January 21, 2004

強い気持ち

 モーニング娘。の新曲「愛あらば It's All Right」のCDとDVDを買ってきた。この曲の歌詞には、初めてラジオで聞いたときから打ちのめされっぱなしだ。オレはこの曲こそ、モーニング娘。の最後の曲に聞こえる。四期が入ったことで、その生き方が変わり、「I WISH」から始まった彼女達をとりまく幸せな愛の物語は、その象徴というかそのものでもあるなっちの脱退と共に、遂にこの曲で終わりを告げたのだ。

 オレはどちらかと言うと、愛だの恋だのという曲を好まない。それはこの歳まで生きてきた中で身に付いた保身的な考えだと思う。例えば、女の「愛している」という言葉なんて、明日になればまるで昨日の新聞のように忘れ去られて、価値のない紙くずのようなモノになることを知っている。しかし、この曲にあるように「太陽は全てお見通しさ」という言葉にはウソが無いことを知っている。いや、本当はそんな事がウソなのも知っている。ウソかもしれないけど、人間はせめてそこら辺だけでも信じていなければ、「やっていけない」のだ。生きてゆけないのだ。
 
 この曲は、ゲイノウカイというとんでもない世界で生きてきたなっちを含む娘。達に、つんくや周りの良心的なスタッフが、最後に渡したメッセージだと思っている。彼らは今まで娘。達をさんざんな目に遭わせてきた。もちろん彼女たちがそれを望んだ事もあっただろうし、仕事だからしょうがないという側面もあるだろう。しかし事ここにいたってそれは限界を超えた。なっちの脱退ですべてが終わることを感じたのだろう。 普通曲を作る人間は、歌い手にメッセージを渡さない。何故ならメッセージは聞き手に渡すモノだからだ。それがこの曲ではすべて娘。達に向けられた歌詞になっている。そして過度の装飾をせずに、淡々と歌詞は進んで行く。聞いている人が聞き取れるようにゆっくりと。シャボン玉のように、「どうだ、これ面白いだろう」というイヤらしい狙いも見えないし、誰か一人を無理矢理持ち上げて歌わせる事もしていない。みんなが均等に歌を繋いで行くだけなのだ。そしてやさしくも強い観念のこもった短い歌詞。オレはそこに、つんくの「すまんなぁ。オレにはもう何も手を貸してやることは出来ひんのや」という気持ちがとれる。多分に妄想かもしれない。だけどオレはそう感じるのだ。
 
 DVDの方を見てもそう感じる。クローズアップバージョンでは、そのパートを歌う娘。を順番に映してゆくだけだし、メイキングでも全員を同じ構成で均等に撮っている。まるで記念に残る卒業アルバムのように。それはなっちの「卒業」じゃなくてモーニング娘。全員が何かから卒業するように。誰か一人が卒業するのではなく、みんな一緒に今日までのモーニング娘。を卒業するように。
 
 先生が生徒の名前を呼ぶ。その生徒との時間をかみしめるようにしてその名前を呼ぶ。そして生徒は背筋をのばし、今までで一番いい顔で、いい声で、「ハイッ!」と返事をする。そういう暖いモノが、このシングルDVDには収まっている。
 
 「卒業」という言葉がオカシイと感じるからこの「なっちやめないで!」に参加してるのに、どうして「卒業」の例えを持ってくるのかと、おかしな感じがするかもしれないが、何度も言うように、この曲は均等に作られている。モーニング娘。のメンバーが、その在籍期間や年齢や人気に関係なく均等なのだ。みんなが一緒に卒業するのだ。実力の評価で娘。から卒業するなんておかしくないか。だったら残ったメンバーには実力がない事になってしまう。そんな事は絶対にない。オレはモーニング娘。は卒業するものではないと今でも思っているし、脱退を「卒業」と言う人々には嫌悪感さえある。それはこれからも変わらないだろう。しかしでも、何故かそういう気がするのだ。それを上手く伝えられない・・・。
 
 あるスタッフの一人(もちろん彼もモーニング娘。を心から愛している)は「こんな作りじゃダメだ」と上司に言われたかもしれない。つんくだって「この曲では押しがきかない」なんて事務所のお偉方から言われたかもしれない。だけど彼らはどうしても、これをこの形で作らなくてはいけなかったのじゃないだろうか。それは免罪の気持ちもあるかもしれないし、もうどうにもならなくなった歯車に対する最後の抵抗だったのかもしれない。これから荒波が立つ海にこぎ出して行かねばならない娘。達へ、自分たちが彼女たちより長く生きてきて得られた「確信」のような信じられるものを、彼女たちに渡したかったのだと思う。実際にジャケットや初回版に付いてくる写真集での彼女たちの表情はとてもリラックスしている。歌詞カードでの枕投げシーンはバラバラに撮影したモノではなくて、一緒にみんなで騒いだんだろうなぁと伺えるし、ジャケットを見れば説明する必要はないくらい皆幸せそうにしている。安易な合成が多かった最近のアートワークの中でこれは特筆すべき事だと思う。それほどこの曲に力を入れたのだ。それは売れるようにとかじゃなくて、如何に今の瞬間を娘。達に残してあげようかという強い気持ちだと思う。


 
でも、正直に生きてりゃいっぱい
感動に出会うさ
だって今日は今日でまた新しい
とっても自然な親切に
出会ったわけだし


まるで母が愛しい我が子に向かって言っているかのようだ。オレはこの言葉を、母がオレに言う場面を想像することが容易に出来るし、多分それは誰でもそうだろうと思う。この曲にはそんなやさしい気持ちがいっぱい詰まっている。つんくや、この曲に関わった人たちもオレと同じように「なっちやめないで!」と叫びたいのだと思う。

Posted by あいのロック at January 21, 2004 10:21 PM