December 22, 2003

閉ざされた世界で

僕は、ちょっとした付き合いで、最近娘。の応援団体というものに名
を連ねている。10代が中心の完全現場系の応援団体で、僕は多分その
中で最年長だ。参加していると言っても掲示板に書き込みをしている
だけで、実際に会ったことはない。2~3年前だったらそういう場所に
も平気で出かけていっただろうけど、もう僕はあまりヲタの友達と言
うものを必要としていない。僕はモーニング娘。と関わるということ
において、戦略的にはなれず、分析的にもなれない。オタク的にもな
れず、現場系と言う訳でも無い。ただ、非生産的に萌えを享受し、数
人の友人とそれを分かち合うだけだ。

世間から見れば、僕らのような振る舞い、娘。との付き合い方は陰気
で、理解し難いものに映るだろう。いや、ヲタの輪の中から見てもきっ
とそうに違いない。

そのように閉鎖された空間では、誰しもが自分を掘り下げる作業に取
り掛からざるを得ない。自分の眼が、耳が、感じとったもの。感じな
がら、言葉にならなかったもの。言えなかったもの。今までいい加減
に部屋の片隅に追いやっていたものを、1つ1つ片づけていく。そし
て整理すればする程、その先には自分と娘。しか居ないことが分かる。
世界は開かない。世界はただ閉じていく。

…友達のことを言えば、僕はそのような閉鎖された空間の中で、彼ら
一人ひとりに、類は、彼らと集まるその心地よい空間に、無意識に娘。
性のようなものを見出しているのかも知れない。

娘。は開かれ、そして分断された。
やはりあの幸福な時代はどうしたって忘れられないし、「どうして?」
と思う気持ちは今でも心の奥底に残っている。もちろん、現実は認識
している。回り出した車輪を止めることはできないし、川の流れを逆
に変えることもできない。いや、それより、むしろ萌えメンバーは増
えているし、現状に対してのフラストレーションは急激に軽減されて
いる。僕は多分、娘。に満ち足りている。

しかし、本当はあの頃とはなにかが違うこともわかっている。僕には
その「なにか」を言葉にすることはできない。その「なにか」は、僕
を更に閉ざされた場所へと導いていく。ハロプロ無人島妄想や、ハロ
プロ学園妄想。閉ざされた、僕と仲間達、そして娘。達だけしか居な
い場所へ。



そこはひどく心地よい。
そこには優しげな死の香りが、甘く、哀しく、いつまでも漂っている。

………僕にはなっち先生の弾くピアノが聞こえるんだ。生徒達は皆帰っ
てしまって、僕しかその演奏を聴くことはできない。僕は目を閉じて、
なっち先生の情感を、そのタッチから感じ取る。なっち先生が泣いて
いるのが分かる。先生は、何かを思い出している。先生は、その一音、
一音を惜しむように、慈しむように撫でていく。

僕は一人で泣いている。
なっち先生の悲しみは決して癒されることは無いし、先生はこれから
も自分を失いながら生きていくのだ。そして、先生にはそれが分かっ
ている。僕は、それを心の奥の方で感じることができた。僕は、音楽
室の扉を開けて先生に会いたかったが、なぜだかそれは、とてもいけ
ないことのような気がした。僕は、ドアを開けられなかった。そして、
遠ざかる先生の演奏を聴きながら、僕は階段を降りる。

そして、下駄箱の前で僕はふと気づく。
僕には帰るべき場所が無かったことに。

なっち先生のピアノが、今でも小さく僕の耳に聞こえる。
僕はふと、落ちていく陽に目を留める。



なっち先生はいつまでもそこに居る。
そして、僕は彼女にいつでも会いに行くことができる。



所属した応援団体から、あるメールが来た。
白いサイリウムと言う単語を見つけた瞬間に内容は分かった。

そして、僕はまた悲しくなった。おそらく彼らには悪気は無いだろう。
それは、彼らにとっては正しいことなのだ。なっちも、それを受け止
めるだろう。僕も、それを見て泣くだろう。…でも、僕はその場に入
っていくことはできない。

別れについて考えた時、僕はぎりぎりまで誠実でありたい。僕は、最
終的に、絶対にそれを認めることはできない。僕にはなっち先生のピ
アノが聞こえているし、その演奏に感じた、決して癒されることのな
い悲しみを自分の内にしまい込まなければならない。

でも、本当はそれだけではない。
娘。達は、閉ざされた幸せな少女達の空間は、それでも彼女を祝福す
るだろう。そこにあるのは善悪では無く、僕らを圧倒する、ただの風
景であるはずだ。光景であるはずだ。そして、僕らはおそらくその風
景に敗北するしか無い。

彼女達はその美しさによって、損なわれる。
彼女達の神々しい輝きは、暴力的な獣達にとってたまらなく美味な餌
なのだ。僕達は彼女達を損なわせたものが、この世界にあると言うこ
とを忘れてはならない。僕達が生きている、この血腥く醜い現実から
与えられたものであると言うことを忘れてはならない。

彼女がそれを、望んだ訳ではないんだ。
どうしてみんなそのことに平気なんだ? その瞬間の娘。達と建て前で
向かい合うことなんて、僕にはできない。

絶対的な恋愛は、いかなる狡猾な、残忍なシステムからも逃げうる筈
だ。僕達にできるのは、彼女の気持ちを信じること。そして、崖の縁
で、彼女の本当の気持ちを感じようとすることなんだ。


僕達がシステムに搦め捕られてしまったら、それは本当の終わりなん
だ。本当の、本当の終わりなんだ。

Posted by うたか at December 22, 2003 09:30 PM