第55回1000字感想

 今回は少し感想が早かったかな? それでも今回も感想が少なそうです。作者の方はいつものように気楽に読んで下さい。一人の読者が勝手に感じた事を書いているだけです。作品とは全然関係ないことも書いてあったりして感想とは呼べないものさえもありますから、先に謝っておきます。それに読み返して見ると何だか今回は結構キツイ事が書いてあったりしています。それでも作者を攻撃するつもりで書いているのではありませんので、あまり私を責めないで下さい。そこのあなた! ムチやロウソクは不用です。

Entry.01『オンリースペアハート、オンリー』鈴矢大門さん
観念的な話しなのかとも思えるのだが、何だか部品を盗まれたロボットの話しのようでもある。「うん、仕方がない」とか「じゃあ、そうしようかしら」なんていう他人に左右されるような書き方も、面白い表現方法だなぁとは思うのだけれど、そのどちらなのだと固定する事が出来ず、しかもそのどっちつかずの感覚がラストまで変わらないので、もやもやとしたままである。よく判らなかった。

Entry.02『罪』有機機械さん
ラストの一行が凄い。主人公の心が癒されるというブラックなオチが、ただ悲しいだけの話だったりしたら「ふーん」で終りだけど、この一行があるせいで、作品に厚みが出てくる。しかしネットの掲示板での名前が、Mad(狂気)だとかO2(オニ)だとかの発言とは別に、At me(ワイでんがな)の発言が主人公だったりしたらと思うと、それも又恐い。

Entry.03『A DAY IN MY LIFE』満峰貴久さん
こういう懐かしさから書上げる作品というのは、読んでいても自分の子どもの頃を思い出したりして、心が和んだりするものなのだが、その子供のころのエピソードを発展させるわけでもない書き方で、さぁ頑張るかという終わらせ方になってしまうと、読んでいる方としては面白くない。書いている時には、恐らく自分の子供の頃を思い出して、あんな事があったなぁと感慨にふけってしまうものなのだろうが、それは所詮読者には共感できると感じられるものではないと思う。読んでいて自分の田舎を思い出して、そういえば最近帰ってないなぁとは思っても、その感慨は人それぞれであるし、ひょっとしたら、そんな所へは二度と帰りたくないと思っている人だっているのだ。だからやっぱり小さなエピソードでも良いから、それを発展させた話を読んでみたい。

Entry.04『猫』春日竜之介さん
雰囲気はある。でも何だか面白くない。ラストでマルが咥えていた黒いものがボロの頭だったのかも知れないという疑問がそのまま残っているからだろうか? それを敢えて書かなかった作者の意図がわからない。読者に対してご自由にという事ならば、このわざわざ話しかけるという語り口調の設定では合わなくなってしまう。「え? その黒い物がボロの頭だったのかって? そりゃぁご想像にお任せしますが、ボロを埋めたところには、何故か白くて丸い形が浮き上がっているんですよ」なんて終り方にしても良かったような気がする。

Entry.05『ピエタ』詠理さん
ピエタって、磔にされたキリストを降ろして抱くマリアの絵だったり彫刻だったりするやつだと思うんだけど、この作品では彫刻の方を表わしているようだ。でこのピエタのテーマは悲哀とか哀悼とかいったものだとは思うのだが、この男のせりふの「…母親みたいで…」からは、ひょっとしたらこの二人は姉弟(兄妹)なのかとも思えてしまう。となると悲哀というのが、そのただならぬ関係の事に転化しているのかとも思えてしまうのだが、考え過ぎだろうか? 私の書くエロとは視点が違うせいもあるのだろうが、非常にエッチである。この路線の仲間が増えたのか? だとすると強敵である。

Entry.06『母の絵』中川きよみさん
まるばかりだった子供の絵が、何度も描くうちに人に見えたりすると感激するのは、それが写実的ではなくても、一生懸命描いたという事と、それが我が子の成長と繋がっているからであるが、この話しのように下手であってもそれが大切に思う人の為に描かれたという事が人の心を打つのは当たり前だ。その当たり前の感激を表現する為に、そこへ見当違い(ひょっとしたら本当に凄い作品だったりするのかも知れないが)の人物を登場させることで明確にするという、まぁ王道ではあるのだが、その王道さが少し私には気恥ずかしかった。

Entry.07『春の陽光に包まれて』夢追い人さん
人間だけが命の何たるかを考えるというのは、確かに傲慢かも知れないが、囚われの身となった金魚が「俺の自由は無くなって、死んだも同然だ」と感じるという設定の中で、お前もしっかり生きろという「もののけ姫」のテーマのようでもある。死をテーマにしないで、生をテーマにしているという事への好感を持った。出だしというのは大事だと思うが、書かれていない始めの一文の主語を探して読み返してしまった(笑)

Entry.08『天国へ300km/h』べんぞうさん
時速300キロを出す事が出来たという自信がついて、願いの2つまでは叶ったという事になって、翌日女性に告白して、彼女がスピード狂だったりしたら、付合う事になったりしたら、未練が無くなってしまうという事でしょうか? いえいえ、そうなればやっぱり叶えたい夢はまた湧いてきて、それを達成する為に、未練の固まりになって生き続けていって欲しいとは思うんですが、タイトルの「天国へ…」だとすると、やっぱり時速300キロを出した時点で、彼は事故に合うんでしょうねぇ。それとも天国っていうのは、この世の事であり、死を考えたことに対するオチとなっていて、彼は助かるんでしょうか?

Entry.09『キャッチングセンター』ユキコモモさん
始めタイトルが「キッチングセンター」だと思ってキッチンにグを付けるのは変だけど、どんな話しだ? と読み進んでしまった(笑)最近の若い親達は、遊びを知らないらしい。確かに田舎に育った私のように、木に登ったり蔦に掴まってターザンごっこをしたり、罠だといっては落とし穴を掘ったり、足を引っ掛けて倒れるように草を結んたりといった事を都会の人達が経験出きるとは思えないが、ガキ大将ともいえる人物が遊びを教え、経験を積まされるといった事は無くなってしまったのだろう。塾へ行ったりテレビゲームで遊んだりといった事が忙しくて、そういった遊びをしなくなってしまったのは悲しい。しかし現代の父親だって、野球は好きではなくとも、キャッチボールとか自転車に乗る練習くらいはやっているのではないだろうか?「親父なんかとやれるかよ」と反抗する前の、父親の権威が落ちる前には、子供だって父親と一緒に遊びたいものなのだ。それをしてあげられない父親は、一種の虐待とさえもいえるものであると思っている。とはいえ父親がいなくて小さい頃にはそんな事をしなかったという人だっているわけだから、こういう講習会があっても変ではないし、逆に人に良く見られようとして勉強するのだという事で、結構流行ったりするのかも知れない(笑)それを考えると、この話しはお笑いではなくなって、社会風刺にさえなっていたりする。

Entry.10『かげおくり』立花聡さん
「かげおくり」という言葉は知らなかった。見ていた黒い影が青空に白く映るという、まぁ残像現象なのだろうが、そんな事を子供の頃にやった記憶がある。幸せな今の風景を描写するのに、昔の記憶と重ね合わせて表現するというのは良くある手法ではあるが、なんとも素敵な作品に仕上がっている。可愛らしい子供の様子やそれを見守る両親といった風景が、子供の躍動感だけでなく、それを囲む淡々とした風景描写が良い。

Entry.11『鏡』浜渡創半さん
鏡というのは何故か神秘的で、鏡の精からコンパクトを貰って変身出来たりするし、はては質問に答えてくれたりもする。悪魔だって呼び出せるし、過去や未来へ行くどころか異次元へさえ旅立てる。そういう結構色々なパターンが出尽くされているような小道具を選んだこの作品が、果して1000字という中でどんな形で来るのか楽しみだったのだが、主客逆転というオチには少しがっかりした。しかし鏡の世界と現実の世界が似て非なるものという事で、こちらでは人気があっても、あちらでは人気がないという逆転の発想は面白かった。ただ片方が結婚してもう一方が結婚出来ないというちぐはぐさがあると、お互いに調和が取れなくなってしまうから、鏡の世界と現実とは、似てはいるが違った世界というパラレルワールド的なことなのだろう。こういう世界の人達が入れ替わったらという話しが読みたくなった。

Entry.12『白い私』卯月羊さん
青春の蹉跌という映画で始めて桃井かおりを知りましたが、ショーケンの相手役だったけど、あれは暗くて酷い映画だった(笑)でも大らかさの中に芯の強さが感じられる彼女は好きです。ちなみに女房殿の先輩でもあります。って全然関係ないけど、彼女が彼の元を出ていった理由が書かれていないせいもあるのかも知れないけれど、死んでも良いと思える程のショックを受けるという設定に、少し無理があるような気がする。まぁこの作品にはそんな事は関係なくて、雪の中に埋もれていくという情景が浮かんで、その映像的な美しさが理解出来れば良いという作品のようだから、これで良いのかもしれない。

Entry.13『クロスリズム』檸檬さん
「帰宅すべきなのに、まるでオアシスの無い砂漠を歩くような不毛な徘徊をしては、私は何とはなしに家の前を何度も通り過ぎた。私は疲れて果てていた」とするような所を、「夕べ。家の前、何度も通り過ぎた。オアシスのない砂漠を歩くような、不毛な徘徊に疲れて」と表現されると、自分の感性とは違っていて面白いなぁとは思うのだが、最近簡単な本ばかり読んでいる私には少し苦痛である(笑)詩的な表現というか詩的な文章というのか、そういうのは面白いとは思うのだが、多用されてしまうと読み難さに繋がるような気がする。で、これは小説なのだろうかという疑問さえ湧いてしまう。昔は夢が溢れていて、風船はどんどんいくらでも膨らんでいたのだが、今ではその風船も萎んで、消えてしまった。それでも私は生きていくのだ。そういう感情を表わすのに、ストーリー展開を重んじる私には、物足りない。

Entry.14『実家で』空人さん
「雪かきしといてね」で別れようとする妻がいるとは思えないから、夫には判らない(理解出来ない)何かがあったのであろうし、それが積もり積もって(雪と符合している?)きたのだろうとは思うのだが、それを読者にどうぞ御自由にという書き方であると、何だかこの主人公のだらしなさだけが目だって、こういう人が多くなったんだろうなぁ。だから離婚されてしまうんだ。なんて自分の事を棚に上げて思ってしまう(もちろん私はまだ離婚されてはいません)こんな時にのんびりと実家にいるという神経がわからないが、そういう性格付けだからこその展開なのだろう。会話の主が主人公なのか母親なのか一読しただけでは判り難いところもあるが、逆にそれがのんびりとしている性格の似た母子の表現にもなっているようで、それはそれで良いのかも知れない。

Entry.15『午睡』犬宮シキさん
植物人間になってしまった主人公の目からみた、悲しみにくれる恋人へ伝えたい思いが綴られているのだが、何だかそれだけのように感じてしまって、設定に現実味がない分、それが読んでいて面白さに欠ける。多分登場する人物の設定が曖昧なままで彼らの設定が読者に伝わらないからだと思えるからなのだが、ただ単に思いのたけを吐き出しているだけの作品となってしまっているようで、作品としては面白くなかった。

Entry.16『割る』ぶるぶる☆どっぐちゃんさん
3000字と同じテーマなのだろうか? あっちも破片が砕け散る美しさが書かれていた。でこちらはもっとストレートである。しかし相変わらず判り難い(笑)始めにすれ違うスカーフを巻いた白人女性が「ありがとうな」と言ったとさえ思って読み返してしまった(笑)わざと書いているとしか思えないが、この不条理とさえいえそうな小説世界がどんな世界か見えてこないのが良いのかも知れない(笑)

Entry.17『酔いどれ鴉』土筆さん
ラストがいただけない。「こんな言葉が鴉の耳に入ったわけではない…」ではなくて、ただ単に「かぁ」と鴉は鳴いた。で良かったのではないだろうか? カラスがそんな言葉を聞いていないと言いきってしまっては、単なる餌を漁った鴉になってしまう。これでは鴉を利用している意味が無いではないか。読者は鴉を使っているせいで、逆に何か感じる事が出来るのだ。それが社会風刺だと思う人もいるかも知れないし、ファンタジーだと思う人だっているかも知れない。そういう余裕を残して欲しかった。

Entry.18『ペパーミントはライバル』橘内 潤さん
若い女性が主人公の作品は、やはり男の私には少し荷が重い。ある程度の予想はついても、女性心理というのは判らない。現代的な感じのしかも若い女性の主観で書かれているから余計にそう思うのだろうが、女性はデートだと思っているが、果して男はどう思っているのかさえも不明瞭だ。というよりは、この女性に対する男性は友達感覚であるようだから、女性は恋心を持っていても、好きなんだと判らせなければ、男性も振り向いてくれそうもない感じがする。まぁ多分このまま二人の関係は進展せずに、女性の淡い恋も終わるのだろうなんていう予想が付いてしまうのだが、そんな関係であっても、女性の少しは進展したかな、なんていう想いが伝わってはきた。でもその感じがするだけで、やっぱり私には何らかの進展が欲しくなってしまう。

Entry.19『リフレイン』越冬こあらさん
透明な少年と犬を見る事が出来たという主人公が、今までの作風からはきっと不思議な世界が出来あがっていくのだろうと思ったが、そういうオチであるならば、不思議でも何でもなくなってしまう。そういう意味では期待外れだった。話の展開としては面白いのだが、「魂魄この世に留まりて」なんていう世界は私はあまり好きではないのだが、逆に恐さがない分楽しめた。

Entry.20『翼を下さい』ごんぱちさん
♪いま〜。わたしぃの〜。ねが〜いごとが〜。かな〜うな〜らば〜。と30年以上前の「赤い鳥」を思い出した。「手羽先」の事を手羽とはいうが、「翼」と言って注文した事はない。翼だと何だか羽が付いていそうで、恐い気もするが…。だから余計に翼と注文した時に、本当に羽付きの翼が出てきて、空でも飛べるのかと思ってしまった。学生時代に戻りたいけれども、そこへ行く翼はどこにも無いという感慨なのだろうが、そういうニュアンスを込めた作品であるからこその、学生時代の懐かしさという楽しさも伝わってきた。

Entry.21『肩の力を抜き状態を反れ』アナトー・シキソさん
今回の展開は何だか判りやすそうだと思ったのだが、話しの流れから5人目のエージェントの部屋での説明かと思ったら、そこは面談室?のような場所だったというラストである。「場」が大事であるという登場人物と、場が違うという設定との組合せ。そしてそれは部屋の中。そして人口衛星(場としては上方)とメールでの連絡(遠い場所)うーん。理解不能につき、感想断念。

Entry.22『転換』自作
「暁に零れ落ちたる星ひとつ」というタイトルで書き始めた未知の病原体の話しだったのが、こんな風になってしまった。締め切り間際だったのもあって(というかいつもそうなのだが)やはり設定に無理があって、実験台になる男女の心理が書きこめなかった。反省している。

Entry.23『壊れてる』さとう啓介さん
ラストの一文、これはいらないでしょう。今までと違った作風なので面食らったが、たまにはこういう作品も面白い。一樹が精神的に壊れていく様子と廻りの同世代の人達のいい加減さが、この作品世界を表わしていて、効果的だと思った。精神回路という言葉から受ける印象はロボットなのだが、登場する人物達と思っていたものが実はロボットに類するものだったらと考えると、これも又楽しい。ただこれは、ロボット化している人間という意味でもあるのだろう。

Entry.24『節分が来る』蛮人Sさん
♪酒が飲め〜る。酒が飲める。酒が飲めるぞ〜。酒が飲める飲めるぞ。酒が飲めるぞ〜。ってな訳じゃないだろうが、正月の次は確かに節分です。で流石に違った設定だったので少し安心。話しは相変わらずの好い加減さで、余裕が感じられる。面白いです。
で、豆の役ってどんな事するんだろ? まさか豆を炒る人じゃないだろうし…。豆の変わりに投げつけられるんだろうか? とにかく次回の「ひな祭りが来る」も楽しみにしています(笑)

Entry.25『強き野良猫と、弱き人間』太公望さん
若い人向けのお話である。タイトルから始めのせりふが猫のものだと踏んだのだが、次の文節で満員電車に揺られ会社へ行くという展開から、この言葉は人間が発したのかと思ってしまった。そうなると、また現れる同じせりふが、二度目の猫のせりふなのだと気付く。だから私はこの流れを塞き止めるような書き方に少し違和感を持ってしまった。寒さを凌げる衣ではなくて、愛されていると感じる心である「意食住」となった展開に現代だなぁと思ってしまった。

Entry.26『亜矢ちゃんの手』日向さちさん
誰もが好きで仲が良くて、みんな気の良い友達として楽しく生活している小学生時代の話し。やっつけてやろうと思っていた人に助けの手を差し伸べられるという展開なのだが、それでもそれはこの登場人物達にとっては些細な事であり、いつもの風景のひとつであるという感覚がまた楽しい。

Entry.27『煉獄』伊勢 湊さん
骨太な作品。普段の生活をそのまま延長して、それでも自分は大丈夫だと何の根拠もなく信じ戦場へ向かう兵士。もちろん覚悟というものはあるだろうし、人を殺すという意味も考えた事だってあるんだろうが、実際にその場に立って見なければ理解出来ない事でもあるのだろう。とはいえ作者が当事者であるわけはないから、創造の産物であるのは確かな事だし、それだからこそ書けた作品なのかも知れない。マスコミからの攻撃という戦争というものの本質さえもを変えてしまえる程の攻撃と、戦争の悲惨さを知っていても目を瞑って論点を摩り替えてしまうという、まぁありがちな話ではある。逆にそういう展開にした作者の、展開を変えた方がきっと面白いだろうという思いも少し感じてしまった。この骨太のまま突っ走ったらどんな作品になったのだろうと考えると、少し残念な気がした。