第10回3000字感想

相変らず感想が遅くなってしまいました。ちょっと仕事が忙しかったのと暑くて作品を読む気にならなかったからです。今回はびっくりする位早く感想を書いた人もいて、早くみんなの感想を見てみたいとは思っていたんですが、中々進みませんでした。いつものように、自分の作品は棚上げしておりますし、最近辛口になってきた感想も気にはなりますが、どうぞ御容赦下さい。

Entry.01『健太のプライドキッチン』有馬次郎さん
タイトルは、プライド(pride:誇り)とブライド(bride:花嫁)をかけているのだろう。ラストの弟達を祝福するのが、彼らと面と向かっていないせいかちょっと私には想像の範疇なのかなとも思えてしまったのは、実の弟の結婚式(多分二人だけの兄弟とあったが、二人だけの家族の事なんだろう)には、仕事ぐらい休んで祝ってやったっていいじゃないかという思いがあるからだろうが、これは仕事に対するプライド(思い入れ)じゃなくて、彼らを祝福してやれる様になった主人公の思いがテーマだから、主人公が祝福できるようになったんだという成長した過程が大事だから、こういう形でいいのかも知れない。ただ前半部分の主人公の弟と彼女に対する気持ちが、仕事の方が大事だとでもいいたいように読める所為か、許すという行為がプライドだとは書いてあっても、そのプライドが曖昧になっているように感じてしまった。

Entry.02『大きな疑問』森田英一さん
ヘルマン・ヘッセの作品を思い出してしまいました。タイトルは随分昔に読んだんで忘れてしまいましたが、本当に信じることが出来れば空だって飛べるんだけど、心の片隅でちょっとだけ疑問に思ったために空を飛べなかったという話しを引用した愛情の話しだったと思いましたが、以前私もこんな話しを書いた事があったんですよね(完璧にヘッセのパクリですけど…)話しの語り手が変わるのが自然な感じで面白いと思いましたが、もう少し語り手が変わった時の語り手の視点というか思い入れが、もっと違っていてもいいかなと思いました。

Entry.03『迷走回廊』なつろうさん
黒澤清の回路を見ていれば、もっと面白く感じたのかもしれないが、私は生憎見ていない。現代の話しで、登場人物が日本人じゃないのかと思っていたら、過去の時代へタイムスリップしたSFなのかとも思えた(黎明時の新橋に…降り立った)が、これは旧新橋駅の事を表現するためなのかも知れないからよく分らない。ラストはホラーっぽいし…なんなんだろう?

Entry.04『壷の中に』KUROさん
昔見た「西太后」という映画で、政敵の四肢を切り取り身体を壷の中に入れて顔だけ出させ生き長らえさせるというのがあったけど、タイトルと始めのシーンでそれを思い浮かべてしまいました。そのせいかどんな怪奇な話しが出てくるのかと思ってしまったのが失敗でしたね。交通事故で死んでしまうという幕切れがなにか納得のいかない終わり方なんで、ちょっと残念です。途中の大根の話しなんかもお母さんとお父さんの会話になっているだけで、主人公が参加していないせいで、主人公の思いとでもいうものが的確に伝わってこないように思えます。それはりんごの件で何もお母さんに言わないという事での反映なのかも知れませんが、そういう意味なら何もだいこんを登場させる必要性は感じません。逆にお母さんの魅力を引き出すための行為かも知れませんが、そういう意味でなら、主人公が死んでしまってもお母さんを思っているというのは分る気はしますが、死んでしまうシーンなどを挿入するよりは、もっとお母さんを描くとかした方が、良いのではないでしょうか?でもこれは死んでしまった主人公が自覚もなく、繰り返し思い出す自分の思い出なんだから、どうしようもないのかも知れませんけどね。

Entry.05『トータルリコール』やす泰さん
人間の可聴範囲を越えた周波数帯域の特定の音波を聞きつづけると人間は不調を訴えるというし、病状としても頭痛から吐き気それに神経が高ぶって怒りっぽくなってしまうというのは解っていたし、これを題材にしてめちゃくちゃな話しをいつかどこかで書いて見ようと思っていたが、電波磁波と音波の差はあるものの先を越された感がある。しかもそれが携帯電話というのは面白い発想だ。私はそこまでは考えていなかった。というよりは、異星人の侵略とか、地球破滅を願う新興宗教とかちょっと狂った国の話などを考えていたが、こういう話しも面白い。しかし役人のエゴを全面に出している点は、着想だけの話ししか書けない私には、羨ましい。

Entry.06『ここが感情のキレどころ』おかずさん
うーん。面白い。ここまでマニュアル化が進んだらと思うと、感情を知らない世代の悲しさや怒りを通り越して笑ってしまう。他社の「キレる」シルーズを出す前に「タコ感」を出そうとするのだって、当の主人公は他社より先に出したいという思いなんか全然なくて、仕事だから部長に言われたからという事だけで感情がなかったというラストのオチも笑ってしまった。なんだかこういうのって勉強になるなぁ。「トータルリコール」だって着想はいいのに、何故か、私はこっちの作品の方が面白く感じてしまった。何故なんだろうか?こういうのを分析してみると結構面白いかも知れない。

Entry.07『針金』のぼりんさん
これは推理小説だろうか?だとしたら形状記憶ウドンはちょっと反則な様な気がする。確かに最近は金属だけじゃなくて繊維さえも形状記憶の物が出ているが、食べ物も可能なのだろうか?私には解らないが、話しとしては面白かった。しかしせっかく形状記憶繊維があるくらいなんだから、針金にする必要性は無かったのではないだろうか?しかしこの殺人方法は斬新だ。人間を圧死させたり骨折させたりするくらいの繊維の強さが本当に組みこめたら、こういう針金なしの殺人事件が起こるのも、そう遠い未来ではないような気がする。

Entry.08『恋愛体質』ラククさん
タイトルで、恋愛していなければ生きていけない体質の人の話しかと思ってしまいましたが、そういう意味とはまったく違っていて彼女と別れた男の話し。私には不得意な分野でした。猫という小道具を使った、やり直そうかと思う若い男の心理みたいな話しは私にはちょっとこそばゆいです。彼女が出ていこうとする所で、止めなけかったならば、私はきっと彼女とヨリを戻そうとは思わないからかも知れません。まぁそれだけ真剣に恋愛をしたいと思っているわけです(笑)

Entry.09『missing link』山森瑞穂さん
タイトルは結構有名な言葉だからわかるつもりだけど、この話しとどこで噛み合うのか解らなかった。香里ちゃんのバイトの話しが出た時には、吉田君は当然バイト先も知っていると思っていたから、占い師の女性にデートを申し込んだ時には、彼女を好きだったのかと思ってしまい。そういう関係もあるよなぁなんて思ったけど、知らなかったとはちょっと驚きだった。吉田君が鈍いのかどうかは話しの都合だからいいとしても、ラストで吉田君が恋の予感をしてしまうというは、やっぱり出来過ぎのような気がする。そういえばタイトルは、香里ちゃんのバイトの内容の事なんだろうか?バイトの事を吉田君が知った事で、切れていた輪が繋がるという?

Entry.10『砂に咲く薔薇』杜水晶さん
ちょっとここで感想を書く手が止まってしまいました。話しがよく解らなかったです。主人公の男性は死んでしまって、既に死んでいる?少女と出会い、「…永遠に一緒だよ」と幸せ?になるのか、主人公がただ思い願う夢なのか、主人公はテレポートでもして彼女の所へ向かうのか(ってそれはないか)よく解りませんでしたし、主人公の思い描く身勝手とも思えるコダワリ(それがいいと思っているからこその恋愛であり旅なんでしょう)がラストでコロっと主人公の都合のいい展開に変わってしまうというのでは、私には心に響くものがありませんでした。好きなのに振ってしまったと思っている男が、いつでも女性の所へ行けば付き合えるなんて甘い考えを持っている女性に対する大きな勘違い野郎の話しみたいに感じたからかも知れません。

Entry.11『微熱の風』さとう啓介さん
途中で出てきた沙織ちゃんはどこ行っちゃったのぉ?恋愛物かと思ったんだけど、これじゃ男のロマンだけで終わってしまっている。それは勿論悪くはないんだけど、ホストクラブで働いているらしい主人公とホストクラブに通うらしい女性との話しがメインかと思ったら、途中で終わってしまった感じが否めない。3000字じゃ足りない話しの導入部みたいで、ちょっと残念。なんか面白そうな展開なのになぁ。

Entry.12『貨道』羽那沖権八さん
いやぁ。笑ってしまいました。もちろん笑う作品ではないんですが、そんな馬鹿な話しがあるもんかという現実とのギャップと、貨幣を使うという行為を芸事にまで発展してしまうというラストが、いい意味で、嬉しくなってしまったからでしょう。話しの途中の算盤なんかも、いくら21世紀も後半とはいえ電卓位あるだろうにという話しも逆にアナログ式(算盤はアナログ計算機ではありませんが、古すぎるという意味で)な感覚で面白かったですし、客との遣り取りのトチリ具合なんかも効果的だと思います。

Entry.13『逃げる男』小吉(コキチ)さん
何からも逃げる男であるのに、人からは恨みも妬みも嫉みをなーんにも受けずに笑って許してもらえて「又会いたいなぁ」なんて思わせるなんて凄い才能だ。ミエミエな嘘でも許して貰える様な嘘をつくというのは難しい。「うっそピョーン」なんて冗談としていうのとは違い。「本当だよ」と言い続ける訳だから、私には出来そうもない。こんな人がいたら会ってみたいなぁ。途中で出てくる訃報は登場人物だけでなく、読者へ対する嘘みたいでもあるのは面白いと思ったが、「逃げろ、全力で」という意味は彼女も逃げる女になって欲しいという思いがあるのだろうか?ちょっとした事だが気になった。

Entry.14『ふたしかな記憶』海坂他人さん
笙野頼子や川上弘美もトマス・ピンチョンも読んだ事がない。只ピンチョンは現代のアメリカの作家だから、唐人の名としたのは「そんなの知らん」という意味でわざとだろう。「矜持」なんて言葉を使うという文学少女(少女ではなさそうだが)を良き?ライバルに頑張って小説を書いているというのは、なんだかやっぱり実話みたいでもあり、何を書いたら良いんだかわからないという表れでもあるみたいだし、のんびりやりましょうやとしか言えない悲しさが私にもある。しかし矜持かぁ。でも作品を投稿する時には自分のが一番だといつも思っているというのは、みんなそうだと思うんだけど、違うのかなぁ。

Entry.15『夜行列車』伊勢 湊さん
最近はやりのプチ家出の話しかと思ったら、幼なじみの家族の夜逃げに発展してしまった、ちょっといい話し。最近このちょっといい話しというのが、私には耐えられない。心の浄化作用を育むようないい話しというのは勿論必要だし、書ける人が羨ましいとは思うからだろう。私にはこういった話しが書けないし、書こうとは思わない。だからといって勿論否定するつもりもない。夜逃げというと高校の時の同級生をどうしても思い出してしまうが、彼は今どうしているんだろうか?

Entry.16『代償』自作
感想というよりは、言い訳を書いてしまいます。前半部分のちょっとエッチな部分は、いつも書きたいと思ってはいるんですが、書けないでいるタッチです。性描写っていつも難しいと思っているんで、少しでもエッチな気分になれるだろうかと書いて見ましたが、やっぱりあんまりエッチにはなりきれていない。後半部分は、バカバカしい限りの破壊物を書いてみましたが、どうしても占い師とか携帯のメールだとか雰囲気を壊してしまう要因が削れずにいます。あぁ結局はどっちつかずで、どっちも飛び出ていない結果になってしまいましたねぇ。

Entry.17『ウミウシ』一之江さん
不思議な感じの作品。これは一種のファンタジーだ。子供向けというわけではなく、どちらかというと若い女性向けの作品だ。だから男である私がどうこういっても始まらない。これは女性に読んで貰うべき話ですね。この作品を読んで、今までの作品の傾向から見ると、一之江さんの作品っていうのは、女性を対象にしたファンタジー作家なのかも知れないなんて思ってしまった。

Entry.18『肉体の輝き』逢澤透明さん
行き遅れの女性のやるせない気持ちを表した話しといってしまっては身も蓋もない。身も蓋もないどころかこの話しは1000字では到底書けないだろうギリギリの長さかも知れない。劇中劇というのは以前あったが、主人公が傾倒する(架空の?)作家に倣って自分もその真似をしようと試みるが、自傷という行為はやはり真似できるものではなく、主人公の気持ちを代弁させる作家の行為と主人公とのギャップが恐いほどに現実感を与えている。笑うしかないというラストには、まだ正常を保っているが不安定な彼女の精神が見えてきて、凄いとしかいいようがない。

Entry.19『遠い海から来た人』瀬田 春風さん
ラ・ラストが…。これで終わりなの?っていう感じで読み足りなさを覚えた。のめり込んで読んでしまった。遠い海から来た人がどんな人なのか判らないままで、途中で家にでも連れて帰るのかとも思ったが、まだそこまで話しが進まないうちに終わってしまった。続きが読みたい。

Entry.20『{[  (^-)(-^)  ]}  (フタリノセカイ・・・刹那的恋愛)』小林 祐悟さん
リサちゃんとゆーご君の恋愛の話しではあるんでしょう、そしてそれは年が離れている所為もあってか刹那的な恋愛であるという事らしいですが、私にはこれが小説だとは思えません。もちろん各々に自分のスタイルがあるのはわかっていますし、それを変えろなんて事はいえませんが、いつまでもこの形式で進んでいくとしたら、私には付いていけませんし、いくら有名になって本を出してもお金を出して買ってまで読みたいとは思いません。始めは詩の様でもあり、後半はただの説明になっているだけで、何がいいたいんだか私にはわからないからでしょうか?年かなぁ。

Entry.21『暖かい雨』蔵田 燐(くらた りん)さん
最近物忘れが激しい私には、自分が高校生だった頃を思い出しても、3倍近くにもなってしまう年齢の所為か、彼らの心情がはっきり解りません。彼らが会話する内容にもついていけないのは、ちょっと悲しいです。『すごいよくわかる』という返答にさえも『なんとなくわかる』私には年齢のギャップや、精神的なギャップがあるんでしょう。そういう意味ではこの会話が今時の少年達の会話なんだろうという感じがしますが、まぁとにかく自殺しなくて良かったとしか言えないのが悲しい。

Entry.22『帰り道』渡瀬ミウ(わたせみう)さん
途中なんども詩の様に「今日は縁日…」とあるのが効果的だ。子供の頃の不思議な体験をお祭りに合わせて、綴っているような雰囲気が出ている。子供しか見ることが出来ない不思議な世界がちゃんと確立されていていいと思うし、神隠しのようでもあり面白い。彼岸にいってしまった姉が弟に会いにやってくるというのはお盆だろうが、しかしお盆のお祭りというのは昔からあったんだろうか?豊作を祝うお祭りだけでなく、盆と正月しか(丁稚奉公などで)帰ってこれない家族との再開を祝っているのかも知れないが、夜這いOKだったというお祭りの風習を思い出してしまう私は、先祖の霊を弔う気持ちも薄れているのかも知れない。これじゃ死んでも天国へは行けないなぁ。

Entry.23『恋が溶けていく』谷本みゆきさん
スポーツとしてのSEXと割り切っているらしい男女が、何故昔の恋愛の話しを持ち出してくるのか解らない。それにしてもSEXをしている最中にそんな事を話し合わなくてもいいんじゃないだろうか?SEXの前でも後でもいいような気がするが、何か理由があるんだろうか?私には解らない。ひょっとしたらこのSEXで少しでも人を好きになるという感情を思い出したいという思いがそれぞれにあるからなのだろうか?だとしたら、ラストの「…愛することはない」というのはちょっと変な気がする。

Entry.24『月の花』翠葉さん
月が無くなってしまったら、いくら地球にその欠片が落ちて来なくても、地球に与える影響は多大なものがある。狼男も変身が出来ない(笑)。星は自ら輝くものなので、地球は惑星だし月は衛星といわれているが、そんな事はこの際関係ないでしょう。SFっぽく書かれた御伽話しなんですからね。しかし月がワゴン車位の大きさになってしまうというのは、稀有な発想のような気がします。そんな発想には脱帽ですね。しかし何時も地球に同じ方向を向いている月の裏側には、宇宙人の基地があるなんて事も言われていますが、やっぱり日本人にはかぐや姫が住む宮殿でもあって欲しいものです。