第16回3000字感想

今回も自分の作品は棚上げして感想を書いています。中には感想になっていない物もありますし、読み違いもおそらく多いと思います。ですから作者の伝えたかった物とは違うのにという感想が出てくると思います。私の表現力の問題もありますから、私が受け取った気持ちと違うように読み取れるかも知れませんが、まぁ私の作品を読めばそういう事は判るとおもいますので、気にしないで頂きたい(笑)それでは今回の感想も今まで通り、戯言です。

Entry.01『風の祠』弥栄 工さん
絆(ほだし)という意味を調べてしまいました。絆(きずな)とは全然意味合いが違っていて、ちょっとショックでした。生きていくっていうのは絆(きずな)が強くなったり切れたりする事がありますが、絆(ほだし)だけは多くなってきます。そうすると大変だなぁ。なんて思ってしまいます。本当は、漫画の「はぐれ雲」みたいに、生きられたらいいのになんていう想いもありますが、その為には強くならなくちゃねぇ。freeはやっぱり難しい。小説というよりも、なんだか詩に近いエッセイにも読めました。

Entry.02『消滅トリック』オキャーマ君さん
ワクワクしながら読み進んでいったら、ラストでびっくり。読んでいて思わず「あっ」と声を出してしまった(本当)「そして誰もいなくなった」になってしまう。しかしマジックをしない時は、指輪をしていちゃイケナイよなぁ。

Entry.03『恋しいという言葉』佐賀 優子さん
「アノヒト」や「イマノヒト」「アレ」という表現がなんだか判らなくて恐い。ひょっとしたら昔の恋人を殺しているんじゃないのかとも思えてしまう。ちょっとセクシーな感じもするし、スタイリッシュ・ホラーの一場面という感じがした。

Entry.04『春には桜も咲くというのに』岡野義高さん
恐いです。人をはねたのが事実かどうかさえもぼんやりとしていて、それだから罪の意識もない。あれは夢なのかも知れないと自分に言い訳しているという心理が、淡々としていてたまらなく恐いです。ひょっとしたら、撥ねられた人は、何十年後かの自分の運命なのかも知れないという、ミステリーゾーンみたいな話にもなっていきそうです。

Entry.05『STAY』tocさん
STAYだから、この登場人物は自縛霊とか成仏出来ないってことですかね。電車が少しだけ遅れてもその原因が飛びこみだったりすると、その家族は本当に莫大な借金を抱え込むことになるという話は聞いた事があります。その遅れは乗車した人の迷惑になるのに、その迷惑を受けた人に還元されて例えば運賃が安くなるなんて事はないのに、矛盾しているとは思いますが、まぁ、そういう規則?はある様です。死んでしまった後の霊?が主人公というのはそんなに目新しいことだとは思いませんが、恐ろしい形にまだなっていない、囚われの霊というのが、なんとなく悲しい思いを抱かせるのは効果的だと思いました。

Entry.06『ケンタの墓』香山かちたさん
子供が、小学校2年生の子供が、いくら母親に折檻されたといっても、死んでいなくなっても平気だという心境に陥るほどに、母親を憎らしい存在だと思っていたという事が衝撃だった。そういう育て方をする親が最近はニュースの話題になったりしているが、こういうニュースと同じ様な事はやっぱりおきて欲しくないし、悲しい。子供の目から見た事件ではあるが、この子のトラウマになるだろうこういう事件が、この子が大きくなった時にどう影響するのかを考えると恐い。文については、小学校2年生位の子供の設定だから、こんなもんなんだろう。

Entry.07『アロマテラピー』としさん
前回の私の「匂い」に関する話に触発されたのだろうか? というのは置いておいて、こっちの方が幸せな気分になれるだけ良い。匂いに関する話は結構あって、死んでしまうのがあるかと思えば、女性からモテルなんてものもある。どうしてもモテル話に持っていってしまった私はラストに困ってあんな風にしてしまったが(前回の自作を参照)こちらもやっぱりラストには悩んだようだ。もう少し字数があるのだから、どうせなら未来に渡ってこの匂いが続くような話になっても良かったなぁなんて思ってしまった。

Entry.08『アザ』蒼井 空さん
「花の色は 移りにけりないたづらに わが身世にふる ながめせしまに」話とは関係ない意味だけど、なんだか古い句を思い出してしまいました。後で振りかえると、最後の作品の影響かも知れない。人の見えない色が見えるというと可視領域とでもいうべき範囲を逸脱している色なんでしょう。色味から判断するには、赤外線ではなく紫外線に近い感じの色(ってどんな色だ)なんでしょうが、昔のテレビドラマで、可聴範囲を越える音が聞こえる人だけ、宇宙人が地球滅亡の際に助けるに来るという話をやっていたのを思い出しました。こういうSF仕立てではありますが、SFとしての不思議さを発展させるんじゃなくて、人間の営みを描くという姿勢には拍手を送りたいと思います。悲しいかな私が書くと、どうしても不思議さを発展させてしまうという傾向があります。

Entry.09『My rib hurts me』やす泰さん
ありゃぁ、私の苦手な分野です。どうしてみんなこういう「ちょっと良い話」を書くんでしょうか?確かに良いです。感動します。でも私はこういう小説って最近流行の「癒し系」みたいで、なんだか好きになれません。癒される話というのは好きですし、好んで読んでもいますが、何故か私が目指す物(ってなんだか判ってませんが)とは違うからなんでしょう。これも票を集めるんでしょうねぇ。しかしタイトルは洒落てていいですが、話の内容からいったら、「He rib hurts me」かなという気もしました。

Entry.10『忘れ者』桐さん
久しぶりのタイムパラドックス物だ。面白い。主人公は未来から戻ってきた祖父だという設定によって、自殺?ともいえる殺人を犯してしまう。未来に起こる事は判らないから、どうしようも無いんだけど、もし主人公が過去に戻らなかったら、自分が生まれて来ないというリングが切れる事態になる。そういえばタイムパラドックスが起こると、未来では時震が起こり地球が滅亡してしまうという映画があったのを思い出した。

Entry.11『旅人よ、慈悲あらば能う限りの呪詛と祝福を』Ameさん
洒落た出だしが読む気にさせる。嬉しい始まりだ。内容もハードボイルドな感じがして良い。グールというのは一種のモンスターだが、ここに出てくるグールは職業の別称(しかも差別用語)だ。主人公のやるせない気持ちを表現する為の設定にしては、行き過ぎの様な気もするが、読んでいて面白ければ、良いと思います。そしてこれは面白い。

Entry.12『親知ラズ』海坂他人さん
親の心を子供は知らないとはいうが、子供の気持ちも親は明確に知ってはいない。そういう意味でのタイトルとその内容は面白い。ただ少し判り難かった。多分それは広海のエッセイが始まろうとした所で、洋の気持ちが入っていて、広海のエッセイの中なのに、自分の事を広海という名前で云っている様に読めるからだろう。二月が十月になっているのは、洋の勘違いとも読めるが、これも二月に書いていた案内書(司馬さんの本の隣り)から探し出した別の場所にあったエッセイなのだから、別の日付であっても変ではないが、そこまで読み取るのは少し難しい。しかしラストの「それは親にはうかがい知れない、親の手は決して届かない姿であった。」は心に響く。

Entry.13『冬と机と角瓶と』羽那沖権八さん
なんか昔懐かしい暮らし振りを書いてるなぁと思ったけど、現在の話になっている。とはいえ若い頃はバカをやったよなぁ。あの頃の仲間は今はどうしてるんだろうか? そういう郷愁とでもいうべき思いが湧きあがってくる。こういう話というのも良いなぁ。しかし机を運ぶのに、反対にして橇にするという手はダメなのかなぁ。滑らなくて逆に大変なのかも知れない。

Entry.14『遠く耳の奥から』伊勢 湊さん
ごんぱちさんに続いて、伊勢さんも学生時代の話だ。こりゃあ何かあるな(笑)ごんぱちさんのが男友達との友情ならば、伊勢さんは郷里での恋の物語かぁ。幼なじみってなんか良いよね。この間の小学校の同窓会では、私も幼なじみと「いつも手をつないで一緒に帰っていた」とみんなに口を揃えてひやかされましたが、全然記憶に無いというのは恐ろしい。もっともあの頃は恋なんて感情は無かったですからねぇ。流石に中学とか高校になると、やっぱり恋愛感情が…。わぁ恥ずかしい。ってそんなにいう程恋愛経験はないんですがね。ただ導入部分の電話の話は余計な気がしました。ただ単に昔はこんな簡単に電話をかけられなかったという事から、彼女との思い出が浮かび上がるというのは、なんだか出来過ぎの様に感じてしまったからでしょう。ラストで曲が聞こえてきたときの堪えた涙は良かったんですけどね。

Entry.15『ALUCARD』自作
タイトルは勿論「DRACULA(ドラキュラ)」を逆から綴っただけです。昔手塚治虫が、使っていた記憶があります。しかし出だしが陳腐で全然良くない。「夜明けのバンパイア」を意識しているわけではないんですが、なんだかこんな話にしてしまった。出来ればこれは本編とも云える「彼」の話を書いた本の「はじめに」みたいな感じにした方が良かったなぁ、なんて思っています。しかしこういう人がいて、日本の歴史に何千年も立ち会って、ひょっとしたら有名な人達と関係があるなんて話が書けたら面白いのになぁ。しかし前後を泣ける話に囲まれているのは辛い(笑)

Entry.16『マイ・フレンド(昨日からの手紙)』有馬次郎さん
始めはラブレターとも思える彼女への想いが綴られていて、有馬さんどうしちゃたの? と想ったけど、早世してしまった彼女の(少女だからこそのひたむきさとでもいえる)想いが、ショパンの「別れの曲」とともに、懐かしさとせつなさとやり場のない静かな怒りみたいなものが、モノクロームで通り過ぎる。「別れの曲」というと、尾道シリーズなんかの大林監督の作品を思い出してしまうのは私だけでしょうか?しかしラスト近くの彼女の手紙は小学生らしい文章で驚いた。「マイ・ダディ・ロングレッグス」なんて、少し背伸びしている感じさえあって、微笑ましい分悲しい。

Entry.17『うつりにけりな いたづらに』るるるぶ☆どっぐちゃんさん
内容がハードボイルド風で、文章に情緒があるというのは面白い。もちろんハードボイルドとはいっても、「昨日どうしてた?」「そんな昔の事は覚えちゃいねぇ」「これからどうするの?」「先の事は判らねぇ」なんていう何十年も昔風の事じゃなくて、そういう意味ではどちらかといえば半熟ぐらいの内容ではあるが、命の遣り取りをする修羅場を多く経験している人達の(まぁ云ってみればやくざな商売)事ではある。一度やくざの話を書きたいとは思っているのだが、経験がない分想像したり、ドラマなどから得る知識しかないわけだが、さすがにこの作家もそういう点では同じようだ(笑)ただ主人公が女性か男性か不明な点が気にかかる。多分女性だとは思うのだが、途中で電話で会話するのが、おじさんの意見としては昔の恋人との電話の様に感じてしまったからだろう。主人公が刺された後で、廻りの状況を描写しないで主人公の回想になるという展開は良かった。どうしてもウェイトレスの悲鳴なんかが聞こえてきそうなのに、主人公の心情を書くことで今の主人公の虚しさみたいなものを感じられるからだろう。