2019年1月

第3238号 2019年1月01日号


巣鴨の街づくりはとげぬき地蔵抜きで!?
 とげぬき地蔵尊髙岩寺 住職・医師 来馬明規


 「健康づくり」は筆者の専門領域であるが、健康はあたり前のことを実践するのが肝要で、常識が通用する分野だ。

ところが昨年「街づくり」という、「常識」が通用しない事件に遭遇した。

 「街づくり」は日本の津々浦々で行われている住民参加の活動であり、巣鴨においても長年にわたり各町内会や商店街で様々な活動が行われてきた。髙岩寺も地域の一員として参加してきたが、ある時期から「巣鴨の街づくり」活動から「ムラ八分」の被害をうけはじめたのだ。

 昨年末、地元金融機関の会議室で開催されるはずであった「巣鴨の街づくり」と称する会合が突然中止された。

 その理由は周知されていないので、純粋に出席を楽しみにし、不思議に思われた読者もあるだろう。そこで紙面をお借りし「ムラ八分の被害者として中止を求めた」立場から、諸々の経緯をお詫び旁々ご説明したい。

 最初に「なぜ、会合が中止になったのか?」である。会合開催予定の二日前、突然新聞各社朝刊に折り込みチラシが配布された。その会合名には髙岩寺が権利を有する登録商標が無断使用されていたため、急遽主催者・会場主に抗議させていただいた。

 両者とも無断使用を認め、会合は中止された。暮れの忙しい時期に告知が急であり、髙岩寺のみならず巣鴨の各町会の代表者らにも十分な連絡はなく、開催の段取りも不自然であった。しかもチラシには「豊島区後援」と記載されていたが、確認したところ後援取得の事実はないという。

 次に「なぜ主催者らは登録商標の無断使用に気づかなかったのか?」である。それは主催者らが髙岩寺を差別し無視しているからである。読者には意外であろうが事実だ。髙岩寺が巣鴨の「街づくり」活動に参加していれば、このような珍事は起こるはずがない。

 主催者らにとっても商標侵害の抗議は寝耳に水であったことだろうが、これほど左様に一部の人々が独断で「巣鴨の街づくり」を進めてきたことが明白になったのである。

 以上が会合中止の顛末であるが、ムラ八分が始まってから今日にいたる話は長く複雑だ。本稿は敢えて固有名を避けているため、さらに理解しづらいかもしれない。

 三十年ほど前、巣鴨地域でも高層ビルの建築が始まり、商店街の景観の保全が喫緊の問題となった。

 髙岩寺関係者の紹介で、大学教授や景観修景の実務者らが技術顧問として招聘された。技術顧問らは地元と行政の仲を取り持って話合いを重ね、各方面の合意を取りつけ、平成十八年に地蔵通りの「高さ協定」が無事締結した。その結果に私共も安堵し、技術顧問らの仕事を高く評価した。

 しかし、事態はこのままでは終わらなかった。技術顧問らは巣鴨の街づくりの事業化・利権化を画策し始めたのである。

 髙岩寺は戦前の国道敷設によって敷地の三分の一近くが道路地として接収され、境内も分断されたが、今回はその国道の拡幅のために、さらに五百平方メートルほどの土地の接収を迫られている。

 国道拡幅予定地には近辺では唯一、係員常駐で身障者用・オストメイト対応トイレを含む高規格の参拝者用洗面所と終日運用の区営公衆トイレがあり、諸行事の「楽屋」として多目的に活用される本堂裏の空間も含まれている。

 境内に隣接する好適な代替地の手当なしには土地売却に応じられない苦しい「事情」があるが、収容側からの具体的な提案はない。トイレの引越だけでも大変だ。高齢者・障害者のために本堂の近くに段差のない地上階が必須だし、飛び地や飲食店の隣には移せない。

 当初、髙岩寺の事情は街づくりの重要な項目として決議にも盛り込まれていたはずだったが、昨年には商店街の電線地中化プロジェクトも本格化し、道路拡幅とセットで大がかりなインフラ改造が始まった。

 その結果、巣鴨の大改造を推進したい人たちにとって、髙岩寺は邪魔な「街づくりの減速因子」となってしまったのである。

 そのようななか、技術顧問らが業を煮やし、髙岩寺と訣別して、国道の拡幅に伴う公共事業にからんだ行政の援助を原資にNPO法人設立を企てたのが平成二十二年だ。しかし、そのNPO法人名は髙岩寺も共同で発案した名称であり、使用には我々の同意も必要であった。

 紆余曲折の後、結局NPO法人はできなかったが、これを境に髙岩寺と一部の関係者が巣鴨の街づくりの場からはじき出され、閉鎖的な運営が始まった。

 街づくり以外では髙岩寺に協力的な人々も入り混じって、フクザツに展開する「巣鴨ムラ八分」に「幸せを願う祈祷寺院」が大声で抗(あらが)うことは難しい。対応策に悩んだ末、平成二十二年にこの法人名称を商標登録し、そっと権利を保全した。その後八年間にわたり髙岩寺は巣鴨の街づくりへの関与を許されていない。

 豊島区の条例には、街づくり推進団体は「民主的に運営」「提言は事前に周知し意見を募る」「特定の団体に不利益にならない」などが謳(うた)われているが、筆者には虚しく響く。

 一部の地元関係者だけが情報を握りしめ、地元の代表を騙(かた)って会合や話し合いを恣意的に運営するのはフェアではない。技術顧問らはその会合に何も知らない都市計画専攻の大学生を動員し、アカデミズムを振りかざしながら、街づくりを喰いモノにしているようだ。

 健康づくりのように、「街づくり」は良い響きを持っている。しかしその実状は行政側の押しつけ、利権の奪い合いといった「欲望」「執着」のせめぎ合いが見え隠れする。

 筆者は髙岩寺住職就任後十三年間、先代から諸行事を引き継ぎつつ、医師経験や東北地方とのご縁を活かし、禁煙・AED普及推進、震災復興支援などの社会貢献事業を進めてきた。目的が純粋でやりがいがあるこのような事業に比べ、利権がらみの「街づくり」は不快な仕事だ。しかし年頭にあたり、極めて重要な課題のひとつであると、認識を新たにしているところである。


»» BACK

«« Go to TOP


トップページ バックナンバー 豊島区の選挙 紙面で見る
区民の歴史
リンク集 豊島新聞について

豊島新聞綱領

本社事務所
〒170-0013
豊島区東池袋
1-21-11
オークビル5F

豊島新聞は
毎週水曜日
発行です

民の情報紙

株式会社
豊島新聞社

豊島新聞
TEL
3971-0423
FAX
3986-4244
情報・投稿
購読申込み
購読料
3ヶ月2,700円