『エル(くじらの夢)』
 子供が好きなくじらのエルは、あちらの島からこちらの島へ、背中に人を乗せながら、夢を運んでおりました。

 どんな嵐の夜でさえ、ほかの島へ行きたいと、言えば必ず出かけていって、涙も運んでおりました。

 ある日男がいいました。エルは海しか行けないけれど、街では大きな飛行機が、どこでも運んでくれるんだ。

 たくさんの人をいろんな島へ、運んだ事はあるけれど、空を飛べればどこでも行ける、みんなもきっと喜ぶだろう。

 エルは大きな海の上、ゆったり泳いでいましたが、空を泳いでみたいなと、魔法使いに聞きました。

 魔法使いは言いました。空を飛ぶのは出来るけど、二度と海へは戻れない。空でしか生きられない。

 エルは魔法をかけられて、雲を追いかけどこまでも、空を自由に泳ぐのが、出来るようになりました。

 けれど海には入れません。地上に降りる事さえも、出来なくなっておりました。これでは人は乗せられない。

 エルのあまりの悲しさに、魔法使いは考えた。夢の中だけ乗れるよに、キップのいらない遊覧飛行。

 それからエルは夢の中、子供を乗せてゆっくりと、夜空をめぐり飛びまわる。

 子供が寝ていて笑う時、エルと遊んでいるのかも。