『タイムマシン』
 やはり俺が実際にやってみよう。このマシンで時間旅行をするの
だ。SF小説等でいわれていたタイムパラドックスは、発生しない
事が分かっている。当然だろう、時間を溯ったとしても、現在の時
間線の過去に到着する訳ではないからだ。いや厳密にいうと到着し
た時点で、別の時間線が発生してしまうのだ。つまり並行世界とい
う訳だ。
 このタイムマシンにしたところで、科学的な知識が殆ど無い俺に、
別の時間線から来た俺が、タイムマシンの作り方を教えてくれたの
だから。

 未来への実験は正しく出来た。但し過去への実験については、並
行世界が発生する為に、無限の可能性がある為、実験の結果が思わ
しくない。例えば10分前に溯ってみたとしても、まずタイムマシ
ンが現われて、10分後の時点で、10分前に溯るというテストを
しないと、10分前に現われたタイムマシンはどこから来たかとい
う問題になってしまう。しかも10分前ではなく、20分前か1日
前にセットするか判らないのだから。結果が発生してから、その事
象を作り出す作業をしなければならない。もっともそんなテストを
しなくても、別の時間線の俺がそのテストをした結果発生した現象
なのだから、深く考える必要はないのだ。逆にマシンが着いてから、
溯りのテストをしないでいれば、マシンは2台に増える計算になる。
どこかの並行世界の俺にとっては、溯りのテストをした時点で、マ
シンが手元から無くなるという憂き目にあうだけなのだ。

 俺はそうやって、予備のマシンを2台手に入れていた。科学の発
展のおかげで、不器用な俺でもマシンはノートパソコン程の大きさ
で収まっている。しかも予備の1台などは、たばこの大きさで手に
入った。別世界の俺に感謝というところだ。ひとまず3年前の俺に
あってタイムマシンの作り方でも教えてやろうか。いやこの一番大
きい予備のマシンをやってもいいな。そうすれば、もっと早くに時
間旅行の可能性が発生する。

 翌朝俺は3年前に溯った。

「誰だお前は?」3年前の俺はそう聞いてきた。
「未来のお前だよ、タイムマシンでやって来たのさ」
「すると、3年後にはタイムマシンが発明されていて、俺でも使え
る様になるのか?」
「いや、俺だけだ。このマシンをやるからお前も時間旅行でもしろ
よ」
 俺は使い方と理論を教え、別の世界に向かおうとした時、頭を鈍
器で殴られ死んでしまった。この世界の俺は随分残忍な自分勝手な
奴らしい。