地蔵菩薩と菊・こけし とげぬき地蔵尊高岩寺住職・医師 来馬明規
おだやかな秋が巣鴨に訪れた。いつものように菊祭りが開催されることがうれしい。
例年通り、菊祭りにあわせて11月13日~17日の5日間、伝統こけし製作実演を開催する。7月に続いて宮城県白石市・弥治郎系のこけし工人らが来山する。
なぜ私たちがこけしの展示・実演を始めたのか、あらためて申し上げたい。
高岩寺は平成23年の東日本大震災と前後して、境内の隣に信徒会館を開館した。さまざまな活用法を模索していたところ、絶好のタイミングで、愛好家だった女性医師のご遺族より多数の貴重な伝統こけし寄贈の話をいただいた。
こけしは東北の文化を象徴する伝統工芸品。こけしを縁(えにし)として東北各地の景勝地・温泉や名産品を紹介し、復興支援の一助となることを願い、謹んで「遺品」を継承した。
そして最大の愛好家団体「東京こけし友の会」の全面的な協力・指導を得て、常設展示のみならず「ろくろ」を持ち込んだ大がかりな製作実演の定期開催が実現した。
東北各地と御縁をむすび、これまでに津軽系、土湯系、鳴子系、弥治郎系の工人のべ22名を招聘した。そして今秋で8回目の実演を迎える。
地元の恒例行事と調和して、東北の一部に偏らずに長期的に支援できること、我々も楽しく、近くに影響を受けるような郷土玩具店がないこと(!)、情緒豊かで、多様性や季節感があり、庶民的な存在であること、高岩寺仏像彫刻教室の作品展示とよく和むこと、近年若い女性に再評価され、静かなブームとなっていることなどがありがたかった。
「菊」と「伝統こけし」は切っても切れない関係にある。伝統こけしは東北6県に限られ、北から青森の①津軽系、秋田wの②木地山系、岩手の③南部系、山形の④山形系⑤肘折系⑥蔵王系、宮城の⑦鳴子系⑧遠刈田系⑨弥治郎系⑩作並系、福島の⑪土湯系の11系統に分類されている。津軽・土湯以外の各系統には菊模様のこけしがあり、特に山形・宮城の各系統や南部系は、個性的に図案化された菊の胴模様がそれぞれの系統の特徴になっている。
巣鴨で穏やかな毎日が続く一方で、様々な事故、災害や紛争が相次いでいる。そのようななかでも、地蔵尊のご利益のみならず、美しい菊の花、かわいいこけし達の力を借りて、皆々様にあまねく身心の安楽を授けることができれば、と願っている。
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