議会だった。アメリカの非営利団体の中でもかなり大きな組織で、傘下に国際学生証を発行する機関やTOEFLなどを実施するETSという組織を抱えていた。
CIEEは、1947年に設立された民間組織で、人物交流と異文化体験の機会を提供することにより、人類の相互理解を促進し、世界平和に貢献することを目指している。本部はニューヨーク、16カ国19都市に支部、その他30カ国の大学に駐在員を配置している。世界約300の大学・高等教育機関がメンバーになっている。1997年から、イメージ戦略で略称を「Council」にしようという努力をしてきたが、余り浸透しなくて、2002年からは 本来の「CIEE」に戻す予定である。
日本代表部は1965年に東京に開設された。日本における国際交流の草分け的な存在であるが、1981年にETS(米国プリンストン)の委託を受けて以来、TOEFLやGMAT、GREのテスト運営にも関わってきた。今年9月から、メールマガジンの配信も始めた。
自分自身は、CIEEに来てまだ1年半であり、英語教育のエキスパートでもないので、思わず NPOの目で見てしまうが、この場に話題提供させてもらうという点では、かえって良いかもしれない。
注:「C's=市民活動を支える制度を作る会」プログラムディレクター及び事務局、「東京ランポ」財務担当理事、「生活クラブ生協草の根・アジア基金」運営委員。

(2) TOEFLについて(概観)
TOEFL は国際標準の英語能力試験で、実施地域は180か国以上、そのスコアは 2,400の大学・短大等で使用されている。このほかに国際機関・各国政府機関なども含めれば、いわゆるユーザー総計は4,200〜4,300機関に上る。英語圏の大学・大学院に留学を目指す場合には、英語力の証明として必須の試験だが、日本国内でも、学内単位認定や入試優遇、海外派遣選考などに利用されている。1964年以来のデータ蓄積があり、信頼性は高い。
日本では2000年10月から(注:アジア諸国では1998年から)、コンピューター版(CBT)が導入された。その背景には IT技術の発展・普及があり、コンピューターの持つ特性を活用してより精度の高い情報を提供していこうとするものである。特徴を挙げると:
@ 受験者は テストセンター(1室15名程度)で各自1台のパソコンに向かう=一人ひとりで受験する。開始時間も終了時間もバラバラ(早い人は2時間、普通3時間かかる)。聴き取り(Listening=Section 1)では、ヘッドフォンを使用する。
A 解答は、マウスでクリックして答える。パソコンに習熟している人と そうでない人との差は、統計的に見てないようだ。また、前問に後戻りしての解答はできない。
B 毎日 実施される。テスト会場は全国9都市11か所にテストセンターがあり、受験者が都合の良い日の午前か午後を選んで、予約を入れる。ただし、同じ月に二度以上の受験はできない(例:10月31日の後、11月1日は受験可能)
C 小論文試験(TWE)は2000年7月から必須となったが、コンピューター版では中に包含された。Section 2 の「文法 (Structure)」に「Writing」が加わり、30分でトピック1題を書き上げる。(注:トピックは『Bulletin』 に紹介されている)
D スコアの幅は、0点〜300点となる。ペーパー式は 310〜677点だったが、スコアの有効期間が2年間なので、日本では 2002年9月まで換算表を使うことになる。
「ただ英語力を測るだけで十分」という需要に応えて、「団体向けTOEFL(ITP)」というのもある。過去の問題(ペーパー式)を、校内のクラス分けテストやプレスメントテスト、実力テスト等に利用してもらうもので、大学・短大等で使用されている。
注:帰国子女・外国人子女を受け入れる中学・高校でも、使用されている。SLEP は 1980年以降、問題が改訂されていないため、信頼性にかける。

(3) 学校教育における英語教育について
1999年7月〜2000年6月の受験者数などを公表した今年の「Data Summary」に、「日本人受験者の平均 504点」と載り、インド(581)、中国(559)、韓国(533) から大きく差をつけられていると新聞でも騒がれた。日本は母数が多く、受験者層も幅広いので、平均だけで比較して何かを導き出すことは難しい。
設問等には 決して難しい英語が使われてはいないが、英語での指示を理解し、英語で解答するテストなので、説明書が読めないようでは良いスコアは望めない。「英語で考える」教育を押し進めていけば、スコアも自然に上がっていくと思う。英語で受けられる講義は、各大学で用意されているが、講座数・教師数ともに絶対数が少ない。
日本の大学・短大等でTOEFLがどう使われているかについて、今年も調査を実施予定だったが、ETS本部からストップがかかった。現在手許にある一昨年の調査結果によれば、"予定・検討中"も含めれて55の大学が何らかの使用を考えていたことが分かる(資料配布)。学科ごと、或いは教授ごとに扱いが異なるのが普通だ。いずれ「英検」から文部科学省の認証が外れることもあって、TOEFLとTOEICを取り入れていこうという動きが出てきている。東大の創生科学の方では、理科系の研究者は英語で論文を書き、英語でプレゼンテーションする力が求められるという観点から、TOEFLを「英語」の代わりに入試科目にする方向で検討中だ。
「TOEIC で 730点あれば、海外赴任できる」などといわれ、点数が一人歩きすることは問題である。TOEFLでいえば500点位だろうが、テストで測れる能力と、現実のトータルなコミュニケーション力とは、質が異なることを理解して欲しい。

U.自由協議の概要             は話題提供者、 Q, F は参加者の発言


各自でパソコンに向かってやって行くとして、中途休憩は取れるのか?
決まった休憩時間(Scheduled Break) があるにはある。それ以外でトイレに行ったりしてもよいが、時計はどんどん進むので、時間が足らなくなるかもしれない。


スコアシート(成績票)の写真が、人相悪く映るのは何とか改善できないか?
世界共通の機械なので、性能が余り良くないからといっても日本だけ良いカメラにはできない。本人照合チェックもうるさくて、受験にはパスポート持参が原則となっている。運転免許証を身分証明書とする場合は、在学中 或いは卒業した学校の発行する証明書「Letter of ID」(1年間有効)も共に提示が必要。


「聴き取り」30〜49問、「文法」20〜25問、「読解」44〜55問と、出題数に幅があるのは何故か?
次の版の出題データを取るための、カウントされない問題が含まれている。「聴き取り」30問、「文法」20問、「読解」44問が基本で、残りはデータ収集の問題だが、一人の受験者には、一つのセクションの負担しか掛からないようになっている。


「問題が急に難しくなったり 易しくなったりする」という話を聴いたが、本当か?
ペーパー式の時代は、短い文章・簡単な単語から始まって、段々難しくしていく傾向があったが、コンピューター版では"順不同"で問題が出てくる。最初は中程度のものから出題され、解答が正しければより難しい問題へ、間違えば より易しい問題へとシフトしていくようプログラムされている。つまり、正解数がそのまま得点になる訳ではないし、衝立で仕切られている隣の受験者とも出題は異なっている。


解らない問題には、当てずっぽうででも解答した方がよいか?
よく出る質問だ(笑)。正直なところ、現段階では不明で、コメントできない。前半の問題でほとんど正解だった人が、後半を当てずっぽうで答え過ぎると、平均点は下がるかもしれない。必ずしも、易しい問題が先に出題される訳ではないことに注意。


「聴き取り」で注意したら良いことは 何か?
必ず目を開けて 画面を見ていること。結構、答えのヒントが画面から見つかる。


ライティングの問題は、具体的には どういうものか?
案内書(Bulletin)に トピックは一覧で公開されていて、その中から一問(制限時間 30分) 出る。自分では選択でき ない。たまに「もう一問あるだろうか?」と思って「Next」をクリックする受験生があるが、"終了"してしまう(0点になる)ことに 注意。[他の Section では、「Next」までは"修正可能"で、「Confirm」で"確定"]
手書きで書いても良いが、キーボードで書く人が8割以上である。キーボードなら、「切り取り」「貼りつけ」「復活」の機能が使えるので、修正には便利であるが、“スペルチェック”は使えない(笑)。
採点は2人の試験官が6点満点で採点し、平均を取る。いずれにしても、「考えて書く」訓練が大切。どの程度書けばよいかも 案内書に具体例が載っている。


何度も受験できる訳だが、一番良いスコアを使いたい場合は どうするか?
まず、受験時に、成績を送って欲しい先を指定できることを知っておくこと。「今までで最もよくできた」という自信があれば、無料で成績を配達してくれる。後で選びたいという場合は、成績結果を受け取ってから成績票を取り寄せることになるが、経費がかかる。なお、ライティング以外の"非公式成績"は、最後に画面に表示される。持ち帰ることもメモもできないので、しっかり覚えるしかない。
「英検」は日本語ができる子供が前提であって、TOEFLとは異なる。また、英語をベースに英語で勉強してきた子供には「Stanford 9」などのテストがあるが、これは学力試験である。英語で英語の能力を測る試験はTOEFLしかない。
日本語を介さない英語のトレーニングが大切である。「学習言語能力」としての英語を高める環境を、関係者の方々と協力し合っていきたい。

                                (以下省略)



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