新世紀 [伝奇・ホラー・ファンタジー部門] 感想

 今回の感想は、途中でジオさんのダウンの所為もあって、中々進まなかった。しかもこの部門は私も参加しているんだから、全部読まなけりゃ、投票も出来ないしね。という事でやっと読み終わって、感想が書けましたが、相変わらず的ハズレな事を書いてるかも知れませんが、素人ですから許して下さい。

○Entry.01「名探偵十字−運命の依頼人」朝野十字さん
あまりに壮大な話である。ファンタジーというよりは、SFだろう。もっともSFには、スーパーファンタジーの意味もあると思っているからOKです。といっても、設定自体はマンガっぽい。(自分の作品は棚上げだよー)十字探偵と新之助との掛け合いが、ラスト近くなって、掛け合いのテンションが下がってしまったのは、仕方がないかも知れないが、掛け合いの面白さを残しながらのストーリー展開を期待したい。でも、やっぱり難しいかなぁ?その点がちょっと寂しい気がする。他部門エントリーと主人公達が同じという事で、昔々の「底抜けシリーズ」のひとつのパターンの様な印象さえ受ける。映画ならば、お笑い芸人がそのままのキャラで出演するファンタジーだから、やっぱりそのファンタジーとしての面白さに必然的に必要となってくる登場人物からは、少し外れてしまうのは、仕方がないことかも知れない。だが、これは主人公を変えないという難しさに、あえて挑戦した心意気に拍手。

○Entry.02「PIB(プリースト・イン・ブラック)」羽那沖権八さん
伝奇物が本物っぽく見える様にするには、やはり話しの流れが大事だと思う。昔の話と現在との事を交互に挿入することで、逆に作り物っぽくなってしまた様な気がするのは、私だけだろうか?昔の事については、想像するしかないのだから、あまり頻繁に過去の出来事を挿入するよりは、現在の調査の中から、想像する形にした方が良かったのではないだろうか。例えば、調査中に発生する不可解な事件や事故が、解読が進むまでは妨害だとは判らないとか、そういう展開はどうだろう。だけどこういう作品は、日本でなければ書けない話しだろうなぁ。タイムスリップしてイエスになってしまうなんて話がSFにはあるけど、実は磔にされたのはイエスではなかったという話自体は実に新鮮で面白かった。

○Entry.03「ロスト・ア・チャイルド」てれべさん
タイトルは、大人になったと思った主人公の意味からついたんですね。始めは失踪した(誘拐された)子供の事かと思いました。愛情を知らないで育った主人公が、ある事故?をきっかけに殺人の喜びを知ってしまう。愛情を受けられなかったからという事で正当化できるとは思えませんが、主人公の気持ちが納得は出来なくても、そういう人もいるのかも知れないという感覚はあります。やっぱりこれは「主人公=語り手」という事からなんでしょう。話しの始めの方では、主人公は殺人自体を自分でやったとは意識していずに、後半で自覚しますが、始めの方の死体の発見などから、ひょっとしたら、殺人鬼がいるのかも知れないという、サスペンス仕立てにすると、もっと引き締まった作品になった様な気がします。例えば死体を発見した時に、黒い影を見る。家から飛び出した時にも、影が通り過ぎるなどという風にすれば、誰か別の人が殺人を犯していると思えます。しかしその影は、実は自分のことで…。これじゃ別の作品になってしまいますね。ごめんなさい。

○Entry.04「正しい街」織原桐哉さん
始めは、ファンタジーかと思って読み始めてしまいました。ホラーじゃないですか。不可思議な体験をしていくうちに、主人公も引き込まれてしまうというのは、恐いです。しかし、この町の人達は他の町と接触していないのでしょうか?その点、舞台を日本でなく辺鄙な外国にすれば、良かったのではと思います。例えばバラバラにされる隣りの人も、会社勤めしているんでしょうから、突然失踪してしまう事で、騒ぎにならないというのは変ですし、隣りの奥さんが突然高い所から飛び降りて、その内帰って来るというのも変です。遊びで食べられてしまうという子供の親は、そのうち帰ってくると思っているのでしょうか?理性を捨てるという事が、自分が殺されてもいいという事になるのとは、ちょっと違うんじゃないでしょうか?逆にそういう変なところが、変じゃなくなってしまうという空間なのかも知れないですが、その点が引っ掛かりました。しかしこんな人達ばっかりだったら、恐い。

○Entry.05「女郎蜘蛛」耕田みずきさん
4年に一度しか年を取らないという女性(まるで妖怪だ)が社会に適用できるとは思えないが、その辺りの事が書かれていないのが、惜しい。学生ならば、2年に一度位づつ転校するとかしないと、やっていけないのではないだろうか。一体彼女の親達はどうなっているのか等の疑問も出てくる。日本の憲法では、年齢を見た目だけで判断する様な事にはなっていないし、戸籍の件だってどうしてるんだか不明です。ちなみに私も閏年生まれですが、4年に一度だけ年を取っていたら、まだ小学生だ(ちょっと心引かれる)蜘蛛の巣のイメージでの、抜け出せないという表現については面白い。

○Entry.06「プリーズ・プリーズ・ミー」工藤裕也さん
妖精が出てくるというんで、どんな話しになるのかと思っていたら、出てくるだけでした。ちょっと残念。妖精が、光って飛び廻っているという、映像的にはきっと幻想的かも知れませんが、その幻想的な雰囲気が出ていないと思います。きっと妖精をずーっと信じていない人が、ラストだけで出現する飛び廻る光りを、多分妖精なんだろうと思っているだけだからでしょう。妖精が良い奴だなんて決まっていませんし、確かに悪い妖精が沢山出てくる話さえありますが、人が住めない所には妖精も住めないという解釈は面白いとは思いますし、妖精が住みやすくする為に犯罪の低年齢化や公害(これじゃ人も住み難い)があるという発想も、新鮮ではありました。でも妖精の出現がラストだけというのは、やっぱり物足りない感じがしました。

○Entry.07「oetry」聖水生さん
うん。いいですねぇ。登場人物?たちの姿形も、まるで「ネバー・エンディング・ストーリー」みたいではありますが、生き生きしています。ただ、主人公が言葉を取り戻すまでの冒険を期待してはいたのですが、やはり40枚では書ききれないのでしょう。後半が余りにも性急過ぎて、作品的には、ちょっとパワーダウンかと思えてしまいました。でも途中に出てくる子供達のせりふが歌を唄っているようですし、色んな所に工夫が見えるのには好感が持てました。タイトルは、Poetry(詩作)の頭が落ちている(脱落→堕落している)の二重の意味の洒落なんでしょう。

○Entry.08「ミラーサイト」ケンチームさん
ファンタジーというのは日本では、テレビゲームのRPG物に代表されるからだろうか、まるでゲームをしている感覚の小説である。しかも自分がゲームに入り込むという話しは子供向けの話しにさえ存在する。そういう意味では、もっとひねった作品を期待した。鏡の中の世界といえば、「鏡の国のアリス」に代表されるが、日本でも「ミラーマン」やら「ひみつのアッコちゃん」など結構有名なものがあるし、それを超えた世界の構築が必要ではないだろうか?

○Entry.09「岬異譚(みさきいたん)」紅葉玄月さん
死んだ後に、井戸を潜ると不死になり、800年前の時代に飛んでしまう。死んで生まれ変わるという話しは良く聞きますが、死んだ後に、過去に向かってしまうというのは、実に面白い。千載尼が実はサトの生まれ変わりで、ミツラに逢いたい一身で800年間を過ごしてきたという執念は、長い年月で昇華されていったのでしょう。もしサトを井戸に投げ入れなければ千載尼は存在したのかという、SFでいうタイムパラドックスの問題も出てきますが、生きたまま井戸に入った二人は、きっと死んでしまうんでしょう(でなければ長寿の人口があっという間に増えてしまう)不思議な雰囲気も充分に出ている文章で良かったと思います。

○Entry.10「屑星:"3つの願い"」瀬宏かつみさん
3つの願いのパターンは、色んな人が色んなパターンで書いていますが、これもその一つ。注目すべき点は、3つ目の願いで、普通は失敗するのが殆どだと思うんですが、これはその逆を取っていて、好感が持てました。始めは抽象的な事かと思った書出しの文も、読み終わると理解出来ます。星(屑星)が願いを叶えるという、意外性は良いと思います。最後に子供達も、お星様にお願いするという事で、繰り返しの可能性を残し(これもパターンではありますが)感動的に仕上がっていると思いました。

○Entry.11「流浪の民」七瀬 創司(EM)さん
始めは、夢の中の出来事に入り込んでしまうパターンの話しかと思いましたが、主人公の心理が投影されている夢だったんですね。主人公が成長する為の思いが見せてくれた夢。道志=導師であり、ひょっとしたら、茜さんと付き合っていたのは、彼だったのかも知れませんが、夢の中での戸惑いと、現実の生活での思いが、人間が成長する話しになっていて、良かったです。実はもっと壮大な話(人間という生物が、これから生きていく為に、どうやっていくべきなのかなんていうテーマ)になるかとの期待もありましたが、これは40枚じゃ多分足りないよなぁ。

○Entry.12「Godzilla Rhapsody, 2000」川辻晶美さん
私は子供の頃、ゴジラよりもガメラが好きでしたが、リメイクされ出してからの作品ではやっぱり、ビオランテが最高だと思っています。GU(ガメラ2)が日本SF大賞を取ったときには、日本のSF界は素晴らしい、とさえ思いましたが、アメリカでゴジラが作られた時には、ちょっとがっかりしました。やっぱりゴジラは日本で暴れて欲しい。主人公がゴジラに会いたかったというよりは、彼女に逢いたかったという点では、本当にゴジラが好きだった訳ではないという、今の生活を壊したいという思いが主人公にはあったという事なんでしょう。それがゴジラに対する想い入れと重なって、ラプソディ(夢中)だという事なのかも知れません。そういえば、ゴジラ2000は未だ見てないなぁ。

○Entry.13「カーズ・オブ・トライアングル」三月さん
恐い。ホラーとしての恐さが十分に伝わってきます。登場人物が三人しかいないし、高行が何かをしているんだろうという想像は付きますが、呪いをかけているというのが恐いです。卒論で呪いの事について書いているという高行ですが、実際に信じるにたるだけの調査をし、且つ実践したというのは驚きです。呪いという目に見えない形での恐怖は、定番ではあるでしょうが、恐さは秀逸です。ただ、主人公の雄太の野放図な性格と対照的に、高行がもっと病的な感じを出しても良かったのではとは思いました。タイトルのカーズが何なのかが判りませんでした。ラストに出てくる、カラスの鳴き声ですかねぇ。

○Entry.14「青いキビ」自作
始めてQ書房に参加した3000字(さるかにの水)の続編です。その為、途中で登場する人物が不明な個所がありますが、出来るだけ書いたつもりでいたんですが、やっぱり判り難い。以前は登場人物が多いという難点も指摘されていて、一人事故にして休ませたんですが、それでも各々の性格付けがちょっと弱いかも知れません。一応言葉遣いなどで雰囲気は出したつもりなんですけどね。書いている内に登場人物に愛着を持ってきてしまいました。評価は悪くても、多分このまま、この登場人物達で話しを書いていく様な気がしています。ひょっとしたら同じ登場人物で、推理ものとかSFとかを書いていくかも知れません(これじゃ十字探偵と新之助みたいだなぁ)。でも昔話を題材にするというのには、まだ興味があるんですよねぇ。ちなみに星の位置から場所の特定は出来ますし、大型の猫科の動物を犬が嫌うというのは、もちろん事実です。ソフトがあるかどうかは判りません。

○Entry.15「鏡」土方秀さん
七生の悲しさが伝わってきます。いいです。壮一氏のプレゼントである鏡を媒介にして、ドリーム・マンサーが与えてくれる力を使うという発想自体も面白い。ただ凝ったサブタイトルが判り難いのは否めないような気がします。例えば、「しゃぼん玉=ドリーム・マンサー」なんだと思いますが、壊れやすい夢(=泡:プロローグでも出てくる)の様な事であり、醒めていく(終局がくる)という事だと理解しましたが、個人的には、ちょっとやり過ぎかなぁとも思いました。しかし、日常に埋もれた非日常としてのこの作品は面白かったです。

○Entry.16「七夕異伝」葉月みかさん
うろ覚えだった七夕伝説を思い出しました。夢のある話としての七夕を、そのまま夢のある話として書いているという点では、タイトルの「…異伝」というのにひっかかりましたが、人物描写も情景もきっちりしていて良かったと思います。脈々と流れる昔からの事柄が、現在に至って何かを現すという伝奇もののパターンを踏んで、ストレートな伝奇物という感じが安心させてくれます。が私としては、その球は変化して欲しいという、勝手な欲求があります。おじさんになってしまうと、やっぱり自分の性格も曲がってくるからかも知れません。「河漢」は天の川のようですが、冒頭のこの詩篇も創作なんでしょうか?だとしたら凄い。

○Entry.17「神落子」山口香代さん
話の内容は面白かったんですが、ちょっと物足りなさを感じました。主要な登場人物が二人だけだというのに、紺という娘の心情が中心で、まるで彼女の恋物語の様だったからだと思います。もちろん恋物語が悪いというわけではありませんが、そうすると怪異さを表す為の彼女の母親のシーンなどは余計な様にも感じます。始めは彼女が主人公かと思ってしまいました。それから読み始めは、時代設定というか、背景が判りませんでした。江戸時代くらいの話かと思って読み進むうちに、台詞が現代的だったからだと思います。江戸時代ならば、22才で母親なんてあたり前ですし、逆に子供が居なけりゃ完璧にイキオクレです。綺麗な女性が結婚もしていないなんて変なのではないでしょうか。わざとそういう手法を取っているのかも知れませんし、違う世界なのかも知れませんが、時代物は時代物として読みたいというのが私にはあるためでしょう、その点が気になってしまいました。

○Entry.18「沙耶」りんねさん
おぉ。いいねぇ。これは面白い。言霊使いと精霊の召還。「剣と健」「鞘と沙耶」確かに文字が無かった時代からある言葉には、力があるかも知れません。言霊使いというと、平井和正が良く「言霊使いが降りてきて、私に小説を書かせる」なんて事をいっていたのを思い出します。般若心教なんかも、音から漢字をあてていますからねぇ。ただそうすると、力があったという昔の言葉と今の言葉が、本当に同じ音なのかという疑問が残ってしまいます。昔から剣のことを「けん」と言っていたのか、鞘のことを「さや」と呼んでいたのか。字が持つ力にも言霊としての力があるんじゃないかという思いもあります。この辺が整理されれば、もっと良くなったのではないかと思いました。しかし面白かった。