第28回 海外の生活と教育を考える会 概要
(2002年4月18日(木) 14:00〜16:30 於:国際文化フォーラム)

テーマ:『これからの子女教育----財団での1年を顧みて』
 * 出席 36名。話題提供=東條 和彦
(財)海外子女教育振興財団 専務理事
* 司会=梅垣 道弘
(元 YKK(株)教育相談室。事務局)

T.講話の概要

(1) 財団設立30周年
40年間 三菱商事に勤務していたので、教育に関しては初心者に近いが、ここ1年間、海外子女教育振興財団 (以下「財団」)の仕事に携わってきた感想をお話しし、その後で、皆さんからご意見やご助言をいただきたい。
財団は1971年に設立され、昨年30周年を迎えた。30年といえば、商品でも企業・組織においても一つのライフサイクルといわれるほど、世の中の変化からすれば大昔である。財団も時代に合わせ変わっていかなければと考えている。
確かに財団が設立された当時は、熱気に包まれていたと思う。日本の企業戦士が海外にどんどん出て行くが、帯同される子供の教育問題は放っておかれている。教育を受ける権利は属地主義----日本国内にいる時だけ保証されていた。そうした子供たちに国内と変わらない教育を受けさせたいというニーズが、やっと社会に認知されて、経済4団体が中心になって在外教育施設の支援組織を作ったものである。こういう立場にいると、あちこちの日本人学校等から「創立30周年の記念文集に原稿を」と頼まれるが、それだけの歴史を刻んできたということだ。
しかし、今は「財団が設立された頃の熱気が感じられない」とよく言われる。なぜそうした閉塞感が生じているのか、あの熱気はどこに行ってしまったのかを、一緒に考えたい。

(2) 企業からの維持会費が減少
閉塞感の原因の第一は、維持会費収入の減少である。財団の活動費は、ほとんどが企業からの出捐金で賄われていて、国庫補助は18%程度である(それらは日本人学校の教材や通信教育など特定の事業の一部に直接当てられるもので、右から左へ消えてしまう)。財団独自の活動を支えてきた企業の出捐金が、ここへきて大きく減り始めた。
企業にとって、海外派遣者の「健康・医療」「安全」「子供の教育」の問題は避けては通れない訳だが、とくに教育は、企業同士が連携して対応する必要がある。しかし、昨今の経済状況の中で、倒産するところ、合併するところが相次いでいる。倒産してしまえば会費も寄付もしてもらえないし、毎年50万円の維持会費を払っていた会社が2つ合併したからといって、新会社は100万円になるかというと、そうはならない。最近の維持会費収入は5億円くらいまで減ってきた。
もちろん、財団の内部組織のリストラも進め、昨年、2部5課に再編した。一人余った部長は「会社回り」の専任者として、維持会費の増額や、未入会のところには入会のお願いをして回っている。企業からの教育に対する出捐金が減ったからといって、やめてしまえる事業はそうそうない。20数項目の どの事業も有益だと信じているので、やり方を工夫し、極力合理化をすることで継続していきたい。
現在の事務所は20年前に越してきた古いビルである。高いばかりで、変形ビルな上にITへの対応も不充分なことから、愛宕下に移転することにした。「レストランじゃないんだから、事務所も目抜き通りになくてもいい」ということで決断した。スペースもぐっと広くなる。

(3) 帰国子女が珍しくなくなった
閉塞感を感じる理由の二つ目として、日本人の国際化が考えられる。在外子女が毎年1万4千人帰国する今日、帰国子女自体珍しくなくなってきた。かつてのように「日本語のできない子供をどうするか」と慌てたりすることもなくなったし、国内の学校も、少子化のために「帰国子女でも何でも入学して欲しい」という状態である。また、海外から働きに来ている人が、自分の子供を国際学校よりも公立校に入れたがるようになり、教育行政側としても対応を迫られている。文部省の海外子女教育課も「国際教育課」に、学芸大の海外子女教育センターも「国際教育センター」になった。
こうして、「帰国子女は国際化のシンボル」と憧憬の目で見られることもなくなり、国際理解教育、異文化交流、異文化との共生などが重要であると強調されるようになったが、では、財団のニーズがなくなったのかというと、そうでもない。私自身も二人の子供を連れて海外赴任して、自分はそんなに気にならなかったが、家内は凄く心配していた。こうした不安は、いつまでも続くだろう。
もっとも、当時(20年前)は偏差値全盛期の時代だった訳で、現在は企業でも偏差値や学校歴は関係なくなって、社員もキャリア重視で多国籍化してきた。三菱商事では求人指定校を20年前に廃止して、他の企業でも10年前頃からなくなっている。企業自体が、金太郎アメのような形で新卒を採って一から育てるよりも、中途採用や外国人採用によって個性豊かな人材を確保する方向に進んでいる。また社員も、一生一つの企業を勤め上げるというよりも、どんどん転職していく時代になった。個人的には、良い時代になったのではないかと思う。。

(4) 華々しい活動も縮小気味
「昔は、海外・帰国子女教育は財団主導で動いていて、文部省は後からついてきた」とよく言われる。確かに、海外に展開する企業としては大きな期待をし、資金も拠出してきた。毎年3校も日本人学校が設立され、校舎を建てるための寄付金を集めるといったことも、民間主導で進められてきた。財団の資金で、事務長を大規模校に派遣していた時代もあるし、大規模校の事務長を東京に呼んでトレーニングを施したこともある。関係のボランティア団体に資金援助もしていた。
最近は、日本人学校の校舎建築も、年に1−2校程度が増改築するくらいで、日常茶飯の業務ではなくなった。いわゆる「箱もの」を造ることがメインではなくなって、これからはソフト--- 世の中の教育の見方や価値観に働きかけていく仕事が中心である。日本社会の変化に伴ってニーズも変わっていくが、なくなりはしない。在外邦人数は減ってはいないのだから、サービスをより質の高いものにしていくことが求められていると思う。

(5) 今後の重点課題
では具体的に何をやっていこうと考えているかだが、まず全国海外子女教育・国際理解教育研究協議会(以下「全海研」)を大事にサポートしていきたい。企業は「在外子女の教育+帰国後の受け入れ校を何とかしてくれ」で金を出しているのだが、財団としては、日本における国際理解教育のサポートもすべきではないか。「個を大切にする教育」がもっと全国的に広がっていくべきではないかと願っている。文部科学省もグローバル教育を打ち出しており、異文化共生---違いを違いと心得て共に生きていくための教育を、現場の先生方には頑張って欲しい。
また従来、維持会員は企業だけだったが、学校にも維持会員入会を呼びかけていく。さっそく30数校から応諾いただいているが、学校とのネットワークを組んで、思いを共にしてやっていきたい。関連のボランティア団体等とも連絡は密にしたいので、ご意見等はどんどん寄せて欲しい。
なお、教育相談室には、年間 3,500件の相談案件、7,000件の問合せがある。企業によっては独自の相談室を持つ所もあるが、最近減少しているし、中小企業には元からない。地方都市に出張を依頼されることも多いし、「会社の人事部に繋がっていない」という安心感から 財団に相談に来る例もある。メンタル面の相談も多く、専門家へのルートも確保している。昨年9月のアメリカ中枢テロ事件に関連しても、子供の心のケアの問題は大きい。企業の皆さんに実情を伝えたり、『月刊・海外子女教育』に報告をしたり、アメリカの国際文化センターに寄付もしている。

(6) アフリカ事情について (削除)

U.自由協議の概要             は話題提供者、 Q, F は参加者の発言


学校が維持会員になるメリットは、どんなことか?
現実問題として、従来 勧誘をしていなかった。例えば 各校が単独で海外説明会をやっているが、これを一緒に行って開けば、保護者の側から見ても効率が良い。飛行機代や会場費も安くつく。そのほか、情報のやり取りが円滑になるなどの利点も出てくると思うが、さすがに、公立学校が維持会員になるのは難しいようだ。


国際理解教育が公立校で進んでいるといわれるが、逆の方向に進んでいるようにも感じる。ある学校で「制服を廃止すべきかどうか」のディベートをやったら、ある帰国生が「制服はセイフティーだ(精神的にも安全)」と発言した。帰国子女が異物扱いされるものだから “気配り”をしているのかなぁと思った。
同感。偏差値、学力社会でなくなったとはいえ、まだまだ そういうものが残っている。それを できるだけ変えていく方向に協力していきたい。


日本人学校などの『施設便覧』には、国際学校だけでなく 現地校の資料も載せて欲しい。
努力はしているが、実質的に難しい。現地校は校長が交代すると ガラリと変わることも多いので、古いデータをそのまま出していいのかという問題もある。検討してやっていく。
例えば ロンドンやシカゴの情報が欲しいといっても、情報を集めている間に古くなっていくわけだから、現地で情報を集めている機関を把握していることが必要ではないか。
アメリカなどは、現地校の情報を公開している(市の教育委員会などからの Report など)ので、それを常にリニューアルできるシステムを作ることは不可能ではない。
現地の人が読めば分かるが、そうでない人が読むと誤解する向きもある。
それを何とかするのが、財団の仕事ではないのか。


かつては財団にも“親方日の丸”の体質を感じていた。今日のお話で 良い方向に進んでいることが分かった。そこで質問。
@7月末の学校説明会については、一時帰国者向けに情報が行き渡るようにして欲しい。
A全海研では外国人子女教育にも力を入れている。全海研とのタイアップは心強いが、補助費は減らされている。財団としては どう考えているのか?
学校説明会は初めてのことでもあり、『月刊・海外子女教育』のほか、金をかけずに広報できる機会を捉えて知らせていきたい。全海研との連携は、70万円の研究補助のほか、できるだけ職員を参加させるようにするなどの努力もしたい。ただし、お金はこれ以上は難しい。

                                (以下 省略)



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