最近読んだ本の話し  (2004年)
  
2004/09/12
なんと3ヶ月ぶりの更新で、読んだ本も随分溜まった。そのせいで読んだ本の内容を覚えていないという情けない結果が出てきそうである。という事で前回から何を読んだのかそしてその一口だけの感想としよう。ひょっとしたら読んだけど忘れてしまって書いてないのがあるかも知れない(笑)

○「バッテリー」「バッテリーU」あさのあつこ作 角川文庫刊
以前から何度か本屋で見かけてはいたのだが、あさのあつこ=浅野温子? バッテリー=バツ&テリーというイメージがあって買い控えていた。野球少年の姿を描く児童書ではあるが十分に大人の鑑賞に堪えうる(当たり前だ児童書なんぞという分類が誤っているのだ)主人公はとっても嫌な性格で、自分勝手であり自信過剰で自分のやりたいようにしか行動しない。自分を判って貰おうとしないから殆ど喋らない。だから周りからは疎んじられているのだが、凄いピッチャーなのだ。彼の球を受けたいと望むキャッチャーは中学に上がったら親の病院を継ぐために野球を止めようと思っていた子なのだが、主人公に影響されて野球を続ける。1作目は中学入学前の春休みに引っ越してきた主人公とキャッチャーとなる人物達との出会い。2作目では中学に入り野球部に入部した彼らを待ち受ける運命。となっている。原作は1年間の彼らの生活を書いた物らしいが、続けて読んで見たい作品だ。登場人物達の生き生きとした性格付けが魅力的である。しかし最後の最後まで主人公の性格は直らないのだろうなぁ…。

○「揺籃の星」上下巻 ジェイムズ・P・ホーガン作 内田昌之訳 創元SF文庫刊
ハードSFの旗手であるホーガンの待ちに待った作品。新3部作と銘打っているので、後2作は楽しめるはずだ。大型恐竜が闊歩していた地球の不思議(あんなに大きな生物は今の地球の重力では生きていられない)は知っていたし、それに対する仮説もいくつか聞いた事もあったが、まさかこんな話にしてしまうとは思わなかった。太陽系自体の仕組みに関する事をテーマに地球の破滅を描いてしまっている。地球を何とか逃げ出そうと躍起になる人類や何とか生き延びようとする人達の行動が感動的でもある。しかしこうなると後の2作がどうなるか楽しみだ。

△「クッキング・ママの供述書」ダイアン・デヴィットソン作 加藤洋子訳 集英社文庫刊
シリーズの11作目であり、読むのが無くなって惰性で読んだ。いつもの通りラスト近くまで犯人が判らないという展開は同じだし、何にでも首を突っ込む主人公の性格はそのままだし、そういう面白さだけの話であるが、何故か止められない(笑)

△「伊勢・志摩 狼伝説殺人事件」田中光二作 光文社文庫刊
警視庁嘱託警視(そんなのが本当にあるのかどうか不明だが)と彼の嫁(息子は死んでいる)とのコンビのミステリー物。第二段らしいが、前作は読んでいない。流石にSF出身作家だけあってというかSF作家だけあって、推理物というよりはSFものに近い(笑)だって狼男は二重人格者なんだという設定が発展し、普通の人間が狼男になってしまうというストーリー展開なのだ(これから読もうと思っていた人ごめんなさい)山田正紀のように純粋な推理物ではないという点で面白さが半減している。このままでは売れないだろうなぁと思われた作品。

○「幽剣抄」菊池秀行作 角川文庫刊
魔界の時代物かと思ったが、時代物ではあるが幽霊物の短編集。登場するのはほとんどが下級武士であり、腕は立つが中々食っていけない彼らに取り付く幽霊達が多様で、なかなか読ませてくれた。5作品の間に4篇の小品があるのだが、これも又面白い。こんな感じで1000字を書けたら良いだろうなぁと思った。

△「ゴッドマザーと特別教室」宗田理作 光文社文庫刊
ゴッドマザーシリーズの4作目だ。今回は息子の同級生でリストラされた父親が自殺したが、どうも殺されたらしいという事で事件が進んでいく。同じくリストラされた3名(本当はもう一人いるのだが、彼は田舎に帰ってしまう)と自殺したらしい男の奥さん(つまり息子の同級生の母親)とをゴッドマザーことタマ子さんが、社会復帰目指して学校を開くというものである。授業は女性の引っ掛け方から老人の騙し方なんていう奇抜なものなのだが、ストーリーが進むうちに、自殺したと思われていた男は殺されていたと知り、その敵を討つというなんとも破天荒なストーリーでもある。まぁ気楽に読んで忘れてしまえる話ではあるから時間があったら読んでもいいかなぁ。

△「バラバラの名前」清水義範作 新潮文庫刊
表題作はもちろん「薔薇の名前」のパロディである。舞台設定さえも同じであるが、殺される人たちは皆笑った顔で死んでいる。なんとオチは私が昔小説を書こうとしたネタを同じであった(笑)もちろんバラバラなんというタイトルを付けようとは思わないが…。短編集であったのだが、どんな話があったのかさえ忘れてしまった。でもまぁ気楽に読める本ではある。

○「学問ノススメ」挫折編・奮闘編・自立編 清水義範作 光文社文庫刊
浪人の話である。大学受験に失敗して一浪し大学に入る。かと思いきや、ここでも大学を落ちてしまう。ひとつ下の弟は現役合格で大学生。そして二浪することになる主人公。予備校に通う主人公と仲間達との青春物である。なんだかこういう若い頃の話というのは読んでいて気持ちが良いのは何故だろうか。

○「女彫刻家」ミネット・ウォルターズ作 成川裕子訳 創元推理文庫刊
ひとことで言えば、女性版「羊たちの沈黙」主人公は売れない作家で出版社からもう手を切るよと言われてしまう。この仕事をしたら今後の事を考えてもいいと言われるのが、母親、妹バラバラ殺人の犯人である、めちゃくちゃ太った女性の伝記物。仕方なくこの事件を調べていくうちに、果たして本当にこの女性が犯人なのだろうかという疑問を抱く。主人公の恋愛なども絡めるという、女性らしいストーリーである。がやっぱりサイコスリラーであるからだろう。「沢山の人を騙すのは難しいが、マスコミの人間一人を騙すのは簡単さ」という不気味な言葉を発する女性は監獄の中でも得意な存在であり、誰からも恐れられている。結局犯人は別にいて無罪となる彼女なのだが、彼女は本当に無罪なのだろうかという疑問を残した終わり方が逆に面白さを増していた。

○「黄金の島」上下巻 真保裕一作 講談社文庫刊
主人公はヤクザで、ある抗争から日本を抜け出し東南アジアへと旅立つ。そこには組織からの殺し屋が待っていて、それを逃れてる為にベトナムへと向かう。そこには遠い日本へ密航して金を稼ぎ、家族を養おうとする人たちがたむろしている。もちろん日本政府が難民を受け入れる訳がないのだが、そんなはずはないと信じ、金を貯めるために働く彼ら。そんなベトナムの人たちの生活が政治色を匂わせながら描かれている。遠洋漁業で働いたことのある主人公が、日本へ彼らを連れて行く事になるのだが、台風の中をやっと日本に到着した彼らを待っていたのは、悲しい現実なのだ。流石にこの作者の作品は面白い。

2004/06/13
○「The S.O.U.P.」川端裕人作 角川文庫刊
インターネットの脆弱性を使って、暗躍するサイバーテロリストの話し。インターネットってなあに?という人は全然理解出来ないかも知れないが、仕事にしているような人には少し退屈かも知れない。それでも中々面白い作品にはなっている。昔「S.O.U.P.」というオンラインゲームを作成した主人公達がそのゲームを基盤にハッキングいや、クラッキング(但し改良するのはハッカーで、悪用するのがクラッカーと小説中では云っている)する集団から開発者の一人である主人公は攻撃される。そして開発のプロデューサーとでもいうべき人物からの助けを求めるメールが来る。攻撃はインターネットを通じて全世界的に行われ、インターネットを使用している業務に影響が出、死者さえ出てくる。あまりの事態にクラッカー集団からのサミット参加要請を受け、ラスト近くでアメリカ大統領は彼らと事前に会談をするのだが、その会談は○○が相手なのだ。とここで書いてしまったら面白み半減(笑)未だに蔓延しているウィルスメールを考えると、現実味も感じられる。まぁ小説ならではの滅茶苦茶な主人公のヒーロー振りが気にはなるし、そんなに優秀なのかよというツッコミも入れたいのだが、単純にエンタティンメントとして楽しめば、結構面白いだろう。

×「超・殺人事件」東野 圭吾作 新潮文庫刊
超○○殺人事件というタイトルの短編集。で内容的には真面目な推理小説ではなくて、お笑いです。でやっぱりお笑いの難しさを痛感させられる一冊でした。面白くない。

△「閉ざされた時間割」「まぼろしのペンフレンド」光瀬 龍作 ハルキ文庫刊
これもジュブナイルで、まぁ名作ではありますし読んでいる人も多いと思いますので、古本で安かったしと云う事で、昔読んで忘れていたから読んでしまいました(笑)でもどうせ読むなら、前作「…アトランティス…」の方が面白い。

○「かれら、アトランティスより」光瀬 龍作 徳間文庫刊
もちろん、古本です(笑)でこれはジュブナイル。高校生が主人公のタイムトラベルもの。未来に人間がアトランティスに行って、そこの王族を未来(とはいえ少し前の現代)に飛ばしてしまい。過去(アトランティス)を乗っ取ろうとするのを阻止しようとする主人公達ですが、巻きこまれ型の話なので、そういったバックボーンがわからないままに話は進んで行きます。だからでしょうが、どうなるのか期待が持てて楽しめました。

△「奇術師」クリストファー・プリースト作 吉沢嘉通訳 ハヤカワ文庫刊 世界幻想文学大賞受賞
電気が発明されて実用化されだした二十世紀初頭に二人の天才的な奇術師が争って、相手を蹴落とそうとしたりしたせいで、憎み無い、それでも仲直りしようとする機会はあるのだが、結局は敵対関係が続いているという二家族の話しである。奇術というよりはイリュージョンの話しなのだが電気の魔法性が瞬間移動機の作成及び完成へと導き、それを使って奇術をする。それが奇術なのか?とツッコミたくもなるけれども、タネも仕掛けもあるのだから、それは奇術です(笑)もう随分前に読んでもので内容も忘れかけているけれども(オイッ)まぁ映画化されるらしいので、映画が面白かったらこの本も売れるかもしれません。

2004/05/05
もう溜まってしまって、随分書いていなかったから忘れてしまった(笑)

○「妖魔王」菊地秀行作 光文社文庫刊
私の好きな工藤明彦 妖魔シリーズの11作目。今回は「稲葉の素兎(白兎)」を題材に大黒様まで登場する少し毛色の変わったストーリー。人間っぽい大黒様と素兎を狙うワニ=鮫(鱶)から素兎を守る約束をしてしまう工藤が戦う。前回の話しを読み飛ばしているらしく、工藤がドッペルゲンガーを駆使して戦えるまでになっている事を知らなかったが、相変わらず登場する強い人間が大勢いる。少しエッチなストーリーと、はらはらドキドキの展開とがやっぱり面白い。

△「遺伝子インフェルノ」清水義範作 幻冬社文庫刊
テレビで放映されている「200X年」の小説版の様相を呈している小説です。NFC(近未来研究局)という政府機関と警察とが事件を追いながら、未来の予想をしているというような話なんですが、出てくる小道具や設定は早ければ5年後くらいには実用化されているのかも知れないと思えるような物もあります。もっとも設定は2050年頃という事らしいですが、未来の事件を追いながら、「これで良いのか人類」とあまり大上段に構えないで書かれた話だったかな?(笑)

△「魔剣士 黒鬼反魂篇 妖太閤篇」 菊地秀行作 新潮文庫刊
美しい。という表現が男性に対してかける言葉かどうかはさておき、そういう設定の奥月桔梗が主人公の時代小説。とはいえ菊地秀行の作品だから、「魔」物です。主人公は生ける死人であり、登場する人物達も強い。織田信長が死んでから派生するゾンビの戦いみたいなもんです。一応2冊で終りだと思うけれどひょっとしたら続くかも知れないという終り方ではありました。時代物だけに戦国時代の忍者やらも登場し、その術は人間技ではありません。そういう輩と戦う主人公もまた人間ではないのですが、荒んだ戦国の世にも人間らしくありたいと思い始める主人公は、妖怪人間とも通じるものがあるのかも知れない(笑)まぁ菊地ファンならば読んで損はないでしょう。

2004/4/11
またサボってしまいました(笑)溜まらないうちに書かないと忘れてしまう。

○「OKAGE」梶尾 真治作 新潮文庫刊
私が好きになってしまった作家の本である。「黄泉がえり」の本の売れ行きからだろう。昔発刊になったが、再版されずにいた本の再版物でもある。これは今まで読まなかったが、読みたいと思っていた読者にとっては嬉しい限りだ。作者得意の時間物SFではないが、子供達が突然に家庭から失踪してしまうというところから、ラストでは地軸の逆転(こんな事書いていいのか?)なんていう途方も無い話になっていく。地軸が動くという話しは私が小学校の頃に先生が説明してくれたくらいだから、昔からあったのだろうが、地軸が動くという事で地球が被る被害というか災害の大きさには驚いてしまった。黄泉がえりで生き返る人達と今生きている人達との再会というか、愛の物語の感動を味わった読者は、今回はそういった感動は味わえないからそういう期待を抱いて読むと面白くないかも知れない。でもこの話しは面白かった。災害に遭う前に子供達に見えるという幻獣達と子供の関係や、子供を愛するあまりにどこまでも後を追い続ける母親。そして行く手を阻もうとする破壊的な敵。ラストでは結局壊滅的な打撃を受ける地球に残されてしまう子供達なのだが、それを守る為に現れるであろう人物のストーリーとの関係。これは流石に書いてしまうと、これから読もうと思っている人に申し訳ないから書かないけれども、色んな人が色んな関わり方をしていて、楽しくなってきてしまう。SF好きにはお奨めの一冊である。

○「四日間の奇跡」浅倉 卓弥作 宝島社文庫刊 「このミス」第一回大賞受賞作
本の帯には「感動の声続々」なんて書いてあるし、「魂の救いのファンタジー」とも書かれている。でミステリーである。ミステリーの定義というのはミステリー愛読者に言わせれば、SF愛読者と同じように何でもありのようだから構わないのだが、私はこれをミステリーとは思えなかった。謎なんて無いんだもん。ストーリーは将来を約束された凄腕(笑)のピアニストが外国で腕を磨いている時に、事故に合った日本人を救った時に指を失ってしまう。つまりピアニストとしては再起不能になってしまうのだ。そしてその時事故にあった日本人達家族の中で唯一生き残った女の子を日本に連れて帰るのだが、彼女には身寄りが一切ない。そして自閉症のようでもあるのだが、医学的のは問題がない。ただ脳の機能が部分的に著しく働いていないという。そんな彼女を主人公一家が面倒をみて行く。読み始めていくうちに、この障害者である女の子が奇跡的に回復する話しなのかなぁと考えてしまったのだが、流石にミステリー応募作品だけあって、単純ではなかった(笑)この少女は、ピアノの曲を一度聞いただけで、メロディを覚えてしまい、練習させるとメチャクチャ巧い。楽譜は読めないし曲名だって覚えられないのだが、一度覚えた曲は弾きこなせるのだ。まぁダウン症の子にそういった子供は多いのだが、まぁ確かに奇跡的なことでもある。で、そういう事が奇跡ではなくって、その少女が別の事故にあってそれから一緒に事故にあった女性と魂が入れ替わってしまうという、まぁ転換物なのだが、それを感動的に纏めているという。少し語られすぎたストーリーでもある。だからかも知れないが私には凄く感動した話しだとは思えなかった。多分、ピアニストを諦めきれずにいた主人公がラストで立ち直っていく姿はまぁ感動物だなぁと、少し離れた位置で読んでしまったからだろう。

2004/3/21
わぁっ。随分更新をさぼってる。なんと前回から1ヶ月以上経過してるじゃないですか(笑)最近読書のスピードが遅くなっているとはいえ、読後のサボリは以下の3冊になっています。

○「突破 BREAK」西村健作 講談社文庫刊
続けて西村健の作品を読んでしまったからだろうか。前作の「脱出」と比べてしまうと少しテンションが落ちた感じがする。オダケンシリーズの3作目という事なのだが、今回の主人公は、美女と野獣コンビの探偵であり、毎回登場する恐いヤクザの親分が今回は可愛くさえ見える。(笑)この親分の依頼(浮浪者の「博士」の依頼もある−そういえばこの作品には浮浪者が必ず登場して重要な登場人物として描かれているのも面白い)から行方不明のヤクザを探すというストーリーなのだが、登場人物はメチャクチャ面白い。主人公の一人である大文字一徹は、野獣というよりは怪物である。もう最後は機動隊もなぎ倒し、機関車(古いがそういう感じなのだ)が駆け抜けて行くようでさえある。あまりの凄さに観ている人は唖然とするばかりだ。しかしこういうハードボイルド?を無口の一徹の変わりに話しを引っ張っていくのが、もう一人の主人公である一徹の幼なじみでもある大蔵官僚を辞め一徹の助手として働く誰が見ても美女で才女で人当たりも良いから誰からも好かれる万季なのだが、そういうか弱い女性の立場から書かれてしまうからだろうが、ストーリー展開の面白さが半減してしまっているように感じる。連続殺人事件に振りまわされる警察や、緊迫感が前作や前々作から比べてしまうとトーンが落ちているように思える。とはいえ荒唐無稽なオバカなストーリー展開は相変わらずで面白い。…でも次回に期待しよう(笑)

◎「脱出 GETAWAY」西村健作 講談社文庫刊
「ビンゴ」に続き、オダケンシリーズの2作目。前作ではバー「オダケン」のマスターである小田健が主人公だったが、今回はこの「オダケン」にも客として来る下っ端ヤクザの志波銀二が刑務所から出所してくると彼女が麻薬漬けになっていて死んでしまっていて、それの敵討ちという事で悪徳警官を射殺してしまう。ところがこの事が政治がらみの勘違いもあって、警官だけじゃなく、自衛隊やら傭兵やらからも命を狙われ、拳銃だけじゃなくて、戦車から攻撃ヘリまでが出てきて銀二を狙うのだ。しかしこの銀二が強い。もうめちゃくちゃである。以前自衛隊にいたという設定ではあるが、痛快なんていう言葉では表わしきれないほどの強さである。とにかくこの作品に登場する男どもは皆強いのだ。普段自衛隊で人を殺したいと思っている人達が銀二を狙ってくるのだが、そんな奴ら、屁とも思わない銀二の強さ。本当にこんなめちゃくちゃなストーリーがまかり通って良いのだろうかと思える程の展開である。もうマンガの世界なのだ。ストーリーも本の厚さに比例して面白くって、途中登場する銀二を慕うようになる女性も魅力的であり強い(笑)もう絶対これは読まなくてはならない作品である。

◎「川の深さは」福井晴敏作 講談社文庫刊
「Twelve Y.O」「亡国のイージス」とヒット?を飛ばしている作家の作品ではあるが、去年の夏に発刊されているから最新刊とは言えないかも知れない。で今までの系譜をそのまま辿っている作品かといえば、なんと処女作でもあり、「Twelve Y.O」の前段階とでもいうべき作品である。だから私の好きな今までの作品とも同じ系統であり、期待してしまった。でその期待は裏切られる事もなかったのだが、続編とでも言える作品を読んでしまっているからだろうが、コンピュータウィルスを使うんだろうなぁという予想通りの展開になってしまったのが少し残念である。しかし処女作だけあってなのか、アメリカべったりの自衛隊は憲法に合わないから軍にしようなんて言っている今の政治と、自衛隊であるからこその矛盾点を突いていて、これから日本の取るべき道は何なのかを問うという形式は変わらない。非常に面白いのではあるが、展開がやはりこなれきっていないというべきか後の作品と比べてしまうからだろうが、少し物足りなさを感じてしまった。とはいえこれは面白い。

2004/2/15
◎「飛雲城伝説」半村良作 講談社文庫刊
この話しは未完である。亡くなってしまった作家の作品ではあるが、途中で終わってしまったのではないらしい。途中で終わらせたというのが正しいようだ。解説を読むと「伝奇小説は終わらないように書いていくものなのだ」という作家の言葉があるが、確かにこの作品のスケールの前では完結出きる作品なのだろうかという疑問が出てしまう。それだけ壮大なのだ。登場する美女の鈴女と彼女に拾われて後で子供として認知される捨丸。彼らだけでなく、彼らを取り巻く登場人物達の生き生きとした魅力が溢れていて、この先はどうなるんだと読み進んでしまう。鎌倉時代から戦国時代ともいうべき時代背景なのだが、そこは架空の世界であって、歴史とは違う世界でもある。そんな中で自分達の生活の為というか民衆の為に城主になる鈴女とそれを盛り立てる脇役達。そんな彼らが廻りの国々からの脅威にさらされて生き抜いていこうと奮闘する姿は楽しくなってしまう。そんなストーリーが一転して、突然登場する戦国時代に活躍したであろう有名な人達(織田信長や徳川家康なども出演する)や天皇とでも思える人や北方民族。そんな主人公的立場であった彼らはストーリー展開の中から少し追いやられ、神々の戦いへと話しは移って行く。だからこれから一体どうなるのか興味深々なのだが、未完なのだ。続きが読みたいのだ。でも続きを書いてくれる人はいない。この悔しさは面白ければ面白い程感じてしまうが、この悔しさを味わいたい人は是非読んでみて下さい。

2004/2/1
久しぶりというか、随分サボっていたから、読んだ本も溜まってしまった。忘れないうちに、どんな本だったか書いておかなくっちゃ(笑)

◎「ビンゴ」西村健作 講談社文庫刊
新宿ゴールデン街の酒場のマスタである小田健(店の名前もオダケン)が主人公のハチャメチャなアクション物というかサスペンスというか、冒険物である。店の売上が殆どないから、新宿地区限定の事件屋をしていて、客の依頼を受けては何とか食いつないでいる。その客も猫がいなくなったから探して欲しいとか、近くに公園が欲しいとか、店の空きビンがたまに無くなるのを調べて欲しいとか、自分のアパートの下宿人の様子がおかしいと苦情が出ているので調べて欲しいなんていう依頼ばかりなのだが、実はこれらの調査依頼は全て繋がっていて、政治家から土建屋、暴力団に傭兵なんていう危ない人間の関わる事件にクビを突っ込むことになり、それをスーパーマンの如く解決して行くという、まぁ少し出来過ぎたお話なのだが、これが面白い。登場するくせのある人物達も魅力的だし、ストーリー展開とそのスピーディーさも魅力的な作品である。文句なくお勧め。

○「あなたに捧げる犯罪 ラブ・クライム」菊地秀行作 講談社文庫刊
菊地ワールドではあるが、魔界都市シリーズのような世界ではない。普通に小説家が書く?短編集である。しかしやはり菊地ワールドであり面白い。ラブストーリーもあればホラーもあり、短編を書きたい人にはお勧めの一冊だろう。

◎「異次元神話」豊田有恒作 集英社文庫刊
昭和60年刊だから、もう随分昔の作品なのだが、未だに面白い。それなので思いきって◎にしてしまった。超能力物であるのだが、ラストではそれが神話として形成されるという離れ業を行ってしまう。小松左京氏の「エスパイ」は超能力物の古典SF?として有名ではあるが、これもそれに劣らない。小説の中には第4の核ともいうべき核爆弾も登場するのだが、これが何とライフルで射撃出来てしまえるという恐ろしいものでもある。ある事故を切っ掛けに超能力を身に付けた主人公の廻りには、二つの超能力集団が現れ、彼を自陣に取り込もうとするし、どちらが正しいのやらも判らない。正義って何だという。そういった意味も含めてのストーリーになっていて、世界各国の思惑も絡んでくる。おぉっと思わせる壮大な話が好きな人には是非お奨めです。

△「マグナム伝説 モザイクの裏の真実」丸茂ジュン作 徳間文庫刊
丸茂ジュンの作品であるから、エッチである。というか下ネタの話だ。巨根男優として名を馳せたAV界の人間の半生記とでもいうべき、インタビュー形式での回顧録である。まぁエッチな物が好きな人なら面白いと思うかもしれないが、私とは掛離れた人生でもあるので、羨ましい限りの女性遍歴でもある。

○「花神」上・中・下巻 司馬遼太郎作 新潮文庫刊
期せずして「ラスト・サムライ」の頃の話だが、今年のNHKの大河ドラマの原作かと思っていた(笑)主人公は大村益次郎。誰だそれ? って思う人だっているだろう。私だって名前位しか知らなかった。登場する人物は、幕末に有名になっている人(笑)総出演である。普通こういった時代小説の主人公というのは、志を持ってそれに向かい一生懸命努力したりして、波乱万丈の人生を歩んだりするのだが、この主人公に限ってはそんな事はない。田舎の昔ながらの医者であり、これからは蘭方医だというので蘭学を学んでいく。勉強は一生懸命にするので上達し、有名にはなるのだが、彼は人付き合いが悪く余り良くは見られない。郷土愛とでもいう国を愛している彼は、日本の為というよりは郷土の為に請われて外国の戦術の本を訳したりしているのだが、最後には日本の陸軍を作りあげるまでになっていくという話である。主人公は最後まで自分を通すのではなく、理論的に導かれる結果がそうであるからという理由で行動をしていき、その為に人が動くのは当たり前という考え方だから、他人のと衝突は避けられない。まぁ先進的ともいえるのだが、この頃の人には当然受け入れられないでいる。馬にも乗れない刀も差さないという主人公であり、幕末の動乱を生き抜く人というイメージから掛離れているからなのかも知れないがこの小説には面白みというか、そういった物が足りないと感じてしまう。とはいえ幕末から明治維新にかけての、時代背景の勉強には心強い一冊になっていて、ラストサムライを見て、あの時代背景のいい加減さが果してどんなものなのかを知りたい人にはお勧めである。

○「長靴をはいた犬」山田正紀作 講談社文庫刊
ペロー童話の「長靴をはいた猫」のタイトルもじりではあるが、中々タイトルとの相性もぴったりの話だった。「神曲法廷」の続編になっていて、あの作品で探偵役をしていた検事の佐伯神一郎(あの事件で辞めてしまっている)が神性探偵という呼ばれ方で、探偵役を務めている。しかもこの作品での佐伯は前回の事件の後遺症とでもいうのだろう、ホームレスとなっていて事件に関わる。で、神性探偵とは何ぞや。という事なのだが、実は犯人にあった途端にこの人が犯人だと判ってしまうのだ。何だそりゃ。と思ってしまうのだが、「天の声」が聞こえてくるのだという。で何故この人が犯行を犯しているのか。又どうやってといった謎解きである。勿論コロンボの様なストーリー展開(始めに犯人が事件を起すのを視聴者は知っていて、その犯行を推理していく形式)と同じように、読者は知っていたりするけれど、その読者の上をいっているという設定の探偵なのである。そんなの面白いのかよと思われるかも知れないが、これが面白い。最近SFを書かない作者ではあるが、推理小説界でも異端児のような位置付けでもあり、今までにない推理小説の分野を切り開いていこうとしているような作者が、これからどんな作品を生みつづけていくのか期待してしまっている。