(6)
澄み切った音色、生き生きとした音楽、オ-ケストラの素晴らしさ、どれをとっても素晴らしいと思いました。
メニュ-イン絶好調です。特に、2楽章はこれ以上のものは考えられないと思います。1楽章も見事、3楽章も気合十分です。気合と晩年にみられる精神性、双方が融合した、素晴らしい演奏だと思いました。
ベ-ムは、ライブで燃えると言われているそうですが、その気合がメニュ-インにも乗り移ったか、またはメニュ-インの気合がベ-ム移ったか、という感じです。
数多くあるメニュ-インのベ-ト-ヴェンの協奏曲録音の中でも、最上位に位置するの ではないでしょうか?
是非聴いてみてください。」
(7)は前半2楽章がやや退屈だが第3楽章は悪くない。その意味でこの曲の第3楽章や他のステレオ初期の協奏曲の一部と小品を収めた仏EMIの"Yehudi Menuhin Le Violon du Siecle"という2枚組のCDがお薦め出来る。
(8)の実演についてイギリス元首相エドワード・ヒースは著書『音楽−人生の喜び』(別宮貞徳訳)で次のように書いている。「私の記憶にあるコンサートで、ほかのどれよりもすばらしかったのは一九六三年九月二十八日にアルバート・ホールで開かれた。(中略)音の純粋さ、様式の幅の広さ、解釈の深さが、私をホールから別の世界へ運び去ってしまった。こんなベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲はもう二度と聞けないのではなかろうか。その日一日限りではなく、生涯を通じて私の心に残る体験だった。メニューインの手の中で、音楽は人間の諸価値の体現となった。」
グレン・グールドもこの演奏をラジオか何かで聴いたのか「スタンダードな協奏曲のレパートリーによるかれ自身のもっとも注目すべき解釈は、同じく高名なヴァイオリン奏者ダヴィド・オイストラフのためにかれが指揮したか、あるいはオイストラフに指揮をしてもらったかによる演奏のなかにある。」(『グレン・グールド著作集2』ティム・ペイン編、野水瑞穂訳、初出『ミュージカル・アメリカ』1966年12月)と書いている。
カップリングはメニューイン(指揮)、イーゴリ・オイストラフ(ヴァイオリン)、ダヴィド・オイストラフ(ヴィオラ)のモーツァルト:協奏交響曲。
このライブ録音をラジオで聞いたグールドが、やはりオイストラフだかメニューインだかどっちだかわからなくなっているわけですね。私も同じ間違いをくり返したわけです。本当にこのベートーヴェンについては、これがオイストラフの演奏といわれれば私は信じてしまうほど二人の演奏はよく似ています。
そしてつくづく、メニューインのこの演奏なしに、オイストラフのクリュイタンス指揮の録音はあり得なかっただろうと思いました。
メニューインの演奏はすんでのところ豆腐のように崩れてしまいそうなぎりぎりの熟成に達しているように感じます。これ以上、ゆるむことも緊張することも許されない危うい均衡の上に立つ演奏です。本当に険しい稜線の上を慎重に歩んでいる、そんな感じです。すべての協奏曲のなかで、この極みに至ることができるのはベートーヴェンの協奏曲のこの演奏方法だけであり、これを聞いたグールドも、指揮をしたオイストラフも、ベートーヴェンはこのやり方以外絶対にあり得ないと確信したに違いありません。
!!!!! 星5つの傑作ですね!」
(11)は深みのある非常に感動的な演奏である。(9)とは対照的に音色も美しく(私の知人は「超俗の美音」と評している)技巧の衰えによる聴きづらさもほとんどない。東京文化会館の音楽資料室でLPを聴くことが出来ます。
2. ブラームス:ヴァイオリン協奏曲
(1)Schneevoigt/ニューフレンドオブミュージックo. 1940年12月2日ライヴ(DOREMI DHR-7781/2 )★★★
(2)ボールト/BBCso. 1943年4月放送録音(BBC Music Magazine 1997年9月号付録)★★☆
(3)フルトヴェングラー/ルツェルン祝祭o. 1949年9月(EMI References 7634962)★★★
(4)アルヘンタ/スペイン国立o. 1956年6月ライヴ(rtve 65097 "Grabaciones Inedites Ataulfo Argenta" 4枚組)★★★
(5)ケンペ/ベルリンpo. 1957年9月(東芝EMI;EMI"Encore"7677662;HMV Classics他)★★★
(6)マズア/ライプチヒ・ゲヴァントハウスo. 1982年9月ライヴ(VHS:東芝EMI 廃盤)★★★★
[カデンツァ:(1)エネスコ (2)〜(5)クライスラー]
(1)も(2)に似た演奏だが、より輝かしい。
(2)はやや大味で技巧もやや不安定な所があるが、透明で輝かしい音色とスケールの大きな音楽、第3楽章の情熱はやはり素晴らしい。
(3)は音色の透明感がなく演奏も一本調子なところがあるが、凄絶な気迫に圧倒される。どこかSP期のシゲティ/ハーティ盤に通じるものがある。そこら辺がメニューインが嫌いな人にも人気がある理由かもしれない。
(4)は録音が非常に鮮明で(4)同様この時期のメニューインの細身だが透明で輝きのある音色を伝えている。演奏はすごい気迫だが、技巧の衰えのせいか第1楽章の前半リズムの乱れが気になる。後半は例によって持ち直すがカデンツァで元に戻ってしまう。第1楽章のゆっくりした叙情的な部分はなかなかよく(4)に匹敵する。第2楽章はいまいち。第3楽章は迫力不足(それでいてここまで聴かせてくれる演奏は他に考えられないが)の(4)と対照的である。
(6)はベートーヴェン(8)に準じる出来で音程も確かだが、さすがに重音がやや苦しい。MITTENWALDで見ることが出来ます(会員制)。
3. バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番
(1)ドラティ/ダラスso. 1946年1月(RCA Legendary Performers 09026-61395-2)☆
(2)アンセルメ/SRO 1947年8月16日ライヴ(Music & Arts 1053)★★★★
(3)フルトヴェングラー/フィルハーモニアo. 1953年9月(EMI References 7698042)★★☆
(4)ドラティ/ミネアポリスso. 1957年2月(Mercury 434 350-2)★★
(5)ライナー/シカゴso. 1957年10月ライヴ(CSO CD96B/2)★★★☆
(6)ドラティ/ニュー・フィルハーモニアo. 1965年2月(EMI)★★★★☆
メニューインはイギリスや旧ソ連での初演を行っている。
(1)は同曲最初のスタジオ録音。「神童」渡辺茂夫がレコード・コンサートで聴いて、日記に「深みのない演奏だった」と書いたという演奏である。
(2)は録音が悪いが、技術的に優れている。
(5)はシカゴ響自主制作盤。2枚組の「フリッツ・ライナーの時代Vol.2」。シカゴ響の公式HPで注文出来る(今も在庫があるかどうかは不明)。第1楽章冒頭こそ技巧が不安定だがそれ以降は安定する。(メニューインorこの曲の)ファンには一聴の価値あり。
4種のスタジオ盤の中では(6)が圧倒的にすぐれている。技術的にも安定し、細身だが透明な音色。
(1)のNaxos盤はエルガー:ヴァイオリン協奏曲(1)との組み合わせ。Biddulph盤は"The Early Victor Recordings"というタイトルで、1928-29年のメニューイン最初の録音(小品集)との組み合わせ。AVID盤はバッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲(1)、メンデルスゾーン(1)との組み合わせ。
神童期の録音で超絶技巧と高度な音楽性と優しさを感じさせる演奏。
(2)は"Menuhin Plays Bruch, Handel, etc"というCDで、ヘンデルのヴァイオリン・ソナタ第4番、第6番、バルトークのルーマニア民族舞曲等の小品との組み合わせ。音質は非常に悪い。
(3)はメンデルスゾーンとの組み合わせ。ミュンシュに合わせて情熱的な演奏だがボウイングの衰えが出始めている。
(4)はメンデルスゾーン(3)との組み合わせ。以前出ていたCDは音に透明感がなかったが、"100 Years of Great Music"シリーズではLP同等の音質になった。"GREAT RECORDINGS OF THE CENTURY"シリーズの新盤ではart(Abbey Road Technology)処理されている。
線は細いが音色は綺麗。クルツとのメンコンに比べるとやや落ちる。
(5)は音色に魅力がなく技術も弱い。
(1)のEMI盤はドヴォルザーク(1936年2月、★★★★☆)との組み合わせ。AVID盤はバッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲(1)とブルッフ(1)との組み合わせ。第2、第3楽章が特にすぐれていてこれ以上の演奏は考えられない。
(2)はナクソス盤の方がEMIよりもずっと音質がいい。ナクソス盤で聴くと輝かしい音色。
(3)はカップリングのブルッフ(4)同様"100 Years of Great Music"シリーズで音質が向上した。"GREAT RECORDINGS OF THE CENTURY"シリーズの新盤ではart(Abbey Road Technology)処理されている。ヨーロッパでは大変人気がある演奏。透明な音色でよく歌った演奏。
(4)は線が細く技巧が衰えている。
6. ラロ:スペイン交響曲
(1)エネスコ/パリso. 1933年6月(EMI References 5659602 3/Naxos)★★★☆
(2)モントゥー/サン・フランシスコso. 1945年1月(Strings;RCA 09026-61395-2)★
(3)フルネ/コンセール・コロンヌo. 1947年4月(LP:HMV)★★
(4)グーセンス/フィルハーモニアo. 1956年9月(EMI)★★★
すべて5楽章版。メニューインは(1)の出来に不満があり、1940年にオーストラリアで再録音を計画したが実現しなかった。
(1)は音がうわずっている部分もあるが輝かしい音色でみずみずしい演奏。
(2)は大味な演奏
(3)は第3楽章で暴走する以外は(1)より安定しているが、演奏にいまいち生気がない。
(4)は輸入盤では10枚組のボックスに収録。細身の透明な音で明るい演奏。
(1)のEMI盤はエネスコ指揮の協奏曲第1番(1936年2月、★★★☆)、協奏曲第2番(1933年6月、★★★★)、シャコンヌ(1934年5月、★★★★☆)との組み合わせ。エネスコが本調子でない気がするがメニューインは輝かしい。
(5)のHMV Classics盤は協奏曲第1番★★☆、協奏曲第2番★☆(1958年10月)、フルート、ヴァイオリン、チェンバロのための協奏曲★☆(fl:ベネット、cemb:マルコム、1965年6月)との組み合わせ。ステレオ初期にしてはクルツとのメンコンなどと比べて良くない。
(7)のLPはアビー・ロード・スタジオ開設50周年記念盤。カップリングの協奏曲第2番、ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲(ob:キャムデン)も★。
(8)はクライスラー/ジンバリストに匹敵する名演。カップリングはモーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」、エルガー:序奏とアレグロ、バルトーク:弦楽のためのディヴェルティメント。
(9)と(10)は地味だが滋味に通じる演奏。技術もボウイングがスムーズになっている。
面白いことに新しい録音ほど省略が多くなる。
(1)についてははアイザック・スターンが自伝『My First 79 Years』(ALFRED A. KNOPF 1999年)で絶賛している。直訳すると「私はまた、イェフディ・メニューインによる、信じられないほど清澄で美しく精密で、未だに驚くべきパガニーニのヴァイオリン協奏曲の録音を聴いたことを覚えている。その録音は彼がパリでピエール・モントゥーとたった13歳か14歳の時に行ったのである。そしてその録音は1回のテイクで、1回の通しで行われた。録音が終わった後モントゥーは彼を抱きしめ、メニューインは喜んでホテルへ帰っていったのである。」
実際には18歳の時の録音である。音がうわずっているところもあるが超絶技巧と輝かしい演奏。ほぼノーカットで第1楽章のオーケストラの長大な序奏も省略されていない。
『デイビッド・ダバル対談 メニューインとの対話』(伊藤惠以子訳 シンフォニア 1995年)でメニューインが「エネスコは、ニ長調の協奏曲のウィルヘルミ編曲による第一楽章だけが演奏されていた当時、パガニーニの音楽を教え、彼の作品を勉強させました。エネスコは、全曲を弾くべきだと言いましたが、勿論、それは途方も無く大変な事でした。パガニーニの作品は何曲も演奏しましたが、エネスコの指導に対して今でも感謝しています。」と語っている。
(3)は技術は衰えているが明るい演奏で音色も綺麗。フランチェスカッティ、レビン、シャハム盤同様、第3楽章後半の私の好きな部分がカットされてしまっている。
(2)は特にその第3楽章がさわやかでイマジネーションあふれる素晴らしい演奏になっている。(1)の輝かしさはないが、荒っぽさがなくなり技巧も安定している。輸入盤EMIの10枚組のボックスに収録。民音音楽資料館(JR信濃町)で聴くことが出来る。
(1)は完璧な技巧。じっくりしたテンポ。第2楽章の深みも凄い。
。
(2)のカップリングはディーリアス。10枚組のボックスにも収録。技巧は衰えているが、音楽をよく把握していると感じさせる演奏。
(3)はボールト80歳バースデー・コンサートのライヴ。第3楽章は技巧の衰えがひどくて聴いてられないが、前半2楽章はなかなかの名演。特に第1楽章後半の高揚感が聴きもの。ボールトの指揮も(2)よりずっと良い。
(1)のタイトルは"Violinsonaten, etc."で、ヴァイオリン・ソナタK.376、K.526等との組み合わせ。戦中の録音だが戦前に匹敵する調子。輝かしい。まるでモーツァルト自身が弾いているような演奏。
(4)はヴァイオリン協奏曲全集(真作のみ)+協奏交響曲(va:バルシャイ)の内の1曲。この全集の中では第7番(未CD化。メニューイン祝祭管との演奏とは別。)と同様調子がいい。他の曲は★☆。
メニューインはトスカニーニに対して「モーツァルトは七曲書いたのです −そして七番目のが一番圓熟してゐて、また全部のうち最大のものでせう。」と語り、実際に演奏してみせたという。(『レコード音楽』1951年10月号 マアセル・グリリ* 石坂潔訳「イェフディ・メヌーイン」)*マルセル・グリリは占領軍の准将(文化担当)だった人。
(1)は第3番(1935年12月、★★☆)、偽作のアデライデ協奏曲(モントゥー指揮、1934年5月、★★★★)との組み合わせ。戦前のメニューイン最高の録音の一つ。
(2)は全集の中では調子がいい方。
(3)は技巧が衰えているが音色は綺麗。
(1)はクライスラー編曲版。録音が悪くてメニューインの美音がいまいち堪能出来ない。技巧は前半やや不安定だが後半持ち直す。
(2)は技巧の衰えもあるが音色が綺麗で深みがある。
★★★☆