2010年7月

第2863号 2010年7月21日号


高岩寺の禁煙対策
 来馬明規住職の取組み


 (平成21年度曹洞宗総合研究センター第11回学術大会における高岩寺・来馬明規住職の発表「曹洞宗宗門の禁煙化を願う~東京巣鴨・とげぬき地蔵尊高岩寺における禁煙の実践~」より抜粋)

 私が住職をつとめる東京巣鴨・とげぬき地蔵尊高岩寺は1596(慶長元)年東京都千代田区神田明神下に開山し、下谷屏風坂下(現JR上野駅前)を経て、明治24年に現在の豊島区巣鴨に移転した曹洞宗宗門の寺院である。本尊延命地蔵菩薩を参拝する年間約800万もの人々を町と一体となって迎え、「おばあちゃんの原宿」の別名がある。

 平成17年8月には私の循環器内科診療の経験を活かし、町ぐるみで自動体外式心臓除細動器(AED)6台を配備し、地元の救急救命法普及につとめ、参拝客の安全と健康に配慮してきた。

   その思いの延長からAEDに加え、高岩寺ならびに巣鴨地域を禁煙とすることで、参拝者の受動喫煙防止と禁煙勧奨を推進し、さらなる健康増進と三業(身・口・意)清浄の功徳による現世利益の享受を願ったのである。

 受動喫煙防止によって地域の心臓発作発生率が有意に減少する、という多数の報告がある。これはさまざまな危険因子の蓄積によって心臓発作発症にいたる最終段階に、受動喫煙が重要な役割を演じていることを示唆している。

 800万人の参拝者には小児、高齢者、病人、身障者、妊産婦なども含まれている。従って健康長寿を願う祈祷寺として禁煙を推進し、受動喫煙を回避することは、江戸時代に卍山(まんざん)、面山らが説いた「禁煙の教え」という仏教的根拠のみならず、医学的根拠にも基づいている。

 そこで、平成17年12月に住職就任後、40名ほどの役寮・職員に禁煙を奨励し、徐々に建物内の禁煙区域を拡大した。平成19年1月には建物内禁煙から敷地内全面禁煙に移行し、参拝者にも禁煙を求めた。11本の禁煙大旗と30ヶ所以上の禁煙表示を敷地内に掲示し、禁煙マークを大書したTシャツ、法被、うちわ、ポーチ、などを作成して関係者や檀信徒に無料配布した。

 季節の祭り、盆踊りなど、境内で開催される町会・商店街のイベントは完全禁煙を開催の条件とし、境内の露天商には「敷地内で喫煙する者は出店禁止」の罰則とともに禁煙Tシャツを着用してもらい、動く禁煙サインとしても協力を要請した。露天商による禁煙Tシャツの着用は禁煙の同事行のみならず「高岩寺認定露天商」の好印象を参拝者に与えることにもつながった。

 例大祭には禁煙活動家渡辺文学(ふみさと)氏の招聘講演を行い、高岩寺にて禁煙推進団体の会合を開催・支援した。その経過は日本禁煙学会年次総会、禁煙団体の研究会などで発表した。参拝者の喫煙行為は激減し、平成20年9月には高岩寺職員全員が禁煙に成功した。

 この取り組みは高岩寺の関連寺院、豊島区内の仏教寺院、町内にも広がった。地元の町会、商店街組合の行事、イベントもすべて禁煙となり、販売店や飲食店、境内の外に構える露天商の全面禁煙化も進められた。豊島区では平成9年より歩行喫煙・吸い殻ポイ捨てが努力義務として禁止されているが、街頭表示による条例の周知徹底が不十分であった。そこで、巣鴨地蔵通り商店街振興組合により独自に禁煙の表示が始められ、平成21年9月には参道の地蔵通り商店街入口のタバコ自販機前を含め、すべての商店街アーチ8基に「歩行喫煙禁止地区」の掲示がなされた。高岩寺参道では「タバコを購入してもみだりに喫煙はできない」ことが明示されたのである。また、一部のコンビニエンスストアも店前の灰皿設置をとりやめた。

 一連の活動は全国紙、地方紙配信機関、ローカル紙、宗教系新聞・雑誌など、20数回にわたり報道機関に取り上げられた。特に平成21年2月28日の読売新聞記事には「とげぬき地蔵尊・高岩寺では一切禁煙だが、大本山永平寺には喫煙所がありタバコが吸える」と報道された。

 これが現永平寺監院・大田大穰(だいじょう)老師の目にとまり、永平寺は平成21年4月の授戒会より全山禁煙、との決断がなされ、その必要性と意義が面山の禁煙語録の解説と共に機関誌『傘松(さんしょう)』に発表された。また永平寺が禁煙化された経過は、共同通信を通じて今年の5月に全国の地方紙に紹介された。著者が単独で開始した高岩寺の小さな禁煙推進運動は、3年余を経て大本山永平寺の禁煙化に波及したのである。

 喫煙は「ゆるやかな自殺」といわれる。喫煙者の健康問題だけにとらわれがちであるが、被害者である喫煙者が受動喫煙を通して新たな被害者を生み出している構図も見逃せない。しかも葉タバコ生産国では小児労働や森林伐採など、構造的な人権、環境問題が存在している。

 タバコ問題は曹洞宗が取り組むべき、地球規模の人権・環境・平和問題である。また、曹洞宗の僧侶には禁煙の実践を通して現代に即した持戒を実現することが求められている。

 宗門が禁煙化され、さらに、誓願「十方(じっぽう)にタバコで病を得る人なし」を実現させるために引き続き禁煙推進を実践する。皆様のご協力を冀(こいねが)う次第である。

 ※来馬明規住職は総合内科・循環器・禁煙指導専門医、医学博士、日本禁煙学会・評議員、日本医大心肺蘇生フォーラム・救急救命法指導員。


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