こけしと菊まつり 高岩寺住職 来馬明規
伝統文化の各分野で後継者の育成が重要課題となって久しい。伝統こけしや菊つくりも例にもれず、技術伝承の困難に直面している。
高岩寺では昨年より7月の朝顔まつりと11月の菊まつりにあわせて「伝統こけし製作実演」イベントを開催している。貴重な伝統こけしコレクションが、ご縁のある方より寄贈されたことがきっかけだ。
現在は、戦前と高度成長期に次ぐ「第三次こけしブーム」。伝統こけしが若い女性に流行し、高岩寺で開催した製作実演や愛好団体の月例会にも、元気な「こけし女子」が大勢訪れた。長かった低迷期にも伝統こけしの魅力を伝え続け、普及に尽力してきた愛好会幹事らは目を細めている。
伝統こけしは海外からも評価されており、昨年のパリ・ルーブル美術館での製作実演イベントは大盛況だった。北区のフランス語学校の子供達も巣鴨を訪れ、木地挽(きじび)きや描彩などの「異文化体験」に歓声をあげていた(写真)。
そのような評価とは裏腹に、伝統こけしの継承者育成が東北各地で重要課題になっている。伝統こけし11系統のなかには存続が困難になっている地域もあるのだ。
しかし、伝統こけしの分野で興味深いことは、愛好家たちが単にこけしを愛好するのみならず、東北地方の工人宅を何度も訪れ、家族ぐるみで交流を深め、濃密にこけしづくりを支援していることだ。
愛好家たちのこけしへの思い入れは凄まじい。高齢化する名工人の体調を気遣い、工人の姻戚関係を把握して、後継者候補の心配までしているのには恐れ入った。もはや「こけし工人愛好家」と呼んでも良いくらいだ。
さて、「菊つくり」はどうだろう。
各地で見事な菊人形や千輪咲が披露されるなか、菊まつりは全体として縮小傾向である。
大がかりな菊人形を製作できる「菊師」は徐々に減少し、いまや全国で10人もいないという。菊つくりの名人や菊師の妙技は裏方仕事と見なされ、十分な評価がなされていないからだろうか。
そこで読者の皆様にお願いがある。
見事な菊のご観賞にあたり、作者の何十年にもわたるご功労をしっかり受けとめ、その御名前も合わせて心に留めてくださるとありがたい。
美しく咲いている菊を愛でるだけでなく、それを実現させた伝統技術の継承者をも心から応援していただければ、菊の伝統文化は必ずや後世に伝わり行くように思われる。
菊まつりを支援する立場として、菊つくりに携わる皆様のご健勝と、菊文化のさらなる発展・継承を心から祈念している。
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