『メール巷間』
「手筈は判ってるな。ムショに入る事になっても、心配いらねぇ、後の面倒は見てやる。帰って来たら幹部候補だ。しっかりやんな」
 幹部候補が聞いて呆れる。5年も下っ端をやって目が出ねぇなんざ、この稼業にゃ向かねぇのよ。足を洗えばいいもんを、鉄砲玉なんぞで命を落とすのは可哀想だが、それも自業自得というもんよ。まぁ言われた事だけはちゃんとやるから今までいられたが、流石に年の食いすぎだ。

「♪マサカリ担いだ金太郎」曲が流れてメールが届いた。

《兄貴、事務所の前につきやした。明かりが点いてません。どうしやしょう》

 勝治に限らず最近の若ぇ奴らはメールだけは早い。会話をそのままのスピードで打ち込めるのが当たり前のようだ。しかしこのくらいのことで、聞いてくるというのも、臨機応変な対応が出来ないからだ。情けない。しかし事務所が留守というのはオカシイ。俺はマサにいって、メールを送り返させた。

《鍵なんぞ壊して入れ》

《は、入りやした。電気は点けてもいいでしょうか》

《馬鹿野郎! 電気は点けるな》

《奥で物音がします。どうしやすか》

《おい、勝治。メールの着信音はどうしてる?》

《あっしのは桃太郎です。あっすんません。バイブに変更します(汗)》

 奥に人がいるなら完全にばれている。隠密行動が出来ないとなると、ここは突っ込むしかねぇか。

《その辺に、2・3発ぶち込んで帰ってきな》

 これで奴もお陀仏だろう。

《4発ぶち込みましたが、なんか昔の演歌みたいなのが聞こえるだけで、何の反応もありません》

《何が聞こえるって?》

《携帯の着信音だと思います》

 俺は唖然とした。ひょっとしたら相手も誰かに聞いてるんだろうか? バカな留守番を置いているらしい。

《誰か出てきました。チャカを向けて「誰だ?」って言ってます》

《組の名前は出すんじゃねぇぞ》

《どうしたら、いいでしょう》

 相手も勝治と同じなら、突拍子も無いことをすれば助かるかも知れないと考えた俺は、秘策を授けた。

《いいか、黙って裸になって、その辺にクソでもしろ》

《えっ? クソですか?》

《そうだ。相手が驚いてる間に逃げて来い》


《頑張ってるんですが、出ません(ToT;)》

 絵文字なんか使うな!

《相手は何をしてる?》

《メールを打ってます》

《それじゃ、メールを打ってる間にその野郎のカマを掘っちまえ》

《いやですよぉ、そんなの》

《生きてそこを出たきゃ、やれ!!》


《兄貴、これって癖になりそうっす(^o^)》