バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ聴き比べ

私が一番好きな演奏はメニューインでもミルシテインでもなくチェロで弾いたVito Paternoster (musicaimmagine RECORDS MR10033)です。ハゲット(ハジェット)を除くバロック・ヴァイオリン奏者やツェートマイアー、テツラフなどと同じくいわゆる「語る」演奏ですが、この高雅さ、荘厳な雰囲気、それでいてシェリングのように重苦しくなく軽快でしかも神童時代のメニューインを思わせる力と熱があるというのはとてつもないことです。

この完璧な演奏の他にはモダン・ヴァイオリンでのスタンダードでかつ廉価なズスケ(ドイツ・シャルプラッテン or Berlin Classics)か、今は入手困難ですがシュムスキー(ASV)が挙げられます。音色面ではズスケの方が好みですが、やや間延びしている感のある曲もあります。

さらにPaternosterにはない高貴さとみずみずしさをたたえたミルシテインの1970年代盤(ドイツ・グラモフォン)や霊感あふれるエネスコ(Continental、池袋の山野楽器での3,980円が私の知る限り一番安いです)、特殊奏法で聴かせるB.ノヴォトニー(スプラフォン)、滋味あふれるヴェーグ(AUVIDIS)、かなり「変な」演奏ですがたまに聴くと心が洗われるシゲティ(ヴァンガード)、バッハ・ボウ(湾曲弓)を使ったゲーラー(アルテ・ノヴァ)は持っていたいです。

バロック・ヴァイオリンではP. Bismuth(STIL)とダールTU(ナクソス)が双璧です。解釈ではクイケン旧盤(BMG)が、テクニックと個性ではハゲット(ヴァージン、EMI)がぴかいちですが、クイケンは音ががさがさし、ハゲットは私は今のところついていけません。ポッジャー(チャンネル・クラシックス)はCDではやや冷たく聞こえ(HMVでのミニライヴではそんなことはありませんでした)、E. ウォルフィッシュ(Hyperion)はやや野暮ったいです。寺神戸(Denon)もいまいち。

あと、ないものねだりですが1980年代にメニューインが4回目の全集を録音していれば、と思います。View Videoの"Tribute to J.S. Bach"にパルティータ第3番の映像が入っていますが、テクニックも安定し、音色も非常に美しい演奏だからです。1970年代の3回目の全集(EMI)はシャコンヌなどぐっとくるところもありますが、音色が汚くソナタでは解釈も不自然なところが感じられます。同じ頃のバルトークの無伴奏ソナタの3回目の録音やブロッホの無伴奏組曲(EMI、LP)、Harry SomersのMusic for Solo Violin(CBC、LP)は非常に輝かしい音色と安定したテクニックで弾かれています。

ないものねだり第2弾はやはりオイストラフの全集です。ソナタ第1番のみ録音が残っていますが、意外にテンポがはやくロマン派的曲解もない素晴らしい演奏でした。


         

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