2014年1月

第3016号 2014年1月1日号


いのちを大切にする街
 とげぬき地蔵尊 高岩寺住職・医師 来馬明規


 昨年9月、巣鴨地蔵通り商店街が応急手当奨励団体第一号になり、東京消防庁より消防総監賞を受賞した。地元で禁煙推進とAED普及を実践してきた者として、さらなる前進への礎(いしずえ)をいただき大変光栄に思う。

 巣鴨は延命地蔵尊のご利益を求め、多くの高齢者が健康と長寿を願って行き交う街である。

 筆者が住職に就任した9年前、医師兼僧侶として「黒い法服を着ながらいかに医師免許を活用し、医学を実践するか」という命題に突き当たった。

 そこで、「寺と町全体を総合病院の廊下・待合のように、清潔で安全な場所にしよう」とひらめいたが、同時に「病院は禁煙でAEDがあり、救急救命法を体得したスタッフがいる」という当然の事実に気がついた。

 禁煙とAEDは循環器専門医である筆者の得意分野であり、医学では「予防と治療」、仏教では「戒律と菩薩行」という両輪に相当する。

 平成17年、意を決し禁煙の推進とともにAEDの普及実践活動に取り組んだ。そして同年8月にはAED5台 (現在7台)を高岩寺内、巣鴨地蔵通りと駅前の両商店街に設置し、24時間運用を開始した。

 このような取り組みの前例はなかった。当時はAEDの名を知る人はほとんどおらず、高価な医療機器を町中にカギを掛けずに置くことを、ずいぶん不思議に思われたものである。そのような状況でも、救急実務に詳しい遠藤昭五・元豊島消防団長(故人)が設置場所の選定に奔走し、効果的なAEDの配置が実現した。

 次に、参拝者を迎える商店街のみなさんに、最新の知見に基づく効果的な心臓マッサージと、安全確実なAEDの使用法をわかりやすく指導することも急務であった。

 平成19年10月より独自に開催した講習会は、筆者も所属する日本医科大学「心肺蘇生フォーラム」(現代表・山本剛医師)の全面協力によって実現した。毎回10名以上のインストラクターと大量の機材を高岩寺十福苑に手配。最新の指導基準に基づいた2時間ほどの講習会を、受講生2~4人あたりマネキン1~2体、インストラクター1人で対応。現在までに、町会、小学校PTA、青少年育成委や仏教団体、大学生等に対し30~100人規模の講習会を実施し、のべ800名以上の受講生に国際標準の救命法を伝授してきた。受講生のなかには講習後早々にJR駅構内でAEDを使って救命し、感謝状を受けた人もいる。

 巣鴨には病気の体をおして訪れる高齢者も少なくないと思われるが、地蔵尊のご利益か、不思議と参拝者に心肺停止の発生はない。目に見える人命救助の実績が乏しい中での今回の消防総監賞受賞は少し気が引けた。

 しかし、これらの活動は地蔵尊の力と巣鴨の知名度のおかげで広く一般に浸透し、新聞、テレビ、ネット上でも紹介され、他の公的施設のAED設置を促進する役割も果たしてきた。

 経産省の「商店街活性化のためのAED導入支援事業(平成19年)」は我々の活動の影響か?と驚かされた。また、渋谷区の大きな神社が巣鴨に倣ってAEDを導入した、という話も興味深かった。

 現在、東京23区内の公共施設におけるAEDの設置状況は必要十分に近づきつつある。一方、正しいAED使用法を体得した人の数はまだまだ少ない。本稿を通して読者各位がAEDに関心をもち、講習会を受講され、救急の現場で実践し、さらに指導員となって活躍されることを願っている。


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