『ストレス』
 目覚ましが鳴らなかった。揺すると秒針が息をしながら動き出した。柱時計はもう9時。10時からは会議だ。隣の部屋からテレビの音が漏れてきた。着替え始めると、女房の声だけがした。
「まだ行ってなかったの。早く行きなさい」

 俺は台所から包丁をするりと取り出すと、女房の寝室に向かった。
 文化包丁だが仕方が無い。「何よっ」という非難の声を無視し、
 俺は女房に何度も包丁を突き刺した。

「行ってきます」
「ゴミ忘れないで」
 女房の声に、俺はゴミ袋を抱え家を出た。
 ゴミ置き場では、隣のおばあちゃんがニコニコと挨拶してきた。
「おはようございます。今日はゆっくりですね」
「あ、おはようございます」
「お忙しいから、大変でしょう」
「いやぁ、そんな事ないですよ」
 俺も、笑顔を振り撒いた。

 係長にもなれないと近所で吹聴しているばばあを、俺は殴った。
 ばばあは「ぐふぁ」と言ってゴミ袋の山の中で、溺れていた。

 駅前では、学校のはずの女子高生達が、座り込んで笑っていた。

 近頃のガキ共は、勉強もしないで遊んでばかりいる。逆パンダの
 顔も何とかならないのか。俺は小便をかけて、顔の化粧を落とし
 てやった。

 遅い時間だが、電車は混んでいた。化粧の濃い女が大声で喋っていると思ったら、携帯だった。
 うるさい奴だと見たら、目が合って睨まれた。長い電話が終わると、俺に詰め寄ってきた。
「ばーっか。イヤらしい目で見てんじゃねぇよ」

 女とは思えない口ぶりをしたブタは急に黙った。俺の右手の包丁
 が目に入った様だ。俺は期待に応え、ブタの脂身の多そうな腹に
 包丁を刺し込んでくいっと捻ってやった。ブタは痛い痛いと泣き
 喚いた。「っせい」俺が一括すると、ブタは殊勝にも泣き声を押
 し殺した。周りの乗客は突然俺達の周りから、潮が引くように離
 れ、少し静かになり、空いた席に俺は座った。

 10時ギリギリに会社に着いた俺は、課長にいい訳し会議室へ向かったが、会議は始まらなかった。

 会議で俺は、居眠りしている奴に包丁を突きたて、遅れてきた奴
 に切りつけたら、殆どいなくなったが、会議は無事終了した。時
 間を潰しただけか。

 酒の飲めない俺は、会社帰りにパチンコ屋で少ない小遣いを減らした。家に帰るとメモが留守を守っていた。

 今日は久美ちゃん家に泊まりです。適当に食べてね。愛してるわ。

 俺は慣れてきた夕飯を作る為、台所に立った。今日はエロビデオでも借りるか。