最近読んだ本の話し  (2002年)
2002/11/21
◎「亡国のイージス」上下巻 福井晴敏作 講談社文庫
前作「トゥエルブYO」の続編。但し前作に登場した登場人物は出て来ない。前作の感想を読みなおして思ったのだが、今回はミエミエのラストではなくって、思わぬどんでん返しが待っていた(笑) 前作で沖縄に隠されていたアメリカが開発した兵器が今何かと話題の北朝鮮の工作員達が奪って海上自衛隊のイージス艦を占拠し、日本にその兵器を使うかも知れないという「沈黙の艦隊」みたいな軍事ポリティカルフィクション?です。前作の話も面白かったけど、今度のはもっと面白い。何でも「日本推理作家協会賞」「日本冒険小説協会大賞」「大藪春彦賞」の3賞を受賞したらしいけど、確かにそれだけの作品だけあって、感動的でもあるし、なかなか読ませてくれる作品だった。登場する人物の背景も十分書かれていて、本当にのめり込んで読んでしまった。こんな作品はなんだか久しぶりのような気がする。前作でもそうだったが、そんなに強い主人公でいいのかと思わせる登場人物達だが、もうそんな事はいっていられなくって、頑張れと声援したくなってしまう程、彼らに親近感を持ってしまう。なんでもアメリカが悪いという図式もそろそろ飽きているのだが、相変らずアメリカは底意地が悪くて、北朝鮮の「テポドン」はアメリカの陰謀で発射されたことになっていたりするし、もともと今回登場する兵器だってアメリカが開発したものだ。そのとばっちりを日本が受けて前作での沖縄の悲劇があるわけだけれども、そんな不条理な世界よりも、日本人がどっちつかずの戦争に対する考えや、自衛隊という名前の軍隊を持っている日本だが、攻撃されて始めて反撃できるという先手必勝の現代戦において、負けが決まってしまうのに手が打てないという矛盾を抱える自衛隊の人達の思いもテーマに絡んでくるのだが、やはり日本の小説だけあって、浪花節的なテーマになっているのが私は好きだ。事件が終わってからのエピローグも感動を盛り上げてくれる。これは是非読んで欲しい。

2002/11/10
○「信長秘録 洛陽城の栄光」井沢元彦作 幻冬舎文庫
もう5年も前に出た文庫本です。(玉にある駅販売の古本販売で買いました)タイトルの「洛陽」は中国の洛陽から来ていますが、話の設定は、織田信長が本能寺の変で死ななかったらどんな歴史になっていたのかという話ですが、正しい歴史に戻そうとする、まぁタイムパトロールが主人公のSFっぽい話です。SFっぽいというのは、何故時間を遡れるのかなんていう説明はありませんし、どちらかというと主題が何故明知光秀は、本能寺の変で信長を討とうとしたのかという、あの歴史の分岐点ともいうべき話がテーマになっているからです。この話は色んな人が色んな意見を出しているし、この話にしてもまぁそんなもんだろうという突飛な話にはなっていませんでしたが、私の考えと似ているんで、まぁ良いかなっていう感じです。3日天下なんて言われている明智光秀が、本当は何を考え、何故そんな事をしたのか、はたまた本当に明知光秀がしたのかなんていう話は、考えれば凄く面白いテーマですから、自分なりの考えを話しに書くのも面白いかなぁなんて思ってしまいました。

△「「シアトルの魔人」殺人事件」吉村達也 角川文庫
これは○に近い△でした。彼のシリーズ物の元刑事の烏丸ひろみが探偵役の話ですが、事件自体はたいした話ではありませんでした。事件に巻き込まれたと思われた男女が実は事件に関わっていたという…。まぁ予想はつくし犯人もすぐに判る話なんで、推理小説としての出来は△なんですが、途中に出てくる話は面白かった。「アボットとコステロ」というアメリカのお笑いコンビの名前は知っていましたが、流石にそのネタまでは知らなかったんですが、アメリカでは余りにも有名らしいギャグの話が面白かった。どんなギャグかといえば、野球を見に着た二人が、このチームはチームメートをニックネームで呼ぶといい、ファーストは「誰」で、セカンドは「何」でサードが「知らない」なんて名前なんです。それで、「君は選手の名前を知ってるか?」「イエス」「じゃ誰がファースト?」「イエス」「ファーストの名前を聞いてるんだけど?」「誰」「だからファーストは誰が守ってるのか聞いてるの」「誰」「何を聞いてるの?」「聞いてないで答えてるんだけど…」ってな感じでファーストだけじゃなくて、セカンド・サードと続くらしい。しかもレフトは「何故」でセンターが「なぜなら」でピッチャ−は「明日」でキャッチャーが「今日」なんて続くから話はぐちゃぐちゃになるという漫才だ。これが映画の「レインマン」にも常識として出てくるらしいのだが、私はこのギャグを知らないから、何だか判らなかった。

△「どんどん橋落ちた」綾辻行人作 講談社文庫
5話からなる連作で、始めから読んで下さいという注釈があるくらいだったので、始めから読んだ。というのも途中から読んでしまうと、始めの方の話のトリックが判ってしまうという難点があるからだが、これはどちらかというと反則すれすれのトリックを使った短編集というところだろうか。それなのに△というのは、トリックの意外性があまりにも意外性の無さ?というか一話を読んで、この本はそういう本なのかと判ってしまえば、残りの4話はたいしたトリックではなくなってしまうのだ。単なる読者としてはやはりこの感想が行きつくところだろうと思う。しかしこの作品集には、なんだか切ない雰囲気が漂っている。というよりは鬱状態のウィルスが蔓延している。実名で登場する作家本人はスランプで書けないでいるし、何だか過去の自分らしい人物さえも登場する。不思議な1冊ではあった。

2002/10/31
△「七人の武蔵」磯貝勝太郎編 角川文庫
七人の作家が書く「宮本武蔵」像の短編集。司馬遼太郎・津本陽・山岡荘八・光瀬龍・武者小路実篤・海音寺潮五郎・山本周五郎というそうそうたるメンバーの作品が並んでいる。うーん、それでもこれはお奨めにはならない。来年のNHKの大河ドラマらしいけれども、武蔵の文献自体は殆どないに等しいけれども、それを七人の作家が夫々の思いを描いて書いているんだけれども、なんだかあんまり突拍子もないような作品は無かったのが残念。

×「頑張って太郎さん」眉村卓作 ケイブンシャ文庫
久しぶりの眉村作品で、久しぶりの×(笑)だが、10年前発行の文庫本。古本屋で見つけました。サラリーマンが主人公の超短編小説集で、はっきりいってあまり面白くありません。というかSF作品ではありません。ちょっと不思議な少し変な小説集でした。どちらかというと最近の推理小説家が書く短編の方がSFっぽいというのには驚きです。ラストにはエッセがついていますが、どちらかというとこちらの方が面白い。

2002/10/25
○「イリーガル・エイリアン」ロバート・J・ソウヤー作 内田昌之訳 ハヤカワ文庫
ロバート・J・ソウヤーといえば、宮部みゆきと同じ様に安心して読める。ハズレがないのだ。「理由」とは違って読む前の期待感とのギャップは全く無かった。面白い。SF小説ではあるが、これは法廷推理物でもある。本格的な法廷推理物というのは読んだ事はないが、アメリカの陪審員制度という緊迫感が持てる法廷物だから、昔懐かしい名作「12人の怒れる人々」?だったかの映画を思い出す。何故緊迫感があるかといえば、弁護士も、判事も被告が罪を犯していると思っていても、陪審員が罪を犯していないと思えばそれで良いという、陪審員制度の問題点もあるが、それだからこそ話としてみると面白いのだ。タイトルにエイリアンとあるように、地球に他惑星の生命体が(アルファケンタウリ星系から)やって来る。そしてその生命体(トソク族)が人間を殺したという罪に問われるのだが、果たしてその結果は?という推理小説としても立派に成立する話である。中にはあのシンプソン裁判が出てきたり、スティーブン・スピルバーグの名前が出て来たりと、実名入りのシャレも少しだけ登場したりするし、陪審員になるためのテストでは、UFOを見た事があるかなどの質問があって、陪審員を決めるなどの面白さもあった。しかし法廷物だけあって、検事と弁護士・判事のやりとりは読み応えがあった。裁判の結果の後での、又別の意外な展開もソウヤーならではの面白さだった。SFが嫌いでも推理小説が好きならば、特に法廷物が好きならば、これは読んでおかなければならない一冊でしょう。

2002/10/23
○「チグリスとユーフラテス」上下巻 新井素子作 集英社文庫
新井素子といえば、生粋のSF作家である。大体デビュー作からして評判になっているし、SFではないがテレビ化された作品もあるから、知っている人は多いだろう。で、この作品は第20回の日本SF大賞受賞作だ。実は読み始めて、上巻の途中でダレて、これがSF大賞かよぉ、と情け無くなりそうになったが、ラストまで読んでこの作品の良さが判った。なんだか解説には「神の物語である」なんて書いてあったが、私にはこの作品は「生きるという事」が書かれていると思った。何故人間は生きていくのか、何の為に生きるのか。そういう少し大上段に構え過ぎかなとは思うけれども、彼女なりのメッセージが伝わってきた。女性らしいやんわりとした感性とでもいうのだろうか、なんだか日本のSFも外国には負けていないぞと思ってしまう。話は未来で、ある惑星に移民をするのだが、その移民は結果的に失敗する。というのも、人間の生殖機能が巧くはたらかず、子孫が出来ないのだ。そしてとうとう最後の子供が生まれるのだが、その子が老女になって、今までコールドスリープで、眠っていた過去の人達を蘇生させ、対話をしていくという話だ。蘇生させられる人達は病気だったりして未来に希望を繋いぐ為に冷凍になっている訳だから、長生きは出来ないのだが、蘇生させられた人達と老女になっている最後の子供との対話は、禅問答をしているわけではないが、それが平易な文章で語られる。でもそれはやっぱり禅問答なんですよね。生きるとはどういう事なのか、何故人間は死んでしまうのか。久々に嬉しいテーマに当たったようで、面白かったです。

2002/10/08
○「理由」宮部みゆき作 朝日文庫
彼女の作品はあまりハズレが無いんで安心して読めるし、直木賞受賞作だからと、期待してしまった。まぁ期待はそんなに裏切られなかったけれども、これが彼女の最高傑作だとは思わない(文庫の帯にはそう書いてありました)始めの頃の「龍は眠る」とか「クロスファイア」(これは最近ビデオで見たが結構面白かった)の方が面白かった。さてこの作品だが、ある記者(これは一人なのか複数なのかは判らない)が荒川区の高層マンションで起きた殺人事件を、1年後位に関係者達のインタビューを纏めて発表したという過程のノンフクション形式の小説だ。彼女というか日本の最近の刷り小説家の傾向でもあろうが、これは推理小説としての推理を楽しむ作品ではない。人間、特に家族に焦点をあて、事件に関わってくる人達の生き方や考え方を深く探って、これでいいのかと問いかけてくる。血の繋がりはあっても、家族としての体裁を保てない、又は保ちたいんだけれどもどうしようも無くて、家族から離れてしまうという心情が書き込まれている。この書き込まれているというのは一応皮肉だ。私は今の推理小説というのは、好きではない。推理小説は出来れば、楽しいものであって欲しい。冒険物が好きな私としては、人間の微妙なこうだからこうなってしまったというような、人間模様は読みたくない。確かに直木賞受賞というだけあって、この作品は推理小説ではなくて、文学している。推理小説は大衆小説であって欲しい。読み終わった後に考えにふけりたくないし、あぁ面白かったといって、本を閉じたい。だがこの小説はそういう気持ちで読んでしまうと、少しがっかりするだろう。登場する人物達が直面する人間関係が悲しくて、考えさせられてしまう。事件だけを書いて謎解き物にしたら、きっとこの本は半分の量にもならないだろう。まぁやっぱりこの作品は彼女の最高傑作とは思えないが、読んでおいても損にはならない。

2002/09/25
◎「最果ての銀河船団」上・下巻ヴァーナー・ヴィンジ作 中原尚哉訳 創元SF文庫
ヒューゴー賞・キャンベル記念賞そしてプロメテウス賞を受賞しているSFです。上巻の帯には「謎の恒星系で二つの大船団が交戦、航行不能に! 眼下の惑星に産業文明が生まれるのを待つしかない」とあって下巻の帯には「本格SFファンの求めるすべてがある 3000年を生きてきた伝説の男が立ちあがる」と書かれていた。まぁ凄そうだというのは判ると思う。話は宇宙戦艦ヤマトなんかが使うワープ航法なんて無くて、遠い星まで冷凍睡眠で交代しながら航行し、人間の寿命も延命治療を受ければ実時間で300才位という世界の話になっている。もちろん冷凍睡眠をするから、登場する人の中には3000年も生きている人がいるのだ。子供の方が年齢的に大きかったり、集まろうという約束も、200年後だったりする。ここで使われている時間の単位は全て「秒」だから、3メガ秒なんていう記述が多く出てくる(大体1ヶ月位?)で、話はオンオフ星と呼ばれる太陽のひとつしかない惑星に、商人の船団(星間を廻って富を得ようと商売をしていく人達チェンホーと呼ばれる)とまったく別の船団(エマージェントと呼ばれる人間を改造して能力を高めている)が一応協力してその惑星の利権を得ようとするのだが、エマージェントの裏切りで、船団同士が戦争になり、双方とも傷ついて、帰ることさえ出来なくなってしまい、惑星の文明が育つまで、隠れて待っていようという話である。惑星では非人間型の生物が文明を築いていて、それが蜘蛛に似ていることから蜘蛛族と呼ばれるのだが、彼らの中の天才科学者を中心に話は進んでいく。このシャケナー・アンダーヒルという惑星の住人(住虫?)が凄く魅力的だ。ここの太陽は200年程の周期で、明るくなったり暗くなったりするのだが、その所為で暗い時期は、寒くて地上に住めず、空気まで凍っているから、みんな地下深くに潜って冬眠する。太陽が明るくなっても、始めは爆発的な燃焼の為、2年程は暑くて、否熱くて住めない状況なのだ。この太陽のオンオフの理由は説明されていないが、これって凄い設定だよなぁ。下巻の中程から、エマージェント側(戦いはエマージェントが勝ったので、チェンホー側は牛耳られている)は、蜘蛛族を力でねじ伏せ様と攻撃をしかけようとするのだが、それを阻止しようとチェンホー側の何人かが活躍していくのだ。ラストでは意外(蜘蛛族が頑張っている)な展開もあって、なんとかハッピーエンドなのだが、これが又面白い展開だった。こういう設定だと、何だか地球に来ている(笑)宇宙人も、こういう形で地球からは観察できないところに隠れていて、地球がもう少し文明が発達するのを待っていたりするという話でも書こうか(笑)なんて思ってしまった(わぁーっ、これじゃパクリだ)

2002/08/29
◎「ミスターX」上・下巻 ピーター・ストラウブ作 近藤麻里子訳 創元推理文庫
この作家の話は始めて読んだが、面白い。ブラム・ストーカー賞受賞作品だとうなずける。話は、主人公の母が危篤になり、その知らせも受けずに主人公は母が危ないと感じ、生まれ故郷に帰る。途中、主人公に都合の良い展開ばかりが発生し、母の最後を看取るのだが、主人公は父親を知らず、母が最後に父の名前を言い、それを調べていくという、まぁ簡単にいってしまえばそういうストーリーなのだが、実は始め読み難くかった。というのも視点がミスターXと名乗る人物として書かれたり、主人公(ネッド・ダンスタン)の視点で書かれたり、時間軸も現在や過去へと入り組んでいる。しかもドッペルゲンガーともいうべく、主人公の片割れが出現し、主人公として行動したりするのだ。これは一気に読まないでいると、よくよく整理しないと、混乱してしまいそうになる。登場する人物、特にネッドの叔母さん達は盗みのプロだし、マトモだと思われた恋人役として登場する人物さえもが、ラストでは意外などんでん返しが待っていた。こういう展開は私には思いもつかない、というか人生勉強だなぁ、なんて思ってしまう。長編だけあって登場人物も多いのだが、みんな魅力的でしかも悪ばかり(笑)その彼らが相手の様子を覗いながら話が展開するのは推理物としての醍醐味だし、主人公を殺そうと狙う人物と主人公の対決する方法はホラーというよりはSFだし、全体を被う雰囲気はもう完全にホラーだから、どんな話といわれると、説明に困ってしまう。ラブクラフト(クトゥルー神話で有名なあの人ですよ、念の為)の作品がキーポイントとして出てきたり、ストーリーもその世界に似た様相を呈してきたりと、この世界を文章力のない私が伝えるのは難しい。これは是非映像として見てみたいなぁと思ってしまった。2冊組で1900円(税別)という値段だが、これは納得です。

2002/07/31
○「野鳥の会、死体の怪」ドナ・アンドリューズ作 島村 浩子訳 ハヤカワ文庫
「庭に孔雀、裏には死体」に続く、メグ・ラングスローシリーズの2作目。1作目は読んでいて笑ったが、今回は少しパワーが落ちた感じがした。とはいえ面白い。話は前回の続きで、ラスト近くで恋人同士になった主人公とマイクルという俳優が両親が新婚旅行に行っている間に、披露宴の流れで家にいついている親戚達から少しでも離れて、あまい時間を過ごそうと、おばさんがいつでも使って良いといっていた、季節外れの別荘(孤島)へ行き、静かな甘い時を過ごそうと向いますが、なんとそこには、新婚旅行から帰ったばかりの両親と彼らを迎えに来た弟、それから親戚の一部が集まっていて、しかもそこは、バードウォッチングのメッカで、バードウォッチャー達が、到るところに出没し、二人っきりになんかなれないという悲劇でした。しかもそこで死体を発見してしまい、その死体はなんと、お母さんが昔付合っていた男で、しかも島の人達からは疎まれ、バードウォッチャーからも嫌われるという、誰が殺してもおかしくない人なんです。結局島中の登場する人達全てが容疑者で、しかもどこからでも色んな所を見ているバードウォッチャー達の目を掻い潜って死んでしまうという離れ業、しかもその島はハリケーンが上陸していて、死んだであろう時間には、父はハリケーン見物と称して行方不明。叔母も被害者をステッキで殴っているという、動機はあっても、アリバイがないという展開です。まぁ犯人は例によって、最後の50頁くらいまでは判らない様に書かれています。しかしここに書かれているバードウォッチャー達のなんとも力強い行動力には関心させられました。死体よりも鳥がメインですし、開発よりも環境保護という人達が、大挙して行動しているんですから、もう一体どうなることやらという、個性豊かな登場人物達の面白さは最近の推理物ではピカイチでしょう。

2002/07/28
○「花面祭 MASQUERADE」山田正紀作 講談社文庫
 久しぶりの山田推理物。女囮捜査官シリーズより前の作品だったらしい。とはいえ7/15初版の文庫本ではある。出自は「別冊婦人公論」に掲載された4つの話に前後の話をつけて1つの話に作り変えられた作品だという。つまり途中にある4つの話は登場人物は同じ人達であり、それぞれの話は推理小説としての体裁を保っていて、且つ前後に付加された話で全体が纏まって又違った話として構成されているという事だ。まぁたまにこういう小説にぶち当たるときもあるが、そんなにある訳ではないだろう。だからといってこの話が面白くないかといったら、そんな事はない。全体として見たときに主人公というか語り手(探偵役)が締める位置も推理小説としての正義の味方ではないという山田正紀らしい面白さや、トリックの意外性は面白い。残念だと思ったのは、「しきの花」という重要なトリック?がどうやってという解法がないままに終わってしまったことだろうか? まぁこれは話の流れ上、秘密にすべきことではあるのだが…。

2002/07/18
△「ブレード・マン」菊池秀行作 光文社文庫
 チャンバラ物が書きたいと言って書いた話だというのだけれども、期待のチャンバラアクションは、荒唐無稽なアクションへの様変わりしてしまていて、昔ながらのチャンバラを期待してしまった私には、残念な内容だった。勿論話は設定も現代になっていて面白いのだが、なんだか今までの菊池文学がそのままで、魔物が出てこないだけの魔界都市とでもいうのか、めちゃくちゃ強い人達が登場しているだけで、新鮮味に欠けた作品になっていると思った。

2002/07/14
○「諜報指揮官ヘミングウェイ」上下巻 ダン・シモンズ作 小林宏明訳 扶桑社ミステリー文庫
 つい作家名で買ってしまった本だ。勿論、あの「ハイペリオン」シリーズの作者である。なんだかヘミングウェイがスパイになって活躍するみたいな話っぽかったんで、これは面白いかと思って買ったけど、期待は全然裏切られなかった。しかもこの話の設定の95%は事実だというから驚きである。登場人物も、有名人が多くて、後の大統領である、ケネディなんかは、ドイツのスパイだと思われている女性と恋に落ち、FBIからは盗聴されていて、親父からも見放され(当時は長男を大統領にしようとしていたアメリカの富豪の家庭だった)戦争中の事だから、戦地へ派遣されたりするし、イギリスのスパイとして、イアン・フレミングも出てくるし(勿論、007の生みの親)映画俳優のゲイリー・クーパーやイングリッド・バークマンそれにマレーネ・ディートリッヒも花を沿えている。FBI長官の、J・エドガー・フーヴァーの、諜報機関同士の内輪揉めから、日本軍の真珠湾攻撃の情報を知りながら、手を打たなかった事を筆頭に、アメリカの為よりも自分の保身の為の動きをするFBIを嫌っている正義の味方的存在のアメリカに味方する諜報機関達の動きや、敵対する機関の動きが混在がしていて、しかもそれが非常に混み入っていて、これが本当のスパイ物なのだろうと思わせるストーリーと他人を信じられないからこそ、誰にも本当の自分を見せないという中にあって、作家であるヘミングウェイの単純で、しかも精力的な力強い行動が、魅力的だった。そういえば、ヘミングウェイの作品って、あんまり読んだ事が無かったけど、まぁこれはお遊びだけれども、ヘミングウェイが語る、作家になるにはどうするかなんていう話は結構面白かった。しかし戦争は嫌いだけど、平和の為に戦うというヘミングウェイの心情はなんとも爽快であった。あとがきに書いてあったが、なんだかこの作品も映画化されるらしい。読んで面白いのが、観て面白いかは判らないが、第二次世界大戦の頃のアメリカ(ではなくキューバが舞台)のスパイ小説。しかもその殆どが事実を踏まえて書かれているというストーリーは、ひょっとしたら本当にこうだったのかも知れないと思わせてくれて面白かった。

2002/07/07
○「ボーダーライン」新保 裕一作 集英社文庫
 やっと出たこの作家の作品だが、期待が大きかった分、少しがっかりした。主人公の心の葛藤というか行動の理由を説明する為の伏線としての昔話が、あまりにも多くてウンザリしてしまった。相変らずこの作者の書く話の主人公は普通の職業ではない。今回は、ロスの日系企業の探偵の話だ。本の帯に「裁くのは神か、私か−。」とあったが、その辺りの境界線(ボーダーライン)という意味でのタイトルらしい。アメリカ国籍を持ってはいても、日本人としての生き方が身についているという事と、人間としての尊厳とまではいかないが、そういった感情を主軸に書かれている。横道にそれてしまうストーリーを外すと、多分半分位の量になってしまいそうだが、私にはその半分の量でも充分面白いと思えた。

○「スター・ウォーズ エピソード2 クローンの攻撃」R・A・サルヴァトア ジョージ・ルーカス作 富永和子訳 ソニー・マガジン文庫
 来週から公開される映画の原作。映画は今から楽しみだ。その原作なのだが、エピソード1の時にも原作を始めに読んでから映画を観たが、これは本を読んでから観た方が映画が判り易かった。そのせいもあって読んだのだが、ストーリーについては、やっぱり言えないよなぁ(笑)。しかし映画を観るつもりならば、やっぱり読んで欲しい一冊です。映画の予告編を観るとアナキンスカイウォーカーは、大人になっているし、パドメは相変らず綺麗だし、本を読んだだけのイメージとは違う、もっと壮大な映像が待ち遠しい。

2002/60/24
△「クッキングママの超推理」ダイアン・デヴィッドソン作 加藤洋子訳 集英社文庫
 クッキングママシリーズも本作で、なんと10作になっていた。めちゃくちゃ面白いのかといえばそんな事はなくて、いつもなんだこの主人公はと読みながら思ってしまうという、なんだか惰性で読んでいるようでもあるが、この「なんだこの主人公は」という思いが、読みつづけさせているのかも知れない。小学生の男の子を持つ独身女性だった主人公も警察官と結婚し、子供も中学生だし、大学に通う育ての子(?)もいて、判れた旦那は刑務所暮らしになったりと、結構波乱万丈の生き方をしている女性だが、今回もやっぱり、好奇心の強い猫のごとく、事件に首を突っ込んでしまう。もう止めろよと思うのだが、主人公のグチが全面に出てきて、やっぱり危ない目にあってしまうのだ。それが面白いかといえば、やっぱり私はそんな事普通はしないだろう。と思ってしまうのだが、これがアメリカ女性の特質なのだろうか? 私にはどうしても付いていけない。でもこの「もう首を突っ込むのは止めろよ」と思わせるストーリーが魅力なのだろう。

2002/06/16
○「風の呪殺陣」隆 慶一郎作 徳間文庫
 隆慶一郎の作品は全て読んだと思っていたが、丁度本を持たないでいた時に、kioskで見つけて、読んだかなァと不安気に買ってしまった(笑)。しかし読んでいなかった(10年も前に出ていた。そういえばエッセイ集も読んでいないが、あれはいいや)あとがきを見ると後100枚加筆してより完成度の高い作品にする予定だったらしい。確かに後半の登場人物達の生き様が少し物足りなかった。しかしやっぱりこの作者の話は面白い。話は戦国時代の織田信長の、比叡山の焼き討ち(皆殺し)から信長の死までを、比叡山に関係していた三人の若者の姿を通して書いている。信長の人間とは思えない所業とそれに反発する家族を失ったり、修行を断念せざるを得なかった復讐に狩りたてられる元僧侶達が、作者独自の姿勢に沿って心地よいほどに生きている。本能寺を何故明智光秀が襲ったかという謎を、ひとつの仮説として提示してはいるが、これは少し荒唐無稽な部類ではあるが、読み物としては面白かった。まぁ面白ければいいんです。

○「伯爵夫人は万華鏡」ドロシー・ギルマン作 柳沢由美子訳 集英社文庫
 おばちゃまシリーズのギルマンが書くもう一つのおばちゃまの話で、これは2冊目。第16章まであるが、この1章がなんだかテレビドラマの1話のように連続している。まぁ短編の集まりみたいな感じで色々な人達がそれぞれの章に出てくるという趣向なのだが、もちろん何話(何章)にも渡って解決していく事件もある。とはいっても推理小説ではない。物に触るとその持ち主の感情や考えがわかってしまうという超能力を持つ女性(マダム・カリツカ)が主人公のお話である。俗にいうカウチポテト小説なのだが、彼女の作品は読んでいて心が落ち着く。全体的にほのぼのとしていて、尚且つ社会の悪に対する姿勢が純粋で、心が洗われるようでさえある。主人公が持つ人生哲学とでもいうべきものに共感するからだろう。そういえば本文に日本の地下鉄事件を起こしたあの宗教団体の話が出たりと、時事問題も出てくるが、生きることの大切さや、素晴らしさを感じさせてくれる一冊である。

2002/06/05
△「懐かしいあなたへ」菊池秀行作 講談社文庫
 本文250頁程で、14作品という短編集。異形のモノが徘徊するバイオレンス物の代名詞のような作者だが、これはちょっと不思議な本人いう所の「奇妙な味」の作品集。この作品集を読むと、なんだか私が書いている作品はこういった作品ばかりのような気もした。ひょっとしたら私は「奇妙な味」の作品を目指しているのかもしれないなぁと思わせてくれた作品集だ。作者も気に入っていると書いてあった「大きな夫」は私も好きな作品だった。しかし全体的に、なんだかQ書房の作品群を普段読んでいるせいか、新鮮さが感じられなかった。Q書房を知らなかったら、もっと面白く感じたのかも知れない。

2002/06/01
○「一千年の陰謀 平将門の呪縛」井沢元彦作 角川文庫
 三種の神器というのがあるのは常識ですが、三種の神宝(しんぽう)があって、それを使えば超人の様に、何でも出来てしまうという話。平将門の子孫である主人公が、夢に出てくる滝夜叉姫のお告げで、三種の神宝を探し出し、日本の危機を救うという伝記物です。作者の政治感が色濃く出ている作品ですが、彼の政治感には共鳴してしまうところがあるせいか、一気に読んでしまいました。もし日本で原発がテロに観まわれてしまったらどうするのかという様な問題提起もあって、この作品が書かれたのは4年前のようですが、アメリカのテロ事件を対岸の火事のようにみていた日本人には読んでおいて欲しい一冊でした。

◎「指輪物語」(第ニ部・二つの塔)上1・2 下巻(第三部・王の帰還)上下巻 J・R・R・トールキン作  瀬田貞ニ・田中明子訳 評論社文庫
 とうとう全巻読んでしまった(笑)今年の暮れと来年の暮れに予定されている映画は勿論観ていないけど、これは面白い。しかし原作を読んでしまうと、やっぱり映画の配役が気になってしまう(エルフの女王はもっと綺麗な人であって欲しかった)が、最後まで読んで、これはやっぱり「ホビットの冒険」を読まずばなるまいと思った。指輪物語の主人公は一応、フロドとなっているが、これはこの旅・冒険をしたホビット達みんなが成長していく物語だ。勿論冒険物というと、人間として成長していくという展開だから私は好きなのだが、この話しは主人公だけでなく、登場するホビット達みんなが、大きくなっていく話になっている。登場する一人一人が鮮やかに書きこまれていて、誰が主人公なんだか判らないくらいだ。いやいや勿論ホビット達全員が主人公なのだ。だから古典の価値としての話しや設定というよりも、その中に含まれている精神が未だに衰えないのだろう。全9冊という長さだったが、これは短く感じてしまた。もっと続きが読みたくなる。

◎「宮本武蔵」光瀬龍作 廣済堂文庫
 SF作家の時代小説。だからといってタイムトラベル物ではない。本当に巌流島の戦いがあったのか疑問視されてさえいる宮本武蔵だが、余りにも有名過ぎて、何故今までこんな事に気付かなかったのだろうかとさえ思える疑問点がこの本には提示されていた。佐々木小次郎は現存するというのは聞いた事があったが、宮本武蔵とは時代が違うと聞いていた。だから私は巌流島の戦いは本当は無かったのだろうと思っていたが、昔の文献にはちゃんと戦ったとの記述があるらしい。その不思議な点を作者は鋭く突いていた。侍(殿様持ち)が決闘をするはずがない、という事。本当に武蔵はそんなに強かったのかという事。そういう事をこの本は整然と説明してくれた。内緒で教えてしまうと、武蔵が戦った小次郎は偽者だった。という仮定(でもこれが本当なんだろうとさえ思えるストーリーだった)から始まるし、本物の小次郎とは戦えず、変わりにその奥さんにさえ敗れてしまうという武蔵。しかも彼らは隠居していてもおかしくない年齢だ。こんな素敵な設定なのだから面白くないわけがない。これは絶対読んで欲しい。

2002/05/04
○「聖竜伝説・燃える地球」田中光二作 光文社文庫
 文庫書下ろしとなっていたんで、完結かと思っていたが、これはまだ終わっていないで、登場人物の背景が説明されただけだ。売れればきっと4・5冊位になるかも知れない。で話は、封印されていた地球の過去に存在していた悪の思念と人類(古代の戦士)の思念とがが現代に蘇り、悪の思念に取りつかれた人達が起こす怪異現象を打ち破っていくというストーリーなんだけど、まぁ冒険物やSFが好きな私としては、面白かった。是非続編を書いて欲しいものです。なんといっても1巻目を間違って2冊も勝ってしまった読者としては、読み続けるしかない(笑)。誰か欲しい人がいたら、差し上げます。

2002/04/24
◎「エンディミオン」上・下巻 ダン・シモンズ作 酒井昭伸訳 ハヤカワ文庫
 丁度1年程前に読んだ「ハイペリオンの没落」の続編(4部作の3部目)です。やっと読むことが出来ました。嬉しい。前作から時代は300年程後になりますが、狂気の詩人(笑)サイリーナスに命を助けられた語り手のエンディミオンが、サイリーナスの巡礼仲間だったレイミアと、いうならばコンピュータが創り出した詩人のキースとの間の子であるアイネイアー、それからアンドロイドのベティックの3人が、旅をするという話です。300年も前に生まれたはずのアイネイアーは、時間の旅行?をしていた為に、まだ12才ほどの年齢ですが、彼女を捕えようと狙う凄い力を持っている宗教団体(聖十字架と言われる死んでも生き返ることのできる生物を寄生させている)の追ってから、逃げるという設定ですが、その逃げる方法も流石にSFです。昔映画にあった「スターゲート」(現在もケーブルテレビではテレビ版を放映しています。これも面白い。今は第3シーズン放映中)のような大きな(小さな宇宙船位なら通れる)輪を潜って、色々な惑星へ川下りをしながら進んで行きます。但しその輪はアイネイアーとその連れしか通過出来ず、300年以上前から動きを止めているというシロモノなんですよね。少し説明が難しいですが、まぁ、川下りの観光船に乗っていると、途中に門があってその門を潜ると、まるっきり別の世界(別の惑星)に進んで行くという形式です。(なんでも昔はそういう観光事業があったらしいという設定)でも、どこを通るかは誰にもわからない。あぁ、説明が難しい。とにかく到着する惑星も、水の惑星・氷の惑星・砂の惑星等々、惑星事態の描写も素晴らしい。そういうところの生物体系ばかりでなく、SFらしい小道具や設定が、もうめちゃくちゃに楽しい。こんなの映画で撮ったら凄いだろうなぁ。なんてシーンが山ほど出てきます。ラスト近くで追手側に加わった悪魔の如き人間?にやられはしまいかと、はらはらドキドキです。この楽しさはやっぱり読んでもらわないと判らない。

2002/04/07
◎「シルクロードの鬼神」上・下巻 エリオット・パティスン作 三川基好訳 ハヤカワ文庫
 「頭蓋骨のマントラ」に続く、単道雲(シャン・タオユン)のシリーズ2作目。前作の時には50年位前の話だと思っていたけれど、何と現代の話だった。前作から1年も経過していないが、既に20世紀は終りに近づいている内容だった。ということは現代のチベットなどの境遇は現在進行系の話だから、それを考えると恐ろしいというか悲しい。そして自分の世界を見る目のなさが痛感される。前作で牢獄からは出されたが、無許可の為、脱走犯と同じ扱いになる主人公は、今度はウイグル自治区の方へ子供が殺されるのを防ぐために活躍?する。タクラマカン砂漠の厳しさや、やはり中国からの圧政に苦しむ人達の姿が涙を誘う。何故子供が殺されるのかは、推理小説の謎解きの部分に関係するのでここでは言えないが、何でも許すというよりは、何もかもそのまま受け入れてしまうというか、宗教の為の事以外には自分の生命さえも省みないという、ラマ僧達の力強さには今回も心を撃たれてしまう。しかしこの話は、主人公単(シャン)が歩む「心の旅の物語」に発展しそうである。中国の捜査官(政治的な理由付けだけから善悪の区別などは殆ど関係なく人を罰する)だった主人公が、以前から隠れて信仰していた道教の教えを基に、チベット仏教からの影響を受けて人間的に大きくなり、過去の自分を見つめなおしながら生きていく。この話は推理小説というよりは、どちらかというと、そっちの方に重点があるのかも知れない。登場人物は今回も一癖ありそうな連中が多数登場するが、彼らの生きる事への情熱は、平和ボケしている日本人にとってはやはり衝撃的だ。勿論推理小説という分野での作品としても面白い。続編も執筆中らしいから、今から楽しみである。

2002/03/10
◎「指輪物語」(第一部:旅の仲間)上1・2下1・2巻 J.R.R.トールキン作 瀬田貞ニ・田中明子訳 評論社文庫
 第ニ部・第三部については、まだ読んでいないけど、これはまたの機会にしたいと思います。しかしこの作品で、評論社は随分儲かったんではないだろうか?文庫本だけでも1冊700円で全部で9巻もある。しかしこの文庫本の紙の厚さは異常だ。普通の文庫本なら400頁くらいの厚さなのに、250頁くらいしかない。これはちょっと儲け主義から来ているとしか思えない。という作品以外の事について書いても仕方がないんだけど、話はあんまり昔にちょっとだけ読んだんで全然覚えていなかったから、始めて読んだのと同じなんだけど、やっぱり面白かった。もし映画を観たけど、まだ読んでいないという人は絶対に読んで欲しい。もし映画が面白くなくっても、小説は面白い。映画をこれから観ようと思っている人がこれを読むとマズイので、内容についてはあまり触れないでおきたいが、白雪姫に出てくる小人たち(ドワーフ)が何故金鉱堀なのかも解かるし、ってそんな事知らなくってもいいんだけど、読んでいるとヨーロッパの妖精達の体系や人間との関わりがわかってくる。もっともこの作品が大人向けに書かれた始めての本格的なファンタジーという位置付けもあるし、この本によって書かれた妖精達の設定がそのまま後に続くファンタジー小説の基礎になったのは有名だし、ロールプレイングゲームの考えの元になっているという定説もある位だから、まず読んでおいて損はないと思う。
 小説の中では非常に重要な位置を占めるであろうトムおじさんが、映画では全然出て来なかったのが残念だったし、悪の象徴として映画(第一部)ではクリストファー・リー演じるサルマンが、大きな位置を占めているが、小説ではまだ曖昧模糊とした存在でしかない(まぁ、今後どうなっていくかまだ読んでいないので何ともいえないが)どうしても映画と比べてしまうのだが、やはり、長い映画ではあったが小説を読まなければ解からない設定が随分あるし、違う設定になっている為にどうしても変に感じてしまう個所もある。今の流行なのだろうし、そうしなければ商業映画としては難しいのだろうが、映画に比べると小説の方は、もっと落ちついて重厚であったし、主人公達の旅も大変だった。映画では味わえないこの醍醐味を是非小説で味わって欲しい。

2002/02/25
○「鉄鼠の檻」京極夏彦作 講談社文庫
 やっと読み終わった。発行が去年の9月15日となっていて、発売してそんなに経たずに買った記憶があるから、なんと5ヶ月もかかってしまった(笑)まぁ、寝る前に読んでいただけだから、1日1頁なんてこともあるんで、仕方がない。しかしこの本は勉強になる。「禅」というのが、仏教の悟りを開くための一部と思っていた私には「禅」自体が独自の宗教だと知り驚いている。まぁ宗教にあまり興味を持たないで生きてきているから仕方がないのだろうが、言葉で表す事が出来ないが為に、その指南書とでもいうべきものが無いという、一風閉鎖的な存在である「禅」をメインに捉えてのストーリーで、昔出てきた人達が、また関係しているという味付けもあって読み応えがあった。もっともここで紹介する必要もないくらいに有名な作者の文庫本3冊目だから、もうみんな読んでしまっているだろうから、ここにはあまり書く必要もないだろう。しかし悟りを開くというのを、科学的に説明するというのは、以前読んだ「BRAIN VALLEY」(過去に記載)の脳死と同じ形式だというのも納得がいく。だからこそ麻薬で悟りの境地と同じ感覚を得るというのが書かれてもいた。しかし悟るということは、一瞬そう思えるだけで、持続出来ないからこそ大変らしい。ひょっとしたら、仏陀達でさえ、持続した悟りの境地を本当に開いていたのかどうかという不安さえ起こってしまった。キリストは本当は聖者でもなんでもないという小説もある位だから、ひょっとしたら仏陀も悟りを開いていなかったという小説もどこかにあるのかも知れない。

2002/02/17
△「御手洗潔のメロディ」島田荘司作 講談社文庫
 私の好きな御手洗潔(みたらい・きよし)ものです。日本に住んでいない作者は最近御手洗物を書いてくれないので残念がっていましたが、これは御手洗潔の若い頃の話しや、話しには直接出ないけれども話題だけというような作品群(短編4作)からなっています。中にはミステリーとは言えない物もありますが、多分御手洗ファンには嬉しい1冊でしょう。私もどんどん嵌って読んでしまいました。御手洗物を読んだことがない人には絶対勧めない1冊ではあります。というのも彼の魅力は出ているんですが、外伝的要素が強過ぎて、御手洗物のミステリーとしての面白さには欠けてしまうからです。

2002/02/4
◎「頭蓋骨のマントラ」上下巻 エリオット・パティスン作 三川基好訳 ハヤカワ文庫
 「アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀処女長編賞受賞」という作品です。もう1年位前に発売になった作品なので読んだ方も多いかも知れません。話しの舞台はなんとチベット。年代は明記されていませんでしたが、多分50年位前の話です。中国に占領され奴隷の如く扱われていたチベット人達と一緒に、主人公の中国人は政治犯として刑務所に入れられています。政治犯とはいっても当時の中国での政治犯ですから、チベット仏教とでもいうべき僧侶達が沢山収容されています。酷い扱いを受けている中で、道路建設をさせられているのですが、ある日首のない死体が工事している途中で発見されたことから展開していくという推理物ですが、登場する中国から派遣されているお偉いさん達のなんと怪しいことか、しかしその怪しさは当時の中国の表れでもあり、偉くなる為には当然みんながしているであろう事ばかりで、一体誰が犯人なんだ。ひょっとしたら僧侶達が殺人を犯しているのか? なんていう気にもさせてくれる作品です。勿論僧侶達はどんな迫害にも無抵抗で、信じている神(この場合は仏様か)の為なら死んでも構わない。しかも悪いことは一切しないという人達ばかりです。そんな中主人公が昔の職業(大蔵の官僚もどきで、不正を取り締まっていた)の経験から、所長から犯人探しを命じられ探偵のような仕事をしていくというストーリーなんですが、主人公の心の中の葛藤ばかりでなく、登場人物達の魅力が充分満喫できました。
 本を読む面白さのひとつには、知的好奇心を満足させてくれるという要素があると思っている私にとっては、当時のチベットの様子や彼らの考え方なんかがとっても興味深く、宗教のなんたるかを考えさせられる内容でもありました。それを知る為だけにでも読んで損はないと思ってしまいます。久しぶりに読み応えのある一冊かな。

2002/01/22
○「びいどろの城」白石一郎作 講談社文庫
 最近なんだか時代物ばかり読んでいる気がする。それも何故か平賀源内が登場するのが多い(笑)。で結論からいうと、話しとしてはお庭番が主人公で、彼の仕事が長崎に行く平賀源内を護衛するという役どころだ。お庭番は一応下級ではあるが、武士なので、位からいったら平賀源内よりも偉いので、源内も「名取さま」と呼びかける。大衆小説の大御所らしい作品ではあるが、主人公が少し忍者にしては、心優しく、騙されやすい人間として描かれており、そんなの信じるなよと現代の人間ならば思ってしまうような手に掛かってしまうと言う、お間抜けぶりはちょっと興ざめかも知れないが、そういう人間だからこその、人間に対する優しさや思いやりが引き出されている。忍者としては失格だとは思うが、腕は中々いいようだ。この作品でも平賀源内のヒトが現代人にも似て描かれているが、平賀源内の話しを読めば読むほど、何だか彼は未来からきた人間なのかも知れないとさえ思えてくる。平賀源内という人物は、一時行方不明となり全国を行脚する時期があるので、ひょっとしたら未来人が彼の過去を知っていて、彼に摩り替わって江戸時代を生きているのかも知れないと思うと、楽しくさえなってくる。まぁ話しはそんな話しではなくて、主人公の名取八郎の長崎見聞禄の様相ではあるが、田沼意次の政治や、源内の心の内なんかと、主人公の恋を絡めて、安心して読める一冊ではあった。

2002/01/14
 随分怠けて久しぶりの更新で、今回は一挙に3本分。随分前で少し忘れかけている(笑)
○「メリッサの旅」ドロシー・ギルマン作 集英社文庫
 御存知「ミセス・ポリファックス(おばちゃま)シリーズ」の作者のおばちゃまじゃない方の話しですが、彼女の話しっていうのは、なんだか読むと元気になる。今回もスパイ物なんだけど、おばちゃまよろしく普通の女性が巻き込まれてしまいます。でも今回はスパイの話しというよりは、主人公の心の葛藤の話し。今回の主人公メリッサは、心の病があってその治療目的で一人旅をするんだけど、「生きる」という事へ対する現代人にも通じる(というのもこの本の初版は1964年らしい)悩みがあって、人との関わりだとか他人の視線だとか、一種の鬱病にも似た病気を克服すべく人生を遣り直そうとしている。でも中々そうはいかないという気持ちが良く表れていて、「こんなんじゃいけないんだ」「前向きに頑張ろう」という気持ちにさせてくれる。読んでいるとなんだか自分も頑張っていこうという。なんかそんな気持ちにさせてくれる一冊です。こんな勇気が出るような話って今の日本じゃ中々読めないのが残念だと思う。昔は平井和正の「幻魔大戦」なんかを読んでると、落ちこんだ気持ちが高揚して元気が出てきたけど、これはそういう意味ではおばちゃま版の幻魔大戦に匹敵するかも知れない(笑)(もちろん幻魔は出てきません)

○「ノービットの冒険(ゆきて帰りし物語)」パット・マーフィー作 浅倉久志訳 ハヤカワ文庫
 今年はトールキンの「指輪物語」の映画が公開されるけど(なんでも3部作で再来年分まで取り貯めしているらしい)、そのトールキンの「ホビットの冒険」(ゆきて帰りし物語)のパロディというか、それを下敷きにした話です。残念ながらタイトルは知っていたけど元本をを読んでいない私には、面白さが半減なのかも知れないけれども、これだけでも充分面白い。物語のテンポもよくて、奇想天外度も中々のものだ。主人公のノービットは、いうなれば辺境の地の田舎者で、自分達の世界から外へは行きたがらないで、今の生活を楽しみ変化を嫌っている種族です。そんなノービットの中のベイリーという若者が、まぁ、郵便物を拾った所から始まる完璧なスペースオペラ物なんだけど、冒険している最中でも昔の生活に戻りたいと願っている主人公が、冒険物というジャンルにあっては面白い存在の主人公像だ。もちろん冒険物の主人公は普段の生活からどれだけ違った生き方をさせられるか(又はするか)というギャップがあっての面白さもあるけれども、今までの生活での知恵や人と違った考えに基づく意外性なんかが冒険をより面白くさせる要因でもあると思っているから、そういう意味でも面白い。登場する人物も結構キャラクター的には面白い連中が多くて、主人公の仲間になる冒険好きな種族の人達はみんな顔が同じというクローン人間だし、宇宙海賊や戦闘機の人口頭脳なんかも楽しい。「指輪物語」をこれから読もうかなとでも思っている人には是非読んでおいて欲しい一冊です。

○「江戸の大山師・天才発明家・平賀源内」赤松光夫作 光文社文庫
 まずは作家の名前を見て、買おうかどうか考えてしまったのは事実です。だって彼の作品っていえば、あの「官能小説」とかって分類の本が多いじゃないですか(笑)通勤電車の中で読む私としては、微妙な所の状態が変わってしまうというのはやっぱり考えてしまいますので悩みましたが、結局買ってしまいました。で、井沢元彦「銀魔伝 源内死闘の巻」と清水義範「源内万華鏡」となんだか平賀源内物を読んできているんで、赤松版では一体どうなるんだろうという好奇心の方が勝ってしまいました。実はまだ読んでいない白石一郎「びいどろの城」にも平賀源内が出てくるはずなんですけどね。で、赤松版の平賀源内はどうかというと、結構マトモでビックリしました。そりゃあ彼の作品ですから、ちょっとエッチなシーンもふんだんにあります(笑)が、平賀源内の人物像とでもいうものが、楽しく表現されていました。牢屋で死ぬはずの彼は昔NHKで放映された平賀源内の話しのように熱気球に乗っていってしまうという、ちょっと残念なラスト構成でしたが、やっぱり途中で殺してしまうには惜しい人物なんでしょう。軽く平賀源内という人物を知るには良い本かも知れません。