新世紀 [純文学、時代小説、あるいは広義での中間小説部門] 感想

 私は純文学というものが、良く判りません。純文学を調べると、美的情操に訴える、詩歌や小説との事。でこれは小説のバトルですから、きっとこの部門では、心が表れる(洗われる?)様な話ばかりなんだろう。なんて思って読んでいったら大間違い。やっぱり純文学は判らない。でも、私が小説を読む時には、読んだら判りやすくて、誰の心にも訴える様な、ひょっとしたら児童文学あたりがそうなのかも知れませんが、そういう話が好きです。
 言葉を捻って遊ぶというのは、嫌いではありませんが、何をいっているのか判らなくなるまで捻られると、頭がげっそりします。(身体なら、痩せていいんですけどね)そういう私向きではない作品がこの部門にはいくつかあり、何日か読みたくないと思ってしまいました。そのせいで随分、感想が遅くなってしまいました。勿論これは、私の主観の問題ですし、個性は大事にして欲しいですから、私の様な者が何をいっても気にする必要はないと思っています。だいたい私の読む本といったら、俗にいう大衆小説(古い)ですからね。そんなパープリンな奴が感想を書くなんて恐れ多いことではありますが、こんな読者もいるんだという事です。気にしないで下さい。
 で、何故かこの部門は感想を書く期間が長かった為もあり、色んな心理状態で読んでいますので、もう一度読みなおしたら、違った感想になるかも知れません。結局はこの感想は私のオナニーだという事です。それでも良ければ、ご覧下さい。

○Entry.01『僕の私は俺を自分自身にした』白石昇さん
私と僕と俺と男とが、ラストでワシになったという、言葉遊びにしては長過ぎる。目まぐるしく変わる言葉に疲れてしまった。この部門の始めに読んで、判らず。途中で読んでも挫折し、結局最後に又読み返したが、何をいいたいのか判らない。

○Entry.02『動けない、今』赤井都さん
 主人公が木谷先生の姿を思い表現するのが、ちょっとくどく感じた。もちろん主人公の思いを読者に伝えたいからだろうが、私には、もう少しさらっとした方が好きだ。女性が女性を好きになるという事は、男性が男性を好きになるのと同じかどうかは判らないが、人間として好きになったんだと主人公はいいながら、彼女の身体に触れてみたいという欲求が起こってくるというのは、女性だからなんだろうか? こういう心理は私には不可解だった。

○Entry.03『傀儡』りんねさん
 主人公の少年が見たものは、本当に過去の出来事だったのか、夏の暑さが見せた夢、はたまた幻想だったのか?ちょっと恐い話しでしたが、昔NHKでやっていた少年ドラマシリーズを思い出しました。少年が大人に成長していく過程での、真実かも知れない夢は、母親に対する不審感を拭えないでいるが、忘れてしまおうとする少年の心が痛ましい。出来れば明るく終わらせて欲しかった。

○Entry.04『ナイト・オブ・トライアル』工藤裕也さん
結婚生活を続けていくと、いろんな事があるけど、こういう事って確かにあります。女房を信じてはいるんだけど、夫に内緒で何かをしているのに気付いた時、怖くて聞けない。聞けないから悩む。でも結局大した事はないって判って安心する。でも本当にそれが安心できることなのかどうかは、やっぱり判らない。微妙な夫の気持ちが、私自身が指摘されている様でした。

○Entry.05『フラッシュ』隠葉くぬぎさん
正直言って、何をいいたいのか判りませんでした。友人の死を知って、忘れないでいようと思ったという事なんでしょうか。タイトルの「フラッシュ」から考えると、ひょっとしたら、逢いにきてくれた、死んだ友人がカメラにでも写っていてくれたら、いい思い出になるのになんていう、感傷なんでしょうか。不必要とも思える情景描写が、少し煩わしく感じてしまいました。

○Entry.06『骨を叩く』夜啼き鳥さん
実際に骨を叩いたことが無いから、どんな音かはわからないが、ドアをノックする音のことではあるから、その音が骨にまで染み入るという事だとすれば、それだけ寂しい気持ちで暮らしているという事なんだろうか? 食べ物はなくても冷蔵庫にビールはあるという生活だし、自動車免許を取りに合宿できる身分であるのだから、多分普通の学生生活を(コンパもやれば、友人とつるんで遊ぶし、バイトだって)している様ではある。そういう学生が、綺麗な女性と一夜の経験が出来たという、いってみればそれだけの事ではあるが、骨を叩くと感じる様なノックの音を寂しいと感じるのならば、主人公である学生の寂しさが、足りない気がした。女性とその従兄という男性の気持ちは、何となく掴めるんだけど、主人公のいつも部屋で寝ているという、学生生活を謳歌しているという生活感の無さがそう思わせるんだと思う。

○Entry.07『騙された お順』やまだりょうじさん
松次郎が見つけた商売は、詐欺師ってとこですか。騙されたと判っていても、松次郎を信じているお順にはやっぱり松次郎はいい奴なんですねぇ。ラストの「騙されたと思って…」なんていう呼びこみが、雰囲気を盛り上げています。面白かった。

○Entry.08『泥の味』不明さん
弁護士になるには、大変な努力がいるようだが、出来れば色々な経験をして、聖職者として立派にやっていける様な人になって欲しい。泥の団子の味はこれからも主人公に、何故弁護士になったのかを思い出させてくれると思うと、こういう人がどんどん増えて欲しいと思ってしまう。さらっとして読んでしまったが、感動物である。

○Entry.09『睡蓮女抄』各務守一さん
幻想的な話。どちらかというと、別の部門の方が良いようにも感じた。睡蓮が高校生の少年に見せてくれた幻が、思い出になっても覚えているという強烈な印象が、果たして夢なのかどうかは判らないが、ちょっと恐い感じのする話に仕上がっている。面白い。

○Entry.10『おあむ物語』厚篠考介さん
さすが時代小説部門だ。時代物は好きです。気になったのは、大筒の影響で火を吹き、延焼を防ぐために、あちこちを崩すという事です。あの頃の大砲は確かに焼けた鉄の玉を打っていたようですが、それで火事になるのは稀ではないでしょうか? もっとも玉に水をかけるとかいう作業も出来ない程の戦況だったのかも知れませんけどね。でも、読み応えがあって良かったです。

○Entry.11『理想の時間とその相手』君島恒星さん
おぉ。恐いけど、羨ましい。こういう状態になってみたいようなみたくないような…。ストーリーは予想がついてしまいましたが、最後まで読ませてくれました。面白かったです。

○Entry.12『バッヘルベルの夜になる』ヒョンさん
可愛らしいと感じる曲のタイトルに合わせて、話自体も可愛らしい。女性に振りまわされるというわけではないけれど、女性のわがままをそのまま受け入れている主人公が、感じが良かった。やさしいねぇ。

○Entry.13『旅先では』Rvouさん
私が若かった頃好きだったアウトサイダー物でした。過去形なのは、今はこういう話を好んで読もうとは思わないからです。こういう話は十代。遅くとも25才位までに読んで欲しいです。友人の行動がホラーになっていくのかとも思った程に、この友人の不可解な行動は理解できませんでした。人生に悩む主人公の心の動きが、伝わってきて考えさせられます。

○Entry.14『Voice』葉月みかさん
話としては、よくある?話の様な気もしますが、男からみるとこういうのは切ないです。男性とのSEXが、少女の頃の初恋の相手でもある従兄との、拒絶出来ないという状態での経験が、トラウマとなって今に続いてはいるのだけれど、自分ではしっかりと直していきたいと願う。本当は精神科にでもいって、ちゃんと治療した方がいいのかも知れないけれど、出来れば優しい彼と二人で克服していきたいと思う主人公の気持ちが、伝わってきます。

○Entry.15『14』山口香代さん
うわーっ、いいなぁ。マブチみたいな生徒ばかりなら、今の日本も変わるだろう。めっちゃくちゃ素敵なキャラクターです。途中で出てきた佳織という名前を、一瞬「住職」と読んでしまい。やっぱり偉くなるのか、なんて勘違いしちゃいましたが、カオリちゃんの強いところだけじゃなくて、女らしいところも書いてあるからこその、素敵なキャラクターでした。14才という、まだ大人とは呼べないけど、自分なりの信念を持っているというのは、素晴らしい事ですが、そういう人って結構男の子だったりする話があるけど、女の子が主人公っていう所が、この作品を余計に、素敵なものにしている様に感じました。ただ私が子供の頃って、こんな個性的な奴が多かった様には思います。本当に今の学生って、集団としてだけの奴ばかりじゃないとは思うんだけど、その辺りは判らない。

○Entry.16『The Amber and an Ant』三月さん
やりたい事を一生懸命やって、青春している。いいなぁ。夢が叶うという琥珀との出会いで、自分のやるべき事をしっかりと見つめなおして、夢を確認して、自分の思うとおりに生きて行こうとするのは素晴らしいです。夢はいつまでも持ちつづけていたいとは思うものの、若い頃に溢れていた夢も、今ではどこかに埋もれていってしまった様にさえ感じてしまう私ではありますが、こういう作品に触れると、若いっていいなぁ。なんてしっかりおじさんになってしまうのでした。